ほぼ変質者
未成年者の一人暮らし。
フィクションならよくある設定だが、実際にそうあるものではないと普通なら思うだろう。
しかし意外にもと言うべきか、保護者である両親の許可があれば未成年者の一人暮らしというのは法律的にも問題ないらしい。
何故俺がそんなことを知っているかというと、現在絶賛一人暮らし中だからだ。
「……また置いてあるし」
朝になり新聞を取りに行こうと玄関を開けたら、紫色の風呂敷がでんと置いてあった。
中を見てみると季節の山菜や茸がわさっと。間違いなく亀太郎のおすそ分けだろう。
おまえはごん狐かとつっこみをいれたいところだが、俺と亀太郎では間違ってもあんな悲しいお話にはなるまい。
むしろ毒キノコとか混じってんじゃないかと全力で警戒している。
「しかしまた多いな」
見たことのない山菜もあるが、今の時代はネットという便利なものがあるので調理法くらいは調べれば分かる。
しかし前述した通り俺は一人暮らしなわけで、こんなに山菜をもらっても食べきれない。
むしろ現代にこれほど毎日山菜食ってる高校生とか俺以外にいるのだろうか。健康的で結構だが。
「……月紫部長山菜とか食べるかな」
結果。おすそ分けのおすそ分けを決心。
まあ亀太郎も「嬢ちゃんにもよろしく」と言ってたし問題ないだろう。
素直に受け取ってくれるかどうかはまた別だが。
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「山菜か。天ぷらは好きだぞ」
昼休み。
いつも通りに部室に来るといつも通りに月紫部長が居たので聞いてみれば、結構好感触な答えが返ってきた。
「じゃあこれどうぞ。亀太郎がくれたんですけど、俺だけでは食べきれないので」
「ありがたい。おお、筍まであるのか」
風呂敷に入れた山菜を受け取ると、珍しく他意のない笑みを浮かべており本当に山菜が好きらしい。
しかしおすそ分けは毎回あの風呂敷に入っているが、亀太郎はあの風呂敷を幾つ持っているのだろうか。
そろそろ俺の家に風呂敷がたまり始めてるんだが。
「……」
「どうしました……って」
急に無言になった月紫部長の手元を見れば、そこには土筆がつままれていた。
「土筆……嫌いなんですか?」
「いや、食べるのは好きだ。……好きなんだが」
何やら遠い目をする月紫部長。
この人がこんな顔をするのは珍しい。
「小学生のころ、春になるたびに男子に『つくしが生えてるぞ』『本当だつくしだー』とニヤニヤしながら言われてな」
「……」
あー、小学生男子ってそういうくだらないことしますよねー。
俺も時男というどっかの肉体派アイドルグループみたいな名前のせいで、よく「おまえD○SH島行かなくていいの?」とか言われたし。
「俺は月紫部長の名前好きですよ。綺麗でかっこいいしピッタリだと思います」
「……君は君でよくそんなことを真顔で言えるな」
何故かジト目で返された。解せぬ。
「失礼します」
「入れ」
何か変な空気になっていたところに、突然来訪者が現れる。
一瞬七海先輩かと思ったが、声は男のもの。一体誰かと思い入口に目を向ければ、そこには前髪を全て後ろに流し、眼鏡をかけた男子生徒が。
「ああ、街風か。どうした?」
「担任に呼び出されたので、放課後は生徒会に出るのが遅れそうなので連絡を」
「分かった。わざわざすまないな」
「いえ。丁度近くを通りましたので。では失礼します」
そう言うと男子生徒は頭を下げ、俺の方に一度だけ視線を向けると部室を出て行った。
何というか。事務的すぎて冷たさすら感じるやりとりだった。鬼畜眼鏡とかいうあだ名が似合いそうな男子だ。
「今のは生徒会の人でしたっけ?」
「ああ。生徒会の書記で名は街風尚也。君と同じ一年だ」
どうやら同学年だったらしい。
生徒会の人間ということは生徒会選挙にも出ていたはずだが、覚えていないのは月紫部長のインパクトが大きすぎたせいだろうか。
何せこの月紫部長が普通の恰好をして普通の女子っぽい話し方をしていたのだ。
普段を知っている俺からすれば異常事態だし、上級生の多くは笑いをこらえていた。
逆に就任挨拶で本性をだしたときは一年生がどよめいていたが。
「まあ機会があれば仲良くしてやってくれ。君と同じで友人は少ないらしいからな」
「いや、何で俺の友達が少ないことになってんですか」
俺だって休み時間はクラスメイトと話すし、体育で「はい二人組作ってー」と言われても困らない程度の付き合いはある。
休日に一緒に遊びに行くような友人はいないが。
「いるのか? 私たちのような異能者は本能的に忌避されるから、君もいずれぼっちになると思っていたのだが」
「何ですかその嫌な予言は」
大体いま孤立気味なのは、七海先輩が妙な噂を流すのに貢献したせいだ。
そんなことを考えていたら、箸でつまんでいたウインナーを後ろから食われた。
抗議の意味を込めながら見てみれば、そこには相変わらずどこを見ているのか分からない顔でもぐもぐとウインナーを咀嚼する斎藤さんが。
最近積極的だな斎藤さん。そんなに俺の弁当は美味いか。
相変わらず人の背中に張り付いたままの斎藤さんを眺めながら、残りの弁当を片付けるべく箸を動かした。
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「ずるい」
「……は?」
放課後。
特に滞りなく授業も終わり、いつも通りふしぎ発見部の部室に顔を出したのだが、開口一番何故か拗ねている様子の七海先輩に文句を言われた。
「何で部長とトキオくんが仲良く二人でお弁当を食べてるの? 私だけ仲間外れ?」
「えー……」
そこ? というか俺と部長は仲がいいというより、お互いぼっちなだけな気が。
……いや待て、俺はぼっちじゃない。今は学校全体の空気がおかしいから、戦略的撤退をしているだけだ。
「どうして私のところに来てくれないの!?」
「アンタは俺とどうなりたいんですか」
ただでさえ秒な疑惑を持たれているのに、一緒に弁当食ってたら本気で七海先輩のファンに殺されかねない。
「……ん?」
そんなことを考えていたら、ふと違和感を覚えて七海先輩の顔をしげしげと眺めてしまう。
「なあに?」
「……いえ」
ちょっと拗ねているようでいて警戒心のない素顔。そんな七海先輩の顔を、他の生徒たちの前で見たことがない。
異能は忌避される。そう月紫部長は言っていたが、七海先輩の場合は逆なのではないだろうか。
いくら人が周りにいても、どうせ本当の自分は理解されないと本性を隠して笑っている。
そして俺は同類だから、何の遠慮もせずに素顔を見せて笑っている。
……予想以上に面倒くさい人だな。
「ふむ。そんなに日向が望月と仲良くしたいなら、今回の事件は二人に任せるか」
「あ、おかえりなさい月紫部長」
拗ねてる七海先輩をなだめすかしている間に、生徒会に行っていた月紫部長が帰ってくる。
というか何で話の流れが分かってるんですか。また出てくるタイミング計ってたんですか。
「事件って、またですか?」
「ああ。と言っても今回は事件というよりは個人的な相談だ」
「個人的?」
「入っていいぞ」
「……はい」
どういうことかと思っていたら、どうやら誰か連れてきていたらしく部長の呼びかけに応えて部室へと入ってくる。
「あれ? 望月くん?」
現れたのは、毛先にゆるいウェーブのかかった栗色の髪の女子生徒。
不安そうに目を伏せていたのだが、俺を見るなり驚いたように目を見開いた。
どうやら俺を知っているらしいが。
「……誰でしたっけ?」
思わず疑問を発してしまった俺に、女子三人から冷たい視線が降り注いだ。
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「最っ低だよ、もっちー。名前が分からないならまだしも、クラスメイトの顔を覚えてないって何なの?」
「何なのと言われても」
腰に手を当てぷりぷりと怒っている女子生徒。中里佳穂。
どうやら俺と同じクラスだったらしいが、まったくと言っていいほど覚えがない。
というか「もっちー」ってなんやねん。何故に一部の女子は勝手に人にあだ名をつけた上に許可も得ずに呼んでしまうのか。
「中里さんとそんな顔合わせるようなことなかったし」
「私もっちーの二つ前の席なんですけど!?」
二つ前か。一つ空いてるから覚えてなくても仕方ないな。
「いや流石にそれはないと思うぞ」
七海先輩ならまだしも月紫部長につっこまれた。
どうやら俺のコミュニケーション能力には予想以上に欠陥があったらしい。
「とりあえず話を進めるぞ。中里の相談というのは、毎日帰り道で人間ではない何かに体を触られるというものだ」
「人間じゃない何か?」
ずいぶんと曖昧な表現だ。相手が見えないなら幽霊の類だと言うだろうし、見えているならその人間ではない何かを確認しているだろうに。
「そんな暇あるわけないじゃん。もう触られた瞬間家まで全力で逃げてるから、後ろを見る余裕なんてないし」
「そうよね。ちょっとトキオくんは女の子のことが分かってないみたいね」
「……」
さっきからアウェイ感が酷い件。
女三人寄れば姦しいとはいうが、何で俺が全面的に悪いみたいになってんの。
「じゃあ人間じゃないと断言する理由は?」
「触られるのは顔とか首筋なんだけど、たまに細長い蔦みたいなのがチラッと見えるの。蛇かなとも思ったんだけど、蛇なら先っちょに顔とか口とかあるでしょ?」
「蔦か……すねこすりでは無さそうね」
※すねこすり
名前の通りすねのあたりに体をこすりつけてくるもふもふした何か。
どう考えても猫ですよねとか言ってはいけない。
「そういうわけで、今回もそう危険な相手ではないだろうから、日向と望月に対応を任せたい。私はまだ生徒会の仕事が残っているしな」
「分かりました」
こうして俺と七海先輩で、中里の相談を解決することとなった。
また亀太郎みたいなエロ狸じゃないだろうな。
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「狸の可能性もあるわね。正体不明の妖怪のほとんどは、狸か狐が化けたものだっていう説もあるし」
そんな七海先輩の説明を聞きながら中里の家へと向かう。
中里が言うには、帰り道の同じ場所で顔を触られるらしいが。
「別の道を通ったらいいんじゃないか?」
「それは私も考えたけど、私ん家って袋小路にあるから無理なんだ。裏は田んぼで今は水がはってて通れないし」
家のそばが田んぼか。虫が多そうだな。むしろ幽霊とかよりも実害が多そうだ。
「それにしても、もっちーって幽霊とか見える人だったんだ。何で黙ってたの?」
「わざわざ教えるようなことでもないだろ」
何の脈絡もなく「俺幽霊見えるんだ」とか言い出したら間違いなく痛い人だ。
相手に見えない以上、本当だと確認する方法もないわけだし。
「……」
「どうしたんですか七海先輩?」
ふと見てみれば、七海先輩が少し驚いたような様子で俺を見ていた。
「いえ。トキオくんって同級生にはぶっきらぼうなのね。私や部長には丁寧な話し方だから意外で」
そうしみじみとした様子で語る七海先輩。
ぶっきらぼうとか初めて言われた。そんなにぞんざいだっただろうか俺の態度は。
「それはあれでしょ。七海先輩が彼女さんだから猫をかぶって……」
「俺はこんな中身が残念な人と付き合い始めた記憶はない」
相変わらず沈静化する様子を見せない噂話に徹底抗戦の構えを見せておく。
すると中里は少し目を見開くと、すぐにジト目になって七海先輩とこそこそと話し始める。
「先輩先輩。ぜんぜん丁寧じゃないですよ?」
「そうね。もしかしたら親しくなるほどぶっきらぼうになるのかしら?」
「ツンデレならぬデレツンですか。面倒くさいタイプですね」
「聞こえてるぞアンタら」
誰がデレツンだ。というか面倒くささではツンデレも変わらないだろうに。
「あ、ここ。ここの十字路を通り過ぎた辺りで毎回出てくるの」
中里が示したのは、特に何の変哲もない住宅街の道だった。
先の方は一見すれば開けているように見えるが、なるほど田んぼが広がっており回り込むことはできそうにない。
「おかしな所はないわね。トキオくん何か感じる?」
「今の所は何も。こちらの人数が多いから警戒してるのでは?」
目に見える範囲にそれらしき姿はない。
隠れているのか。それとも条件を満たすと突然発生するような妖なのか。
「そうね。……中里さん。申し訳ないのだけれど、一人で十字路を横切ってもらえるかしら。私たちは少し離れた場所で見張ってるから」
「え……だ、大丈夫なんですか?」
「心配ならそのまま家まで走って帰れ。今までは逃げきれてたんだし、大丈夫だろう」
実際下手にその場に残られるよりは、逃げてくれた方がやりやすい。
相手が話の通じないタイプだったら、二度とこの場に近づかなくなるレベルまでタコ殴りにする必要もある。
「うー……分かった。危なくなったらちゃんと助けてねもっちー」
「善処する」
俺の言葉を聞くと、中里は少し安心したように頷いた。
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「この辺りで待ってましょうか」
七海先輩に言われて、十字路から少し離れた場所にあった赤い箱の後ろに隠れる。
消火栓のホースを格納する箱だが、大丈夫なのかここで。二人そろって思いっきりはみ出してるんだが。
「さーって。今回は私も本気を出すわよ」
そう言って七海先輩が布袋から取り出したのは薙刀。当然先は刃物ではなく、木製の木刀のようなものだが。
恐らくこの薙刀も俺が月紫部長にもらったのと同じような特別性なのだろう。
ぶんぶんと素振りをしてやる気満々なのは結構だが、もう少し本気で隠れてくれないだろうかこの人。
「……ん?」
呆れながら七海先輩を見ていると、不意に視界に異変が生じた。
中里を見ている。しかしその景色は実際に目の前にあるそれとはブレがあって、すぐにその違和感に気づく。
上から見ている? ならこの視界の中にとらえたこれは……!
「中里! 上だ!」
「え!?」
発した警告に驚きの声を返したのはどちらだったのか。ただ確かなのは、警告は僅かに遅かったということだ。
中里が驚いて振り向いたタイミングに合わせたように、そいつは電柱の頂上から跳び、十字路の中央に降り立っていた。
「……な、なにコレ!?」
「……何だアレ?」
期せずして俺と中里の声が重なった。
そこに居たのは、細長いおっさんの顔にトカゲの胴体がひっついたみたいな二頭身の妖怪だった。
大きさ自体は1メートル半といった所だが、尻尾が異様に長く蛇のようにうねうねと揺れている。
「あ、あれは『びろーん!』」
「それ名前!? 名前なの!?」
※びろーん
全身がこんにゃくみたいにぶよぶよしている妖怪。
人の顔や首を撫でてくるが、塩をかければいなくなる。
「ちなみに裁判が終わったときに入口で『勝訴』とか書いて掲げる紙は、弁護士すら正式名称が分からないから『びろーん』と呼んでいるそうよ!」
「関係あるようでまったくない豆知識いりませんから!?」
「ぎゃー! きもいー!」
何故か人差し指を立てて妖怪講座をしている七海先輩は置いといて、おっさん顔の妖怪を直視して女子力皆無な悲鳴をあげている中里を助けなければ。
「ひっ! いやーッ! 服の中入ってきた!?」
腰が抜けてしまったのかしりもちをついている中里を、びろーんが尻尾で撫でまわしている。というか絡みついてる。
いかん。このままではローションプレイに続き触手プレイ好きとかいう噂が流れる気がする。何故か俺が犯人扱いで。
「中里! そのまま座ってろ!」
10メートル程の距離を一気につめ、その勢いのままにびろーんの側頭部めがけて跳び蹴りをあびせる。
「びろーん!」
中里を撫でまわすのに夢中だったのか、まともにくらい吹っ飛ぶびろーん。
というか鳴き声「びろーん」なのかよ。ぬるぬる坊主といい何で妖怪ってそのまんまなやつばっかりなんだよ。
「危ない!」
「え?」
七海先輩の注意が聞こえるとほぼ同時。顔面目がけて飛来した何かを、ベルトに挟んでいた短木刀を抜き咄嗟に弾く。
「っ……あの尻尾!」
その正体は起き上がったびろーんの尻尾。
細長いそれを鞭のようにしならせて、こちらへ叩きつけてきたのだ。
「くっ!」
たかが尻尾と思ったが、リーチがある上に予想以上に速い。こんな短い木刀では、何度も防ぐのは無理がある。
「下がってなさいトキオくん!」
「七海先輩!?」
しかし防戦一方な俺を庇うように、薙刀を構えた七海先輩が前に躍り出た。
「びろーん!」
「甘い!」
当然びろーんは標的を変え尻尾を叩きつけるが、七海先輩は薙刀で受け流し一気に肉薄する。
「いくら速くてもこんな直線的な攻撃見切るまでもないわ。さあ、大人しく観念なさい!」
「び、びろーん!?」
慌てて尻尾をしならせ七海先輩へと先を伸ばすびろーんだったが、時すでに遅し。
あっという間に距離をつめた七海先輩の薙刀で頭を殴られ、悲鳴をあげながら転倒する。
「び、びろーん!」
「あら、まだ抵抗するの? ならお仕置きするしかないわね!」
横倒しになったまま必死の抵抗を試みるびろーん。しかし尻尾の先を七海先輩に踏みつけられジ・エンド。
そのまま薙刀でべしべしと殴られている。
「……七海先輩すげえ」
「うん。まあそれほどでも……あるけど!」
俺の賛辞に照れながらもびろーんをはたき続ける七海先輩。
流れるような動きというのはさっきのようなのを言うのだろう。やはり武道や格闘技をやっている人は根本から動きが違うものらしい。
「そういえば中里。大丈夫……か?」
とりあえずびろーんの無力化にも成功し被害者を振り返ったのだが。
「……ふ……ふふふふふ」
「……」
そこには被害者なぞおらず、ただ歪んだ笑みを浮かべる夜叉が佇んでいた。
地面を睨むように頭を下げ、前髪に隠されていない口元はひきつったように弧を描いている。
「このエロ親父! あんなに体にべたべた触りまくるとかありえない!」
「びろーん!?」
そしてびろーんに近づいたと思ったら、その無防備な顔面を踏みつける中里。
どうやら今までは顔だけ触られてたからセーフだったが、今回は体を触られたからアウトらしい。
せめてぬるぬる坊主のように愛嬌のある姿だったら手加減されただろうに、今の女子二人の制裁は完全に性犯罪者のおっさんに向けたそれだ。
「び……びろーん……」
女子二人にボコボコに殴られ次第に弱っていくびろーん。しかし俺だけ攻撃に参加していないのに気付いたのか、助けを求めるような視線を向けてくる。
「……すまん」
「びろーん!?」
だが助ける義理もなく、目を閉じて合掌する俺に悲鳴をあげるびろーん。
まあ悪さをする妖怪は、二度と悪さをしないように懲らしめるのが古来からのお約束だし。これに懲りたら人の体を撫でるのは自粛してくれ。
さらばびろーん。安らかに眠れ。
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・
・
次の日。
相変わらず置いてある山菜をどうやって消費しようかと考えながら登校していると、以前見た生首のおっさんが道端で猫に押さえつけられ猫パンチをくらいまくってた。
以前のカラスといい、動物が幽霊とか見えるというのは本当らしい。
ただでさえ薄い頭頂部が猫パンチで散っていく様は涙を誘ったが、別に助ける義理もないので放っておいた。
「おはようもっちー! 昨日ぶり!」
「……おう。おはよう」
そして教室についたわけだが、何故か中里に満面の笑みで挨拶された。
いや確かに二つ前の席だから、挨拶してもおかしくはないけれども。
「昨日は本当にありがとね。何かお礼とかしたいんだけど。何がいいかな?」
「別にいいよ。部活動の一環なんだし」
「それじゃあ私の気が済まないし。うーん何かおごってあげるとかでいいかな?」
ああ。本気でお礼について悩んでくれるなんていい奴だな中里。
でも今はまったく接点のなかったおまえが俺に話しかけたせいで、クラス中の注目を集めているのにどうか気付いてほしい。
「昼休みに缶コーヒーでも買ってくれればいい」
「そんなんでいいの? うん。分かった。じゃあまたね」
そう言って自分の席に戻り、友人らしい女子生徒と話し始める中里。
「さて……どういうことだ望月?」
そして急に女子と急接近したのを見て集まって来る半藤をはじめとした暇な男共。
「面倒くせえ」
やっと噂が収まってきたところに投下された燃料に、俺はもう説明するのも億劫なので狸寝入りを決行した。
結果。昼休みに中里に「そんなんじゃ友達いなくなるよ」と割と真面目に言われた。
ちょっと自分の対人関係を見つめ直したくなる一日だった。