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群青の燭影  作者: 狐塚仰麗(引退)
3.融雪の孤狼~master and servant
17/30

冬の日、隣町まで。

 湊本弼雪みなもとのりゆき

 非常にさっぱりした性格で、爽やか。友達にぜひほしいところだ、一緒に居ると女の子が寄ってくるからな。おこぼれにあずかれる、あわよくば。そんな理由で交際する友人も居なくはないだろうが、彼自身が凄く良い奴である以上、男友達たちは本当に湊本と仲が良かった。

 湊本自身は、誰彼構わず愛想好く振舞える。そこに先ほどの例えの男子のような媚びたいやらしさなどは皆目見当たらず、こういう正確に生れついた事がまったく羨ましいことこの上ない。つまりは、特に下心もないもので、女の子にも男友達のようなノリで話しかけ、冗談などを言って叩かれたりはするが、その人当りの良さ等でいろいろな人から厚い信頼を寄せられているわけだ。

 一方で、この爽やかさとは裏腹に飄々としてるように見られる事もあるのだが、勿論その爽やかな澱みのない笑顔が、すべてを許させるのだ。天稟と言うほかない。羨ましいと思いこそすれ、恨みに思うやつはいない。見ていて清々しいものである。

 高校一年の秋。次第に、部活などでは先輩が引退していく頃。

 その彼が、本人に実際にやる気が有った訳ではなかったが、周りに推されてこのたび生徒会長に立候補した。頭も回る男だったが、成績は中の上といった所であった。

 いや、そんな事は、大した問題じゃない。要は、生徒のために如何に時間を割く事が出来るかという話である。湊本はなかなかの好青年、先輩からも支持され、一年生でありながら、めでたく生徒会長という任に就くことと相成ったわけである。じゃじゃあん、っとな。

 この時の先輩の支持、というのは、付属中の時から湊本の評判は良かったと言う実績と言うのかなんというのか、そんな事も考慮した上では、湊本生徒会長の誕生は当然の結果と言うべきだろう。こういう所では、成績は別段関係なく、評価されるべきはその人格、人望などであるからだ。そこに思想、というものが随伴すると話が変わってくるのだが、湊本の場合は、

 ――自分にできる事を精いっぱいやりますのでどうぞよろしくお願いします。

 これだけであった。

 生徒会選挙にもマニフェスト何ぞというものが掲げられる事が有るが、そこで選挙結果如何に影響するようなものではない。一生徒にそれまでの因習が変えられるかどうかなんぞ甚だ、――兎にも角にも学園に新たな風を吹かす、そういうお題目で有れば万々歳と言う話である。


 しかし、翌年のある日の事である。

 湊本生徒会長は、バスで隣の町まで出かけていた。

 彼が出かける事くらい、まるで珍しい事でもないのであるが、やはり彼の良くできた所がそんなとこにも表れているもので、――会議も何もない日であったが、掃除でもしようかと訪れた生徒会室、電気を付けようとしても、付かない。

 湊本生徒会長はおかしいなと思い、天井の電灯を調べてみると、これが切れてしまっている。せっかくなので、替えを買いに行こうと思ったわけである。彼を慕っている書記の子やら、頼るあてはいくらでもあるが、そう言う時に自分で動くのが彼なのだ。

 そもそも、そういう時は単純に、備品とかの申請を事務にすればいいんじゃないかと言う話であるが、彼はこう言う所もあるのだ。純粋なのである。そんな訳で隣町へ来たと言うだけの話だった。

 いつも使う生徒会室の電灯が切れていることに気が付いたものだから、生徒会長自ら隣町まで調達しに来た。生徒会長のすることではない。

 が、実は意外と暇なのである。

 しかし、電球を買うためにわざわざ隣町まで行かなければならなかったのだ。この当時はこんなものだったのだ。それにしても感心である。

 さて、この町の電器屋は駅前の表通りに当然のようにそびえている。こちらは、自分が通っている学校のある郊外というような町よりは、わりとしっかりとした町であるから、そんなものだろう。まだ地方なので主要な駅前以外は整っていない。

 ここ、駅の通りは広く作られているが、狭い裏路地がたくさんあり、これがなかなか曲者なのだ。

 夜にでも迷いこんだらそれこそ、生きて帰って来れるかわからない。それこそ昔の闇市に連なる連綿とした何かが底にある。夜が怖いのだ、夜が。

 別に夜が悪いわけではないが、空も晴れて月がよく見える日だと気分も妖しくなってくるものである。

 しかしだからと言って、この裏路地に入るのは、酔っ払いか後ろ暗いか、どっかおかしいやつぐらいなものだと、時分の子供は親に教わって育つとか。

 冬のある日だ。放課後に隣町に来ると、帰る頃には段々と暗くなっている時候である。

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