十
国士はまだ若い青年で、帝国始まって以来の高成績で試挙を通ったとか。
そのまま内府へと推挙されたが、何故か彼はこの辺境への赴任を熱心に希望したと言う。
変わり者の国士は、草原に小さな町を造った。
道を調え、畑を耕した。
政を開放し、法を正した。
自ら働き、汗を流した。
変わり者の国士は、徐々に人々から愛されるようになった。
その頃になると、長い間放浪していた草原の国の民も帰ってきた。
国士は彼等を温かく迎え、住居と職を与えた。
国士はたまに、暇をみては馬で草原を駆けた。
風に流れる漆黒の髪と、少し褐色がかった肌。
それは、彼に草原の国の民の血が流れていることを示していた。
豊かな草波を飛び越えるたび、彼の瞳は透き通るような蒼に輝くのだった。
齢百を越える老人が、穴があくほど国士を見つめて言った。
老人の父親は、昔草原の国の城に出入りしていた商人であったらしい。
昔、父の仕事に連れられて行った城で、貴方によく似た青年に会ったことがある。
特にその瞳は忘れようにも忘れられるはずが無い。
貴方のときに煌めく蒼い瞳は、確かにあの時の王子そのものじゃ。
興奮気味に喋る老人に国士は笑って答えた。
あなたの話からすると、王子に似ているのは私ではありません。
祖父です。
私の祖父は草原の国の出身です。
私は孫の中でも特に彼の若い頃に似ていると言われています。
祖父は今の私よりずっと若い時分から帝国で暮らし、そこで亡くなったのですよ。
他人の空似というものではないでしょうか。
異国で生きることは苦労も大いにあったことでしょう。
しかし彼は微塵も感じさせず、とても朗らかな人でした。
私たちは祖父が大好きでした。
祖父は、私たちに繰り返し草原の話をしてくれました。
空が高く、
青い草波がどこまでも続く、
美しいところだと。
受け継がれてゆく血に、記憶も刻まれてゆくのでしょうか。
彼が語る故郷に。
草原に。
私も恋い焦がれました。
祖父の願は、この草原に新しい時代を創ることでした。
彼の夢が、私の夢になりました。
そして今、私はここにいます。
彼の肉体は滅びましたが、内なる焔は今も私と共に在るのです。




