耳を塞ぐ少女
最後まで読んで下さると幸いです。
何も聞かない。
何も見ない。
それが1番だと思っていた。
それが当然だと思っていた。
だから両手で耳を塞ぐ。
瞼で目を塞ぐ。
私は何も知らない。
父親が毎日私を殴ろうとも。
母親が毎日罵声を浴びせようとも。
私は…知らない。
友達なんていらなかった。
必要性を感じなかったから。
必要な時だけすがってきて。
必要なくなったら非情に切り捨てる。
そんなのいらなかった。
だから1人。
家にいても。
学校にいても。
それは変わる筈の無い毎日だった。
だから私は毎日公園へと足を向ける。
学校が終わったら、その場に居たくなくてすぐ外に出る。
でも、家にも帰りたくなくて色んな道を歩いて、さ迷って見付けた。
その公園は、人々が忘れ去られたような誰もいない公園。
遊具も。あるのは錆び付いたブランコ1つだけ。
何よりもすごく小さくて。
毎日行ってるのに。
人の姿さえ見たことがない。
だから。
いつの間にか、ブランコの上は誰にも譲る事を必要としない特等席になっていた。
――――――。
いつものように音をたてながらブランコを揺らす。
ギコギコと。
この音だけは耳を塞ぐ必要がなかった。
その音を聞いているだけで、下らない毎日をぼかしてくれる気がした。
今日は誕生日だった。
でも、貰ったのは父のビンタと母の愚痴。
それは私の頬を赤く腫れさせ、強く耳を塞がせた。
生まれてくるのを間違った。
私の誕生日はそういう日。
消えれば良いのに。
心の中で私は声を反芻させる。
要らない子ならば。
どうして私はいるの。
問いかけても返ってこない返事をひたすら待ち続けた。
ギコギコなるブランコ。
耳も視界も遮った私を揺らす。
静かな公園。
この小さな世界で私は1人きり。
1人きり。
疲れた。
考えるのも。
目を開けることも。
何かを聞くことも。
もう。このまま此処にいよう。
帰りたくない。
ましてや学校も行きたくない。
さようなら。
誰にも必要とされなかった短い人生。
さようなら。
私はブランコに揺られながら意識を手放した。
簡単だった。
もっと早くにそうすれば良かった。
もっと早くに…………――。
ブランコはひたすら少女の体を揺らす。
少女に起きて欲しくて。
諦めて欲しくなくて。
答えを探してもがいて欲しくて。
もう遅いかもしれない。
此処にあるのは少女の体だけ。
心は手離してしまった。
それでも、誰も少女を責める事は出来ないだろう。
そう世界中の誰も。
ブランコは音を鳴らしながら揺らし続ける。
例え無意味なことでも。
忘れられたこの公園に目的はどうあれ、毎日通い続けてくれた少女の為に。
揺れる。
ゆれる。
少女の瞼が耳がもう1度世界に傾けられる事を願って――――。
―――――fin
最後まで読んでくれてありがとうございました。
悲しい記憶から目が覚める様に願っております。