「ああー、笑えねぇ」
日本より遥か遠い場所に位置する無人島「孤独島」
そこには世界最大規模の面積に世界最大規模の犯罪者を収容する闇の刑務所が存在した
その刑務所に名は無い
誰にも知られぬところで世界的大犯罪者を世に出さぬように厳重に警備されているその刑務所は死刑執行所としても利用され、処刑台もあり、囚人たちにも公開できるようにカメラまで付いていた
刑務所にいたるところにある監視カメラ、一日に約20台は壊されていて、買い替えなければならない
もちろん壊しているのは囚人たちなのだが、囚人たちもただのバカではなく、巧みに監視カメラを破壊する
看守にばれないようにするのはもちろんだが、監視カメラの位置、角度、どの位置がカメラの死角かを緻密に計算し、迅速かつ正確に破壊してくる
監視カメラがある程度無くなったところで、脱走を試みる。
ここに初めて入ってきた者はだいたいはそういうことをしてくる
が、やがて気付く。ここに入った瞬間、もう逃げ場は無いのだと
そもそも刑務所から脱走してもこの島から出られなければ意味がない。
この島に囚人を運ぶために来る唯一の船も、島には上陸はしない
船は島に着く途中で進むのをやめ、犯罪者を海に投げ入れてそのまま帰ってしまうのだ
犯罪者たちは生きるためにはやむを得ず、泳いで島に上陸せざるをえない
そのため、船が島に上陸しないのでは、帰れるはずもない。
外への電波も全くつながってはいない
まずこの島は地図上には明記されていない
ある犯罪者が、このままでは逃げられないと思い、島へ運ぶ船である計画を立てた
「見張りを全員殺そう。それでこの船を奪って逃げるんだ」
だが、その男は浅はかだった。
見張りも半端な力を持った人たちではなかったのだ
海軍、陸軍、空軍の全軍のトップエリートを集めた最強の精鋭たちが乗っている船なのだから
遠いほうから胸元にカラスと何かの紋章の刺繍をした黒服を着た髪も黒髪な青年が、顔を伏せながら歩いてくる。
そしてその無力な男にこう告げた
「残念だが、テメェらは俺らがこいつ捕まえようって思った時点でこの世のどこにも逃げ場は無ぇんだよ」
この男の名は「烏丸狗狼」
この刑務所で働いている「死刑執行人」だ。
「ああー、笑えねぇ」
「何がですか?狗狼さん?もしかして昨日の仕事がさすがに多すぎてストレス溜まってるとか?返り血浴びるたびに服着替えますもんね。そりゃあ、疲れますよ」
狗狼の隣りにいた若い男が質問をした
「そんなんじゃねぇよ。俺は必ず、朝にカフェオレを飲むのだが、今日は飲んでねぇから力が出ねぇ。やる気も起きねぇ。今日はゆっくり寝てようかなぁ・・・・」
歩きながらどうでもいい愚痴をこぼす狗狼だが、彼にとってはとても重要なことだ
それをこの若い男は知っていた
「まぁ、今日は休んでもいいんじゃないですか。昨日10人くらい仕事しましたでしょ?さすがに疲れますよ。僕なら速攻吐きます」
「てめぇならな。昨日なんて大したことねぇよ。俺なんて一日142人殺ったことあるんだぜ」
「は?なんすかそれ?さすがにそれはウソでしょう・・・」
「それがマジなんだなこれが・・・ん?」
狗狼が後ろからただならぬ気配を感じた
明らかな殺気がする
「死ねっ!狗狼ぉぉぉぉおおおおおお!!!!」
ばかでかい大男がまたさらにばかでかい大斧を狗狼の頭めがけて思いっきり振り下ろす
ズドォォォオオンンン!!
激しい白煙がわきあがり、視界が悪くなった
煙が少しずつ晴れていくと
そこには斧を軽々避けた狗狼の姿と斧を振り下ろしきった大男が不動の体勢で立っていた
狗狼はゆっくりと息を吸い、
「いきなり何すんだテメェ・・・。死にてぇのか?」
「相変わらず冷めたやつだな狗狼。むかつく顔してやがる」
隣りにいた若い男は今起こった壮絶な出来事に大口を開けて驚いていた
「・・・。崩さん・・・ここで何してるんですか・・・?」
「あぁ、ちょっとな。今、最高にむかつく野郎の匂いがしたんで殺しに来たんだ」
この大男の名は「餓鬼 崩」
かなりの怪力で囚人たちからは不動明王とあだ名を付けられたほどの押されても動かない人間
逆に押し返す。普通の大人100人が全力で向かっていっても、全く動かない。逆に押し返す
ダンプが全速力で突っ込んできても全く動かない。逆に押し返す
ゆえに不動明王。
それが崩という漢の力だ
「崩・・・てめぇいい加減しろよ。余計なことしてやがったらマジで殺すぞテメェ・・・」
「やれるもんならやって見やがれへなちょこ野郎。てめぇなんかにゃあ負けねぇよ」
ビリビリビリと火花が散る。
これがこの二人のいつもの風景なのだが、もう慣れているのでだれも止めようとはしない
狗狼は崩との戦いを6時間し続け、結局引き分けとなった
どちらもなかなか倒れないので勝負がつかないのだ
「ちっ!・・・まじでうぜぇ野郎だなホントに・・・・」
「おいおいおい、テメェら二人はもっと仲良くできねぇのかよ。会うたびに何時間も喧嘩されるとこっちもさすがに迷惑だぜ。狗狼」
「ハッ!」
狗狼はカフェオレを一気に飲みきった
「しかけてきたのは向こうからだ。やり返すのは当然。向こうが悪い」
「小学生かてめぇらは」
「おれをあの馬鹿と一緒にするな」
「はいはい、なんでもかんでもそうなのね」
狗狼の隣りの男はスッ、と立ち上がり、狗狼の元から立ち去る
最後に一言添えて
「お前の近くにうろちょろしてたあの男、崩とてめぇの喧嘩みて気絶して医療室いっちまったぞ。あとでちゃんと声かけに言っとけよ」
んーーー。
「はいはい、終さん。ちゃんと行きますって」
王龍中学校3年13組の烏丸 狗狼は死刑執行人だった。