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七
降りしきる、冷たい雨の中。
一面の焼け野。
闇に沈む崩れた城。
夥しい骸。
幽鬼のように座り込む民が一人…二人…。
灯也は茫然と立ち尽くしていた。
灯也様。
消え入るような声に振り向けば、ぼろを纏った老婆がふらふらと立っていた。
よく見れば至倶那の乳母であった。
彼女は駆け寄る灯也の胸で泣き崩れた。
至倶那と王の関係は修復不可能にまでなり、後はおぞましい骨肉の争いが続いたのだ。
きっかけは、王の酒に仕込まれ続けた毒。
口を割ること無く自ら命を断った薬師。
それは狂気のはじまり。
草原はどす黒い血に濡れ、さらに血で洗われた。
最後、至倶那は城に火を放った。
冷たくなった父と兄弟と共に。
欲望と憎悪で膨れた、血よりも朱い紅蓮に包まれながら。
炎は空を三日三晩焦がした。
まるで天人のように、美しく微笑んでおられました。
穏やかな、澄んだ瞳をしておられました。
そして妾に、最後の命令だ、生きよ、とおっしゃいました。
あいつを頼む、と。
灯也様。
灯也は咽ぶ乳母を抱えてへたりこんだ。
全てが夢であって欲しい。
決して叶わぬと知っていても、祈った。