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四
久しぶりに兄弟が顔を会わせたのは、晩秋の夕暮れであった。
空も草原も燃えるような朱に染まり、大きく熟れた太陽は沈もうとしていた。
至倶那は岩を積み上げただけの質素な城壁に立ち、灯也を振り返った。
あどけなさを残したまますらりと背が伸びた灯也は、少年としての最後の時期を迎えようとしていた。
至倶那は悟った。
もう時間は無い。
逃してはならぬ。
次に発せられた兄の言葉に灯也の笑顔は一瞬で凍りついた。
至倶那は繰り返した。
お前はこの国を離れ大都へ行け。
灯也は耳を疑った。
僕は兄上の側に居たい。
邪魔なだけだ。今のお前に何が成せると言うのだ。
それはとても冷たい声であった。
うなだれる灯也に背を向け、至倶那は鋭い眼差しで夕日に燃える草原の果てを見つめていた。
血のような朱光を浴びて、蒼い瞳が煌めいていた。