6. 金色のひまわり亭にいらっしゃい♪
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「っていう流れがあって、ね~。いちばん初めにナイアルさんと店長と、ビセンテさんに作らしてもらったのは、実は杣のお粥だったのさ!」
「へえ……!」
「それをもって、俺は≪第十三遊撃隊のめし係≫という輝ける居場所をみつけ……。この偉大なる三人の腹ぺこに、毎度のごはんを作ると言う名誉にあずかったんだ」
てか、ぺかーッッ!
語るうちにどんどんつやを増して、ますます血行絶好調になってゆく頬。それをまるく笑ませて、アンリは傍らの少女にうなづいた。
ここはテルポシエ大市内、南区にある旧貴族の邸宅を改装した料理店である。
そう……料理店、である。
広大な厨房の中央にどしんと置かれた、作業台兼食卓に従業員たちが座って、朝の粥を食べているところだった。
かまど調理台のそばの席にかけたアンリは、ぱりッとのりのきいた料理人の白い上衣を着ている。胸にきらッと輝く刺繍は、ひまわりの花の意匠だ。
ぺかる顔の上には、やはりひまわり刺繍の入った白い料理人の帽子。その縁から、いちご金髪の巻き毛がはみ出している。
隣に座る少女は、十二かそこいらなのに白い麻衣に黒の毛織、白い前掛けと大人の給仕のような恰好をして、椀の中の粥を食べている。
装いも表情もまじめくさっているが、暗色髪のおさげをくくった紅色のてがらだけが、耳の下でぱっと咲いた花のようだ。
「料理人の本性だしてから~、が早かったよなー。中弓と携帯鍋を支給申請して、森で警邏するたんびに鍋つくるようになってよ。野うさぎだの、雉だの」
少女の反対隣に座る、ナイアル副店長が言葉を継いだ。
言いつつ、自分の椀の中を木匙で混ぜる。熱々の杣粒に、牛酪が白く溶けてゆく。
アンリの刻んだ、にらねぎの青葉部分があざやかだった。片側には黒かぶの漬けものも添えてある……。
ばりばりばりばり、食卓の反対側では噛みごたえのあるその漬けものを、規則正しくビセンテが咀嚼している。
さらにその隣ではぬうんとでっかい店長ダンが、もそもそと不規則に咀嚼している。
彼は朝食を食べなくてもよい派であるが、出されたら食べずにいられない主義にして、しょっぱい粥党である。
相変わらず、真っ赤に充血した目の下に黒々とくまをこしらえて死神のような形相だが、これでも本日は調子がよい方だ。
「……ちょっとお待ちよ。その辺の獲物って、誰がとってたんだえ?」
ぎょろ目のナイアルの隣で、白湯をすすっていたおばさんが声を上げた。
顔の輪郭からきりっとした太眉、大きな翠の瞳まで、息子そっくりナイアル母である。
テルポシエ下町・老舗乾物屋≪紅てがら≫の前おかみは、今日も頼れる給仕役として店を手伝いに来ていた。
「そりゃあ母ちゃん、当ったり前にアンリだよ」
「ええ~? けど……」
「そうよ。アンリ君は最初の射撃訓練で、ぜんぶ的を外しちゃったのでしょう? 弓矢あつかいが苦手だったんじゃあないの?」
ナイアル母のさらに向こう、食卓の角付近に座っていた雇われ女将のエリンが問うた。
アンリ同様に血色のよい顔で、二杯目のお粥を精力的にぱくついている。第二子の妊娠中なのだが、つわりとは無縁であるらしい。
「あっ、それはですねぇ! お姫さまー」
にゅうっと突き出されたビセンテの手から、空の椀を受け取りつつアンリはエリンに笑いかけた。
先だって、テルポシエ元首の地位から名実ともに引退した元女王のエリンを、アンリたちは変わらずお姫と呼び続けている。
「動かないものに向けて撃ったことが、それまでなかったんですぅ。俺ってば小っちゃい頃からずーっと、いなかの森で母方おじといとこと一緒に、たべもの狩ってばっかりいましたから~!!」
「そ、そうだったの」
テルポシエ王族最後の末裔たるエリンは、少しふっくらした顔を驚かせてうなづいた。どう考えたって、動いてるものに当てるほうが難しいのでは……??
「その頃からずうっと、こんなおいしいお粥たべてたの? ナイアル君」
ミオナは隣のナイアルを見上げる。
暗色髪の東部系少女は、話に出てきたテルポシエとエノ軍の大戦争の後に生まれた。
はるか大昔、それこそ母が語るむかし昔の物語みたいに遠い時代と思えるけれど、大好きなナイアルがその登場人物なのは不思議な気がする。
「おう、そうだなあ! こんな豪勢に、牛酪だのの付け合わせはなかったけどよう。基本は変わらず、常にうまいな。アンリの杣粥は」
「きゃふッ! りんごの蜜煮と、くず蜜もありますよ~?? ナイアルさんに、ミオナちゃあああん」
気をよくしたアンリは、焼きたてぱん顔をますます明るくてからせる。
嵐月の曇り日、窓から入る光も弱く厨房内に光源はないのに、一体どこの光を反射しているのか。
「しょっぱい系で食ってんだから、いいっつの」
軽ーくいなしつつ、それでも副店長は胸のうちで≪第十三≫を支えためし係に感謝もしていた。
――敗戦までの下り坂、包囲の後の泥沼みてぇな潜伏……。こいつの料理がなかったら、俺も大将もビセンテも。どっかでくじけてたかもしれんのだ。
大切なものをいくつも亡くして、心が折れる瞬間は繰り返しあった。しかし、そのどん底からまた起き上がって歩き始める力を得てこれたのは、毎回毎回アンリが熱い食事を作ってきたからだ。
塩をきかせただけの粥。しかし杣粒をていねいに炒って素早く膨らませたその香ばしさと熱さは、これを食えば何とかなる、という未来への支えだったのだ……間違いなく。
そうして自分たちの進んできた道に、後悔はない。
「うおーし。皆、朝めしまかない存分に食って! 今日も≪金色のひまわり亭≫営業だぞう!」
うーす、はーい!!!
景気よくあげたナイアルの朗らか一声に、食卓につく面々がこたえた……。
「くれぐれも無理は禁物だが、お姫! 金月分収支の確認と、貼り出し用献立表の清書をたのむぞッ」
「ふふっ、お任せだわ。ナイアル君」
元女王の上品貫禄をふわりと漂わせ、女将のエリンはにこりと笑う。
「母ちゃんは、昨日に引き続き! ミオナに玄関からの客誘導と、注文の取り方を仕込んでやってくれ」
「あいよ。この子は飲み込み早いから、すぐに使えるようになるよー」
ナイアル母にうなづかれて、給仕見習い・ミオナはきゅうっと唇を引き結んだ。
「はい、がんばります!! (ナイアル君のために!)」
大人同様に給仕をやり切る体力はある、とミオナは自負している。あとは人見知りを……そう、人見知りなのを克服するだけなのだ。副店長のためにッ。
「大将は今日、井戸の囲い屋根修繕いくんすか? ああやっぱり~?」
副店長の問いにうなづくだけの店長、ダンはどこまで行ってもめんど臭がりだ……。いや、本業お直し作業だけは、何がどうあってもめんどうではない。
「ビセンテはぁッッ?」
「たきつけッッ」
ぎょろ目をむいて問うたナイアルに、獣人は牙を……ちがった! 歯をむいてビセンテは応えた。
「そう、今日は≪岬の集落≫からイスタが野菜積んで来てくれる日だ。そろそろ向こうからの薪搬入も増えてくるから、気合いれて頼むぞぉッ」
「そ・し・てーッッ。ナイアルさん、本日も俺は!! いとおしき腹ぺこお客様のため、正義の焼き目をふるいまーすッッ」
くわーッとあかく頬をてからせて、料理人アンリがうなる。
そう……。召集とあの過去の戦役から十数年! 敗戦を経て太平の世となったいま。
≪第十三遊撃隊≫の面々をそっくり従業員として、アンリは念願の料理店を立ち上げたのだった。食欲と胃袋を通してつちかったゆるぎない信頼と絆とを礎に、今日もアンリは故郷テルポシエ市民たちのため、その腕その鍋をふるうのである!!
がしッと差し上げたアンリの右手には、いつのまにか鉄の平鍋が握られていた。
「燃えよ!! 平ー鍋ッッ」
アンリの曽祖父、先々々代≪金色のひまわり亭≫料理人兼店主より引き継いだ、たましいの宿る鉄の平鍋。その名も、≪正義の焼き目≫を手に、アンリは熱くるしく咆えた!!
「腹ぺこちゃあああん! いらっしゃあああああい」
〇 〇 〇
は~い、みなさんこんにちは! 俺です、アンリが鍋もって帰ってきましたよ~! 本作の冒頭部分に触れていただきまして、誠にありがとうございました。
今回もはりきって毎日お昼更新いたしますので、どうぞ食べにいらして下さいねー。ひまわり亭の従業員一同、お待ちしております! でもってよろしければページ下部分にて、☆評価やブックマークもお願いいたしまーす♪♪
めくるめく過去の思い出の中で俺がつくった『杣粥』ですが、杣麦はお蕎麦の粒のことです。きのう門戸さんに憑依してちょっと作ったんで、写メしました♪ えっ、最近は写メって言わないんですか~?? ぺかってるあたりどうしても俺ですね、すいませんてへ!
それでは冬の新連載、「金色のひまわり亭にいらっしゃい♪きのこ鍋っ子、腹ぺこちゃん」どうぞよろしくお願いしま~~す!!!
あなたのお鍋料理人・アンリより、熱を込めて♪♪




