File No.5 最初の任務
「すいませんね、うちのカエルが空気を読めなくて。ハハハ…」
宇佐美はそう言うと、加江田の足を思いきり踏みつけた。
「イッタ!!」
加江田はそう叫び、反射的にその場に座り込んだ。
「じゃあ、会議はこれで終わりだ。引き続き、捜査をよろしく頼む」
岩山はそう言って、会議を締めくくった。
「ありがとうございました」
一同はそう言い、それぞれ自分のデスクへ戻っていった。
戻る途中、加江田は上丘に苛立った口調で言った。
「どうして俺の質問を遮った?」
「だって、あんたの質問がアホすぎて、会議の邪魔になるからよ」
宇佐美は真顔で答えた。
「俺はアホじゃない、天才だ。捜査一課の天才カエルって呼ばれてたんだからな。ハハハハハ!」
加江田は得意気に言った。
「私だって、かつては公安の秀才ウサギって言われてたんだから」
宇佐美は負けじと返す。
「かつて? 今は違うんですかー!」
加江田はからかうように言った。
「あんたこそ、今は公安部に所属してるから、そのあだ名は通用しないわよ!」
宇佐美は声を荒げた。
「何だとー!!」
加江田はカンカンに怒った。
そのとき、岩山が二人のもとへ歩み寄ってきた。
「ちょっと君たち」
「はい、何でしょう?」
宇佐美が応じた。
「コンビとしての最初の任務を頼みたい」
岩山は真面目に言った。
「任務内容は?」
宇佐美が問い返した。
「リベルタスの拠点とされる倉庫を監視してほしい。住所は神奈川県横浜市中区新港一丁目1一1だ。
くれぐれも、さりげなく行動すること。下手をすると違法捜査になる。いいな。」
岩山は鋭い視線を二人、特に加江田に向けて念を押した。
「え、今からですか?」
加江田が驚いて聞いた。
「そうだ。今すぐだ」
二人は私服に着替え、覆面パトカーに乗り込んだ。
運転は岩山が担当した。
加江田は運転できなかったからだ。
走行中、加江田は窓の外に目を向け、東京湾に沈む夕日を眺めた。
とてもきれいだ。
加江田はそう素直に思った。
やがて日が完全に沈み、夜になった頃、二人は車を近くの駐車場に停め、サングラスとマスクを着けて、少し歩いて倉庫へ向かった。
周囲は、しんと静まり返っていた。
「何か…不気味…だな」
加江田は珍しく、不安そうに呟いた。
「何言ってるの。これくらいで怖がってたら、公安失格よ」
宇佐美は呆れたように言った。
倉庫は赤レンガ造りで、まるで外国の建物のようだった。
二人は電柱にもたれかかり、しばらく倉庫の様子を観察した。
しかし、物音はほとんど聞こえず、窓は黒い板で塞がれていて、中の様子を窺うことはできなかった。
三時間後…
「もう帰るか…」
加江田が疲れた声で言った。
「そうだね。今日は引き上げよう」
宇佐美も同意した。
二人が倉庫前の広場を離れようとした、その時だった。
黒ずくめの服を着た数人のグループの人影が、倉庫へ向かって歩いて来た。
「待って。人がいる」
宇佐美は小声で、帰ろうとする加江田を制した。
数人は大きなボストンバッグを持ち、倉庫のドアを激しくノックした。
ドンドンドンドンドン!!
やがて、中から一人の太った男性が現れた。
彼らはしばらく小声で話し合い、ボストンバッグを男性に手渡した。
男性が中身を確認した瞬間、二人はすぐさま理解した。
覚醒剤だ。
宇佐美は即座に動こうとしたが、加江田が腕を掴んで止めた。
「何よ!」
宇佐美は声を殺して怒鳴った。
「俺にいい考えがある」
加江田は、いつになく冷静な表情で言い、作戦を小声で伝えた。
宇佐美は一瞬考え、納得したように頷き、再び観察を続けた。
やがて太った男は、数人のグループに報酬の札束を手渡した。
しかし、金額に不満があるのか、数人のグループは男と激しく口論を始めた。
次の瞬間…
彼らは無理やり倉庫のドアをこじ開け、中へ雪崩れ込んだ。
直後、大きな衝撃音が鳴り響いた。
彼らは殴り合いになったのだ。
「どうするの!?」
宇佐美は戸惑いながら、加江田を見た。
二人は、思わぬ窮地に立たされていた。




