~迷子1~
私は迷っている。そう、迷っているのだ。
草木が生い茂り、道と呼ぶにはほど遠い、何かが通った跡だけがある、猪だろうか、はたまた鹿?私の前に用意されたヒントはそんな不確定なものしかなかった。ただ、私に残された道はこの不確定な道を辿って行くことだけだった。生き物の作った道ならば、きっと水辺につながるはず。そう信じるしかなかった。
はっきりと言おう。私は迷っているのだ。
「ここは、どこなのぉぉぉぉ」
不意に叫びたくなった。ただ黙って、不確定な道を進むことに恐怖を感じてきたからだ。
心から、お腹の底から、声を出せば自然と心が落ち着く。私がまだ何もわからない子供だった頃大好きだったおじいちゃんが教えてくれた事だ。声を出すと喉が乾く、鞄の中からペットボトルに入った水を取り出す。中身は五分の一といったところか、いよいよピンチになってきた。この状況で水を失うという事は死を意味するのだ。
キャップを開け、少しだけ口に含む。口の中はまるで高野豆腐のように水を吸い込む。口の中を十分に潤わせた後、一気に飲み込む。
「ゴクッ」ものすごくいい音がした。普通なら感じられない、水を飲んだ時の幸福感。私達は普段、当たり前のように水を飲む。蛇口をひねればいつでも好きな時に、水を飲めるのだ。だからこそ忘れている。恵まれた環境にいるという事を。
永遠と続く森を彷徨って、どれくらいたつのだろうか。真上にあったお日様が傾いている。そろそろお日様が仕事を終え、夜勤のお月様と交代する時間だろう。そんな事を考えていると、私は一つのことに気がつき、思わず声に出してしまった。
「夜!?まずい、夜になると夜行性の動物達が狩りを始める。」