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岩城学園 ふしぎ発見部!  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう
本編

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17/84

深見


 修行といえば山というイメージの人は多いだろうが、実際修験道は山に籠もって厳しい修行を行うことにより悟りを得ることが目的らしい。

 だからこそ修験者のことを山伏と呼ぶのだとか。


 で、その修行をやらされることになった俺だが、予想通り山を登ることとなった。

 しかも道なんて整備されておらず、一歩間違えれば遭難間違いなしな人の手の入っていない山をだ。


「……というか獣道すらねえ!?」

「元気だな」


 俺の叫びに「はっはっは」と楽しそうに笑う月紫部長。なにがおもろいねん。


 現在鬱蒼と生い茂る木々の間の藪の中を進んでいるのだが、本当に獣道らしき隙間すらなく両手でかき分けながら進んでいる状態だ。

 というか藪の背が高すぎて前すら見えない。本当に目的地が分かって進んでいるのかと心配になってくる。


「今から行く修行場は高加茂家が管理しているものでな。当然他の人間など近寄らないし修行に来るものも気分でルートを変えるから道すらできん」

「気分で進んでたのかよ!?」


 大丈夫なのかそれは。どう考えても山なめて遭難するフラグじゃないのか。


「一応は使われることの多い比較的安全なルートを通っているから大丈夫だ。それでも万が一私とはぐれて合流ができそうになければ山頂を目指してくれ」


 一応とか比較的とかついてる時点で全然安心できねえ。

 というかはぐれたらて。


「そこはおりた方がよくないですか?」

「いや、下手に地形を知らない人間が山を下るとな、沢や崖のようなおりたはいいが登れないような場所にはまりこむ危険性がある。そうでなくても知らないうちに隣の山などに迷い込み捜索が困難になる可能性もある。それにこの山は標高自体はそれほどでもないからな。さっさと山頂に出てくれた方が探す方は楽なのだ」

「あーなるほど」


 要は下ると何処に出るか分からないが、登ればとりあえず山頂という一点にはほぼ高確率で辿り着けると。

 もちろんその時の状況にもよるから一概には言えないのだろうが。


「しかし日向もそうだったが、普段からそれなりに体を動かしているだけはあるな。山を登り切る前に息切れされたらどうしようかと思ったが」

「いや七海先輩と一緒にされても」


 あの人何気に文武両道を地で行く完璧超人だし。霊能力とか抜きで普通に俺より体力あるし強い。

 しかし以前から思っていたのだが――。


「月紫部長と七海先輩って付き合いは長いんですか?」


 遠回しに聞きはしたが、気になってるのは二人がお互いに「日向」に「部長」と同級生なのにどこかよそよそしい呼び方をしているところだ。

 そのせいで俺は最初部長は七海先輩よりさらに一つ上の三年生だと思っていたし。

 そのためもしかすればあまり仲はよくないのかと思ったのだが。


「あー、別に君が危惧しているような関係ではないぞ。日向のアレは彼女なりの拘りというか。まあ私が言うことでもないから本人に聞いてくれ。それに私自身が一般的な女子高生とは感覚がズレているからな」

「自覚あったんですか」


 てっきり無自覚ゆえのゴーイングマイウェイなのかと。

 しかし七海先輩の拘りとは一体。実はすっごい月紫部長のことをリスペクトしていて名前で呼ぶとか畏れ多いとかだろうか。


「さて。そろそろつくぞ」

「え? もうですか」


 意外に早いというか、まだまだ体力に余裕があるので拍子抜けしそうになる。

 しかし藪をかき分け開けた場所へと出た瞬間、そんな余裕は轟音と共に吹き飛んだ。


「見ろ。見事な滝だろう」

「見事すぎますよ」


 そこには半ば予想はしていたが、周囲を崖に囲まれたいかにもな滝があった。

 ただし予想していた十倍水量があるというか「ドドドドド」程度を予想していたのに「ズドドドド」みたいな音が鳴り響いている。

 大丈夫コレ? 入ったら俺水圧で某イタリア人髭親父みたいに縮まない?


「大丈夫だ。ちゃんと上流にネットをはって石や木片が落ちてこないようにしている」

「俺が心配してるのはそこじゃなくてもっと初歩的な段階です」

「……ああ! 真言などは私がそばで教えるから心配するな」

「いやそんな『気付かなかった』みたいな感じで明後日の方向のこと言われても!?」


 まず真言唱えることすら知らなかったからそんな心配してねえよ。

 というかマジでこの中に入るの。


「さあ。この白装束に着替えるのだ」

「それ死に装束じゃないですよね?」


 そう半ば冗談で言ったのだが、修験道で白装束を着るというのは死を覚悟して修行に臨むためという説もあるのだとか。

 え? 俺死ぬの?



「し、死ぬかと思った」

「おつかれー」


 一通りの説明を受けた後に滝行を行ったが、終わってみると辛かったとか以上にめっちゃ寒い。

 七海先輩がたき火をしてくれていたが、火にかざした手がぶるぶる震えて止まらない。

 実際にやっている最中は寒さを感じるどころか、途中から水圧すら感じなくなっていたというのに、人の集中力はやはり凄いというべきなのか。


「滝行には様々な目的があるが、修行として行う場合は周囲の自然と調和することが大事だからな。君の場合は特に詳しく教えなくても霊視ができてしまったりと、その方面の才能は目を見張るものがある」

「修行以外で滝にうたれる物好きとかいるんですか?」


 それなりに覚悟して行った俺でもこんな状態なのに、そんな雑念塗れの状態でやったらさらにきついのではないだろうか。


「ありがちなのは禊だな。まあ素人が観光気分でやったら逆効果なのだが」

「え? 禊って穢れを祓うことですよね?」


 普通は水浴でやるものだが、滝でやれば効果は大きそうだ。なのに逆効果とは。


「まず心構えの問題が一つ。さらに問題なのは、禊で祓った穢れや悪霊の類が素直にそのまま水に流れてくれるかということだ」

「……まさかその場に残るんですか?」

「タチの悪いものはな。そしてそれに対処できるような者もおらず、さらに大量の人間が来ては穢れを落としていく場所はどうなると思う?」

「地獄かな?」


 祓ったそばから新しいのが憑きそうだ。

 とりあえず本末転倒だということは分かった。


「神社やお寺はともかく、修行場を観光地にする時点で何か間違ってるわよね」

「まあ確かに。……ってそういえば七海先輩いつの間にか来てましたけど、まさか一人で登ってきたんですか?」


 俺が滝行してる間にたき火にお茶と万全の状態を作り出してくれていたが、本当にいつの間に来たのだろうか。

 月紫部長はずっと俺のそばで補助をしていたし、他に誰か来ている様子もない。


「ああ。トキオくんも藪の中突っ切らされたのね。ここちゃんと正規の登山ルートあるわよ」

「はい?」


 そう言われて俺たちが出てきた藪とは反対方向を見ると、確かに開けた道らしきものが続いていた。


「……気分でルートを変えるから道ができないとは?」

「道ができないとは言ったが道がないとは言ってない」


 とんちかよ。

 ドヤ顔で言い放つ月紫部長に文句を言う気にもならず、俺はその場で脱力した。



 体も温まり着替えを終えて帰り支度をする。

 というか結局山登って滝にうたれただけなのだが、これで何か変わったのだろうか。

 確かに普通の瞑想よりは効果があったような気がなきにしもあらずだが。


「一回や二回でそう劇的に変わるわけじゃないわよ。でもやってる間に余計なものが削ぎ落されて感覚が研ぎ澄まされていく感じがしたでしょう。それが大事だから忘れないようにね」

「あーなるほど」


 雑念がなくなり自己が溶けて広がっていくような感覚。

 アレが霊力を使おうとすれば重要になるということだろうか。

 その辺りの感覚も人によって違うらしいが。


 ちなみに月紫部長は上流にはってあるというネットを撤去しに行っている。

 そのままにしておくと色んなものがひっかかってぶちっといくかもしれないので、滝行をしないときは外しておくものらしい。


「あ、終わりました?」


 そのため藪の方からがさりと草をかき分ける音がしたので、月紫部長が戻ってきたのかと思い振り向いたのだが――。


「……なんだこいつ?」


 そこにいたのは、全身を長い毛におおわれた猿のような何かだった。

 しかし猿にしては顔つきが人間に近く、その背丈も両手が地面につくほど折れ曲がってなお俺と同じくらいある。


 見るからに普通の動物などではない異常な存在。

 さらに異常なのは、それを見て思った「なんだこいつ?」という疑問が発せられたのが、俺の口からではなくその猿のような何かからだったということだ。


「猿? にしてはでかすぎる。それに喋るとは妖怪か?」

「……」


 さらに続けてそいつから発せられたのも、俺が考えていたことだった。

 ヤバい。

 犬神もどきのときのような強烈な穢れは感じないが、得体のしれない恐怖が折角温まった体を冷やしていく。

 月紫部長はこの場にいないし七海先輩はこいつへの対処法は分かるのか?


「どうする? 月紫部長はこの場にいないし七海先輩はこいつへの対処法は分か……」

「サトリだわ!!」

「は?」


 さらに俺が考えていたことを話し始めた妖怪だったが、その途中で七海先輩のシャウトで遮られた。

 驚いて七海先輩の方を見ると、テンション上がっているのは予想通りだったが、いつもの妖怪に向ける恍惚としてものではない、だがいかにも興味津々といった顔をしている。

 何コレ? どういう反応?


※サトリ

 心を読む妖怪。

 日本各地に伝承がありその姿も様々なものが伝わっているが、共通するのは対峙した相手の心を読みそれを話すというもの。

 また伝承によってはそれにより相手を動揺させ襲いかかってくるものも。


「ちなみに対処法は相手にしないか、サトリが読めないような思いもよらない方法で痛い目にあわせることとされてるわ!」

「ちな……」


 俺からターゲットを変えたらしいサトリだが、読んだことを発言する前に七海先輩のテンションマックスなよく通る声に遮られ何言ってるか分からない。

 残念だったなサトリ。この人に心を読まれて動揺するなんて可愛い反応は存在しなかった。


「私サトリに会ったら試してみたいことがあったの」

「……」


 そう言いながらたき火で使っていた火かき棒を手に取り構える七海先輩と、これから七海先輩が何をしようとしているのか読んだのか喋るのをやめて後退るサトリ。

 対処法は思いもよらない方法で痛い目にあわせることなのに、何故武器を構えているんですか。


「読めてもかわせない。そんな一撃を私が放てるのかということを!」

「ぎゃあああ!?」


 そう言って火かき棒を手に突進する七海先輩と、踵を返し悲鳴をあげながら藪の中へと逃げていくサトリ。

 もうやめてあげて。相手の心を読んで話すというサトリのアイデンティティが崩壊してる。


「……あら?」

「いやそんな予想外みたいな反応されても」


 むしろサトリからすれば七海先輩の行動が予想外だっただろうに。

 まさかサトリも武術の練習台にされそうになるとは思うまい。


「何だ今の鶏をしめたような声は」

「あ、部長」


 ネットを片付け終わったらしい月紫部長が藪の中から出てくるが、サトリとは遭遇しなかったらしい。

 というか鶏をしめたような声って。しめたことがあるんですか。


「部長! サトリが出たわ」

「サトリ? ここにか?」


 七海先輩の報告に、眉をひそめて周囲を見渡す月紫部長。

 そりゃ自分の家の修行場に妖怪が出たとなれば警戒もするだろう。


「……」

「月紫部長?」

「いや。とりあえずはここを離れよう。サトリについても逃げ出したというのなら相手をする必要もない」


 そう言って来るときは逆の、正規の登山道へと歩いていく月紫部長。

 気のせいだろうか。その姿にいつものような余裕がなく、どこか焦りがあったのは。


 後から思えばこのとき俺は七海先輩のインパクトが大きすぎてサトリを侮っていたのだろう。

 そして――。


「……まずいな。余計なことを考えて読まれてしまう前に離れなければ」


 俺たちが背を向けた藪の中。

 逃げたはずのサトリがそう呟いているなんて、当然知ることはできなかった。

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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
日本の神々の長である天照大神は思いました。最近日本人異世界に拉致られすぎじゃね?
そうだ! 異世界に日本人が召喚されたら、異世界人を日本に召喚し返せばいいのよ!
そんなへっぽこ女神様のせいで巻き起こるほのぼの異世界交流コメディー
― 新着の感想 ―
[一言] 古明地さとr(ry
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