八
乳母を伴って大都に戻った灯也は、どこまでも堕ちた。
どんな慰めも励ましも彼には届かなかった。
親しい人々は心を痛めた。
それは静かな月の明るい晩であった。
未だ心を深い暗闇にさ迷わせる灯也に、乳母は心を決めて語りはじめた。
灯也様。
貴方は至倶那様と共に戦うことを望んでいらっしゃいましたが、至倶那様の真の願をご存知でしたか。
至倶那様は妾どもに政の事は一切口にされませんでしたが、この乳母めに一度だけお話しをして下さったことがありました。
我が草原の国は、血生臭い戦が絶えぬ、呪われた貧しい国。
流された血はさらに血を呼び、血は呪いとなり鎖になります。
至倶那様は遥か昔から続いてきた不毛な鎖を、断ち切りたいとおっしゃっていました。
そして、新しい時代を築きたいと。
頑なに草原の隅で己を閉ざすのでは無く、広い大陸に吹く新しい風に手を広げる、そんな時代を。
民は王の奴隷では無く、己が己の主である、そんな国を。
壊し、奪うのではなく、
創り、育てたいと。
灯也様。
至倶那様が最後まで案じてらしたのは灯也様です。
灯也様を遠い地へやったのは忌まわしい鎖から守るため。
そしていつか、共に新しい国を創るためだったのですよ。
灯也様。
至倶那様は灯也様に、無念を継いで欲しいことでしょう。
ええ、貴方しかいません。
灯也様。
妾が、一人墓まで持って行くつもりだった秘密をお話しましょう。
貴方の母上は卑しい女などではありません。
遠い西方の、さる亡国の高貴な姫君でいらっしゃいました。
至倶那様は姫君を深く愛しておられました。
姫君も同様に。
ああ、それなのに。
あのような恐ろしい行く末を誰が想像出来たでしょう。
ですが、姫君は最後の最後に幸せに満ちて亡くなりました。
愛する御方の子をその胸に抱けたのですから。
灯也様。
貴方の本当の父上は―――