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岩城学園 ふしぎ発見部!  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう
本編

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呪 その4

 丑三つ時。

 現在の時刻で言えば午前二時から二時半を指し、丑の刻参りに最も適した時間であるとされる。

 故に犯人を待ち伏せするとなれば、当然俺たちもその時間帯に神社に居合わせなければならないということなのだが、肝試しでもないのにこんな時間に神社にいる人間が俺たち以外にいるだろうか。


「……本当に何も見えないし」


 夜が更け、日付も変わった深夜。

 件の神社の敷地内の雑木林で、俺たちは各自離れた木の陰に身を隠していた。


 神社に来るまでの間は道を照らしてくれていた月も、木々の枝葉に邪魔されてその姿を消していた。

 辺りを包むのは自分の手先も視認できないほど深い闇であり、今すぐにでもポケットの中から携帯電話を取り出して辺りを照らしたい衝動に駆られる。


(何で月紫部長たちは平気なんだ。いや、月紫部長だから平気なのかもしれないけど)


 あの人のことだから、夜目がきく術とか使えても不思議ではない。

 それならそれで俺にも教えてほしいところだが、今になってもろくに術の類が使えない俺には教えられても使えるかどうかは怪しいだろう。

 何せ今の所まともに効果があったのは早九字くらい。月紫部長に隣で手順を説明されながら行った不動金縛りは、実験体になった斎藤さんがくしゃみをしただけで解けた。

 もっとも、それでも七海先輩よりは向いているらしいが。


 というか斎藤さん幽霊なのに何でくしゃみでるの。

 くしゃみした後に申し訳なさそうにしつつ恥ずかしそうな顔するし、どんだけ俺を悶えさせれば気が済むの。


「……」


 手で覆いながら、蛍光塗料の使われた腕時計を確認する。

 そろそろ二時を回る。準備の時間も考えれば、そろそろ来てもおかしくない。


(いや、もしかしてもう来てるのか?)


 何せ一寸先も見えない闇の中だ。

 相手が光源を持たずに足音も忍ばせてきたとしたら、目の前を通り過ぎても気づかないかもしれない。

 あるいは――今この瞬間俺を見ている可能性も。


「……」


 自分で考えてぞっとした。流石にそんなことはないだろう。

 このろくに手入れがされておらず、落ち葉が何層にも重なった場所で音もたてずに移動できるはずがない。

 いやでも色々と常識はずれなことをやってのけた犯人だから、空くらい飛んでもおかしくは……。

 そんな風に我ながら思考がおかしい方向へ飛びかけたところで、ついにそいつは現れた。


 ――ざっ、ざっ。


「!?」


 最初に地面を踏みしめる音。そしてそれに続いて懐中電灯の眩い光が闇を切り裂いた。


(来た)


 緊張に高鳴る心臓を抑え込むように、身を屈め息を潜める。

 まだだ。まだ犯人だと決まったわけではない。

 ここで急いて事を進めたところで、実は人違いでしたとなれば目も当てられない。

 故にここは待つ。

 奴が実際に呪を成して、俺の懐の身代わり人形が反応を示すまでは動けない。


 このまま見張ったところで、見られてはならないという前提を崩している以上丑の刻参りは成立しないはずなのだが、そんな前提はとっくの昔に崩れている。

 にも拘らず呪は成立した。故にこれはもはや丑の刻参りではなく、まったく別の呪として成り立っているというのが月紫部長の結論だ。


 既存の呪術に当て嵌まらない呪い。故にこの相手を呪詛返しによって止めるのは不可能。

 だから俺たちはこの場で犯人を待ち伏せた。


 ――カンッ!


「!?」


 まず響いたのは固い何かを叩く音。

 そしてそれに僅かに遅れるように、左手の中の身代わり人形から微かに軋むような音がした。


 ――カンッ!


 ――ピシッ。


 先ほどよりも大きく、木の軋む音が鳴った。

 それに違和感を覚えたのか、暗闇の中で藁人形を打っているであろう犯人の動きが一瞬止まる。


「……ッ」


 気づかれた? いやまだだ。

 あちらは確信をもっていないようだし。こちらも俺以外は確信を持ってないからまだ動かない。

 何か決定的な動きがないと「あいつ」も動けない。


 ――カンッ!

 ――ビシィッ!


「誰!?」


 来た!

 割れる身代わり人形。打ち付けた音に遅れて響く木の弾ける音。

 それに気づいた犯人が懐中電灯をかざし俺の方へとやって来る。


 だがまだだ。まだ俺の動くときじゃない。

 いやそもそも俺はこの場で動いてはならない。

 何故なら俺は、最初から脇役でしかないのだから。


「やめろ瓊花けいか!」

「えッ!?」


 犯人が俺の隠れていた木までやってくる前に、あいつはその進路を遮るように立ちはだかった。


「俺だよ瓊花」

「うそ……なんで……篤士くんが……?」


 新田篤士。この事件のそもそもの被害者である少年。

 そしてその姿を見て凍り付いたように立ち竦んでいるのは、俺が新田を見張っていた時に話しかけてきた幼馴染だという少女。国見瓊花くにみけいかだった。


「いや……見ないで! 私を見ないで!」


 しばらく呆然とし、そして我に返った国見は、自らの顔を隠して蹲った。

 まるで醜いものを隠すように。


「……瓊花」


 そんな国見の名を呼びながら、新田は膝をつきそっとその背を抱きしめた。

 すべて許す。そんな優しさが込められた手だった。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 そしてそんな新田に触れられて、国見はただひたすらに謝罪の言葉を繰り返していた。

 まるでいたずらを咎められた子供のように。


「終わり……かな」


 思ったよりもあっさりとした終着に体から力が抜けた。

 地面に転がった懐中電灯に照らされた二人の姿を見れば、もう大丈夫だと分かる。

 泣きじゃくる国見の顔に邪気はない。その身に宿った鬼は、新田の登場に驚いて逃げ出してしまったらしい。


「大丈夫か望月?」

「……これを見て大丈夫だと思いますか?」


 いつの間にか目の前に来ていた月紫部長に、昨夜と同じように真っ二つになった身代わり人形を見せる。

 確かに今回の事件はこれで終わりだろう。

 終わりなのだろうが色々と納得いかない。


 今この場で繰り広げられている光景を見る限り、発端は幼馴染の男女の思春期特有の微妙な感情の機微がどうこうして起こったすれ違い。

 要するに痴情のもつれなのだろうが、だったら何で俺が命を狙われなければならないのか。

 そもそも何で国見は幼馴染の足に釘を刺してんだ。どうせなら浮気をしないようにとでも釘を刺せ。


「まあとりあえず今日は帰るとしよう」

「説明なし!?」

「別に説明しても構わんが、移動時間と着替えその他もろもろを考えたら寝る時間がなくなるぞ」


 そう言って俺の腕時計をつつきながら言う月紫部長。

 確かにあと二、三時間もすれば夜も明ける。明日、じゃなくて今日も学校はあるのだから、貫徹は避けたいところだ。


「まあ命の危険はなくなったんだ。ゆっくりと寝るがいい」

「ゆっくり寝たら遅刻しますよ」


 相変わらずな月紫部長に、ため息を漏れた。

 今から帰ったところで寝付けるのだろうか。そんなことを考えながら、神社を後にした。



「ふむ。よく眠れたようだな」


 皮肉か。そう思いながら弁当の中から肉じゃがをつまむ。


 結局帰っても寝る気にならなかったので、やることもなく無駄に豪華な弁当をつくってしまった。

 何で俺は残りご飯がまだあったのに炊き込みご飯とか作ってるのだろうか。

 やっぱり山の幸と炊き込みご飯の組み合わせは最高だな。


「まさか本当に寝なかったのか? その割には目がはっきりしているが、君は数日なら寝なくても平気なタイプなのか?」

「知りませんよ。徹夜自体初めてしたんですし」


 我ながら品行方正というか、夜遊びなどしたことがないし、勉強もそこまで根を詰めてやったことはない。

 なので一睡もしていないのに何の体調の変化もないことには、自分でも少し驚いている。


「健全だがある意味不健全だな。若いうちは無茶をしておいた方がいいぞ。歳をとってから同じことをするよりは、後になって笑い話になる」

「アンタは一体何歳だ」


 実は留年してますとか言い出さないだろうなこの大正女。

 むしろ実は明治生まれだったりするのではなかろうか。

 人魚の肉でも食ったとか、あるいは記憶持ち越して転生したとか。


「私は正真正銘平成生まれの十七歳だ。ちなみに四月生まれだから留年しているわけでもない」

「え? 四月誕生日だったんですか? 言ってくれたらプレゼントくらい送ったのに」

「……」

「……何で微妙な顔で黙るんですか」


 気を遣ったら「え? 何こいつ気持ち悪い」みたいな顔で見られた。

 後ろに張り付いている斎藤さんに癒されてなければ、ショックで寝込んだかもしれない。


「いや、君は普段ぶっきらぼうなのに何故そういうところは気が回るんだ。やはりツンデレなのか」

「ツンデレ言うな」


 というかぶっきらぼうの方も否定したい。

 俺は同級生にはともかく、先輩には立場をわきまえて丁寧に対応しているはずだ。

 たまにタメ口でつっこみをいれるが、それはむしろ先輩二人がおかしいので仕方ない。


 「さて、では君も気になって寝れなかったようだから。今回の事件の説明をしようか。といっても、まだ推測の部分も多いが」


 昼食を食べ終わり弁当箱をしまうと、そう月紫部長は切り出した。


「まず今回の事件の中心である国見瓊花だが。彼女もこの学園に来て目覚めた口だろう。恐らくは呪いに特化した能力。あるいは霊体に直接干渉する能力かもしれん」

「嫌な能力ですね」


 後者ならともかく、前者なら能力が限定的過ぎてどうしようもない。

 またふとしたきっかけで、他人を呪いでもしたらたまったものではない。


「まず君にかけられたのは、多少簡略化された部分はあれど丑の刻参りの手順に沿ったものだった。にもかかわらず、その効果は七日七晩を経るまでもなく、見られてはならないという制約を破られても即日効果をあらわした。恐らく夜まで待たなくても、その辺で適当に藁人形に釘を打っただけでも効果がでると思われる」

「ある意味反則的な能力じゃないですかそれ」


 しかも通常の呪詛とは異なるため、呪詛返しにも反応しないときた。

 まさに呪殺に特化した能力。何であんな大人しそうな子が、そんな物騒な能力に目覚めたのか。


「確かに反則的だが、故に問題が起きた。新田の足に被害をもたらすというな」

「ああ。結局国見さんは何で新田の足を狙ったんですか?」


 昨夜のあの様子からして、二人の仲が悪いということはないだろう。

 むしろ恋人とまではいかずとも、それに近い繋がりを感じさせた。ならば何故国見さんは新田に危害を加えたのか。


「その繋がり故だろうな。そもそも新田にかけられたのは、のろいではなくおまじないだ」

「はい?」


 のろいとまじない。

 字こそ同じだが、その違いは言うまでもない。

 だがその違いは一体どういうことなのか。


「藁人形の横に新田の靴が釘で打ち付けられていただろう。あれはのろいの類ではなく、足止めの術という、家族友人恋人などが自分のもとを去らないようにと願って行われるおまじないだ」

「……足止め?」


 言われてみれば、確かにそういう意図で行われたと分かるおまじないだ。

 もっとも、やられた方からすれば気分のいいものではないだろうが。


「幼馴染であれど男と女。しかも新田少年はあの通りの好青年だ。国見の中でどんな葛藤があったのか実に分かりやすいじゃないか」

「……」


 国見さんは新田が他の女にとられてしまいそうだと思いおまじないを行った。

 しかしおまじないは国見さんの能力のためにのろいへと変化し、結果新田の足に痛みを与えた。

 そして新田は俺に相談。おまじないを邪魔された国見さんはさらに余裕がなくなり、新田に急接近した上におまじないを邪魔した俺を目の敵に。


「俺完全に痴話喧嘩に巻き込まれただけじゃないですか!?」

「そういうことだな。しかし男にまで嫉妬するとは、国見も本当に見境がないな」


 そういってアッハッハと笑う月紫部長だが、そのせいで殺されかけた俺はまったく笑えない。

 そもそも新田が足の痛みを国見さんに相談するか、あるいは国見さんが不安になるほど関係をこじらせていなければ今回の事件は起こらなかったのだ。

 つまり全て新田が悪い。

 イケメン爆発しろ。


「まあ国見が手遅れになるような大事件を起こす前に、その能力を知れたという意味ではよかったともいえる。今後は国見が能力を悪用しないよう監視と指導を行う。もっとも、新田がそばに居る限りはその必要もなさそうだが」


 雨降って地固まる。

 今朝様子を覗き見た限りでは、国見さんの思いに気付いた新田は素直に応えることにしたらしい。

 つまり今回の事件で丸損をしたのは俺だけである。

 どうしてくれようかあのイケメン。


「……そこでまったく国見を恨まない辺り、君もいい性格をしているな」


 月紫部長のつっこみは聞こえないことにした。

 新田死すべし。慈悲はない。


 しかしその怨念も、後日涙目で謝りに来た国見さんのせいで霧散した。

 殺されかけたのは事実だが、国見さんもまさか本気で自分が人を殺せるほどの呪いをかけられるとは思っていなかったのだ。反省しているのなら許さない道理はない。

 結果新田とはもちろん国見さんともそれなりに仲のいい友人となったのだが、それを見た中里に「もっちーの私への扱いがけーちゃんに比べて雑!」と文句を言われるのは誤算だった。


 流石にもう中里も友人とは認めているが、俺の中里への扱いが雑なのはむしろ心を許しているからだと主張したい。

 しかしその主張をした結果、中里にやはりデレツンだという認定を受けた。

 結局俺はツンデレなのかデレツンなのかどっちなんだ。

 その文句に対し、どちらにせよ面倒くさい男だと複数の女子から認定されることとなった。

 解せぬ。

 いったんこれで連載を終了します。

 しばらく時間をおいてネタがたまったらまた連載を再開する予定です。

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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
日本の神々の長である天照大神は思いました。最近日本人異世界に拉致られすぎじゃね?
そうだ! 異世界に日本人が召喚されたら、異世界人を日本に召喚し返せばいいのよ!
そんなへっぽこ女神様のせいで巻き起こるほのぼの異世界交流コメディー
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