おおかみ6
斎藤さんが岩城学園の卒業生だった。
いや、岩城学園の関係者でなければ何でここで地縛霊もどきやってんだという話であり関係者なのは分かっていたが、卒業生だったというのはちょっとおかしい。
卒業していたということは、卒業アルバムが偽造でもない限り少なくとも在学中に死んだわけではないということだ。
つまり亡くなったとすれば卒業後。
ならば何故学園で制服着て幽霊やってんだということになる。
「というわけで何か知りませんか?」
「そう言われても卒業生全員は覚えてねえよ」
そこでずっとこの学園を見守ってきたヤンキーさんに聞いてみたのだが、反応は芳しくない。
そりゃ俺もヤンキーさんが学園在籍者全員覚えているとは思っていないが、あの鉛の海の上にあった空間に居たヤンキーさんのコピーは何か確信してたみたいだしなあ。
そういうわけで卒業アルバムの一部を携帯で撮影した画像を見せたのだが。
「おー、ひーちゃんじゃん。懐かしいな」
「ひーちゃんとな」
なんか目の前のいかついヤンキーからは似合わない呼称が飛び出してきた。
何?
まさかとは思ってたけど仲良かったの?
「ひーちゃん。名前が『一二三』って書いて『ひとみ』なんだけど本人変な名前だってんで嫌ってたみたいでな。そんであだ名でひーちゃん」
「あー」
確かに変わった名前だとは思うが、そこまで嫌うほど変だろうか。
まあ変わった名前だと色々苦労するのは俺もよーく分かってるし体験しているが。
それに「斎藤」というのも反応が薄いところを七海先輩が粘ってようやく聞きだせたものらしいし、もしかして下の名前は聞きだせなかったのではなく嫌いだから言わなかったのだろうか。
「というかヤンキーさんが見えてた。もしかしてふしぎ発見部の部員ですか?」
「おう。前後の二年間に他に部員が居なかったからな。そのせいで孤立気味だったし、見た目通り繊細なやつで寂しそうだったから、俺らもつい世話焼いちまってなあ。その点おまえら放っておいても問題ないから楽だわ」
「そりゃどうも」
言外に俺たちが図太いと言われたような気がするが、実際俺含めて三人とも神経が太い人間に分類されるだろうから文句も言えない。
そうでなければ変なもん見えるようになってんのに普通の生活とか送れない。
「やっぱりちゃんと卒業はしてるんですよね。何でうちの部室で地縛霊なんかに」
「あ? あの全然見えないうっすいやつ、ひーちゃんなのか?」
「少なくとも見た目は瓜二つですけど」
どうやら斎藤さんの存在は認知していてもどんな存在かまでは把握していなかったらしく、首を傾げるヤンキーさん。
そりゃ月紫部長でも未だにハッキリとは視えないらしいしなあ。
何であんなに存在が薄いんだ斎藤さん。
「いや。そりゃおかしいだろ。あいつ荒事は苦手だったが霊力だけで言えばおまえらより凄かったぞ。死んだら霊能霊になってるだろうし、あんな弱いわけがねえ」
「霊能霊?」
「あー。俺らが勝手にそう呼んでるだけだけどな。要は生前に霊能力者だったやつの幽霊だよ。元から霊力高いわ扱いにも長けてるわで、悪霊の類になったら厄介なんだよ」
「あー」
確かにそれは強力そうだ。
術使ってくる悪霊とか性質が悪すぎる。
「じゃあ他人の空似?」
「その割には言われてみれば霊力の質は似てるような。もしかしてひーちゃんの残留思念とか未練が自我持っちまっただけじゃないか?」
「そんなもんがホイホイ意志持つもんですか?」
「普通はないだろうが。この場所とひーちゃんならなあ。霊媒体質な上に式とか作るのに向いてたんだよ」
「うーん?」
仮にそうなら斎藤さんはひーちゃんと根は同じではあるが、既に独立した別の存在だということか。
それなら高い霊力を持っていたというひーちゃんがあれほど存在が薄い斎藤さんという存在になっているのも一応説明はつく。
むしろ薄いとはいえ自我持ってるのはひーちゃんが凄かったからか。
「え? じゃあそのひーちゃんは今も普通に生きてるってことですか?」
「だろうな。絶対とは言えないがその斎藤の存在がひーちゃんの死とイコールではないと思うぞ」
「……ちなみに今どこに居るとかは?」
「東京に進学するとは聞いたけど詳しくは聞いてねえな」
「そうですか」
そうなるともうお手上げだ。
進学先くらいは調べれば分かるかもしれないが、それ以上となると現地まで行かないと難しいだろう。
ヤンキーさんたちと仲良くなるくらい孤立気味だったらしいし、今でも連絡を取り合うような存在がこちらに居るとしたら家族くらいか。
だがいきなり訪ねて行っても娘の安否とか教えてくれるわけがない。
「東京まで調べに行くのもなあ」
何せここは田舎の地方都市。
気軽に行ける距離ではないし、そもそも養われている身では旅費が……。
「いや、旅費はあった」
マンションのシルキーの件を解決したときに貰ったバイト代があった。
学生には色んな意味で重すぎるので、鍵のかかる小箱に入れた上で箪笥の奥に厳重に封印している。
「……行くとしたら冬休みか」
行ったところで何か分かるとも思えないが、霊能が囁くというか行かなければいけない気がする。
それはそれで厄介ごとに巻き込まれそうな気がヒシヒシとするが。
「その前に宮間さんに報告しなきゃダメだよなあコレ」
あの鉛の海に居た女性や学校に似た空間を作ったのが斎藤さんだというのは俺の勘でしかないが、ヤンキーさんのコピーが言っていた通りオリジナルヤンキーさんも斎藤さんを知っていたということは本当に関係がある可能性がある。
というか俺がチマチマ調べなくても、深退組という組織の長である宮間さんなら人を使って簡単に調べられる案件だろうし、ここから先は委ねるべきだろう。
しかし先日犬神もどきの件には関わりませんとハッキリと宣誓した矢先な上に、確信がなかったとはいえ報告を一部怠っていたということになるわけで。
「……怒られそう」
どう言い訳すべきだろうか。
そんなことを必死に考えてしまうあたり、着実に宮間さんに苦手意識ができている気がした。
次回から愉快な妖怪たちによる完結型の日常回に戻ります
……日常?