三
王が病に倒れた。
王の容態は悪くなる一方だった。
目は落ち窪み、痩せ細った体には赤黒い斑点が浮かんでいた。
しかし気性は相変わらず激しいままで、それがまた王を冥府の鬼のように恐ろしく見せていた。
至倶那が政を代行したが、その方針は王と真逆であった。
民と民のために働きたいと願う臣下は喜んだが、王と私腹を肥やすことに熱心な側近は快く思わなかった。
王と至倶那の関係は目に見えて険悪となり、狡猾な側近と妾妃は手を結んだ。
至倶那はどんどん孤立していった。
遠乗りの回数は減った。
変わらず灯也に優しい兄であったが、時折表情に深い陰が見えた。
そんな時、兄はどこか遠い人のようで、灯也は寂しさと焦りを覚えるのだっだ。
灯也は剣術に励んだ。
兄を守りたかった。
灯也は勉学に励んだ。
兄を支えたかった。
幼い少年の何処にこれだけ強靭な意志が潜んでいたのだろうか。
やがて人々は灯也の瞳に至倶那と同じ蒼い煌めきを見るようになった。
敵も、味方も、灯也に目を見張った。
駒になるか。
賽になるか。
忘れていた少年に、初めて何らかの価値を見出だしたのである。
周囲の変化に灯也は全く鈍感であったが、至倶那は険しい顔をした。