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五
出立は、初冬の早朝だった。
空は鼠色の厚い雲に、草原は銀色の霜に覆われていた。
小さな荷物と馬、道案内の痩せた従者だけが灯也の供であった。
誰にも告げず、見送られるはずもなく、彼等は静かに城を出た。
灯也は黒く沈む城を振り返った。
初めから、此処に自分の居場所は無かったのだろうか。
灯也の心は鉛のように重かった。
草原の西に緩やかな大河がある。
大都へは河に沿って進み、さらに山脈を二つ越えなければならない。
河が近くなるにつれ、草原に自生する背の高い植物ではなく、地を這う芝が多くなってくる。
芝は初夏に小さな釣鐘の花を付ける。
ここには、兄上にせがんで、よく連れてきてもらった…。
今は冬。
それでも花を探すように、灯也は茶色く煤けた河原を見回した。
その時、遠くもと来た草原に、一頭の馬がこちらを向いて佇んでいるのが目に入った。
背に誰かを乗せている。
あ。
顔は判別できない。
でも。
灯也の目の奥に熱いものがこみ上げた。
行ってきます。
灯也は心の中で呼びかけた。