58. バトル中継はりきって行きましょうッ!
「腹ぺこちゃん達の平安をみだす者どもに!! 災いあれぇぇぇぇ」
ぶんぶん平鍋を振り、ひらめかして湯気を立てながら迫ってくる背の低い料理人に、やさぐれ貴公子は後じさる。
(湯気の発生源は鍋ではなくって、アンリの焼きたて頬である。念のため)
そこへ、卓子の間のせまい通路を縫うようにして、二人の配下らしき男どもが入れ替わった。
壁際に行った客たちを背にするアンリとビセンテの前に、立ちはだかる!
その手には……ああ、何ということだろう!? 山刀と中剣、ぶっそうな武器が握られているではないか。
対してアンリとビセンテ、ナイアルが武器らしい武器を何も持っていないのを見て、客たちはこりゃやばいぞと思い始めた。
常連老夫婦は卓子の下へ、ごそごそもぐり込む。血気さかんな若い労働者らは、いっちょう助太刀すんぜと麻衣の袖をまくり上げる。もりもり!
その時、エリンが音なく移動して、露壇に出る大窓をさっと開けた。
ずさっ。
重い足音がして、ぬうんと入ってきたのは……店長、ダンである!
「あっ! てめえ、どうやって――」
やさぐれ貴公子が叫びかけた時、立ち回りに間に合って安堵しているダンは、赤く充血した目でぎとっと男たちを見据えた。次の瞬間、その巨躯からは想像もできないほどの素早さで、どーんと大きく跳びこんでいった。
びしぃん、ぶしッッ!
手にした物干しざおの先で容赦なく、ダンは男たちの武器を持つ方の小手を突く、はじく!
「くそッ」
びっし、ばっし!
店長はうっぷんを晴らすつもりで、連突する。
さっきお客の上衣を預かる玄関脇の小客間に入った時、妙な気配を感じて振り返ったら、かちゃんと扉が閉まった。そして開かないッ!!
即座にはめられたと察した店長は、前回きのこ城の時と同様、すちゃっと針を取り出して鍵穴に差し込んだ。しかし解錠はできても、扉は開かなかった……。敵は小客間の戸に、つっかい棒をほどこしていったのである。
ぎいーっっ!!
店長はきれかけた。自分ですんごい念を入れて装飾金具を修復し、つや出し加工をした扉を、蹴りやぶれるわけがない!!
奥歯をぎりぎり噛みしだき、おそろしき死神表情でうなりかけた時……ダンは気づいた。
――いや、窓から出れんじゃん?
と言うわけで、でっかい店長は窓からもそもそ脱出した。
長槍の代わりに、横庭に立てかけてあったものほし竿をひっつかんで、裏庭側から参上たてまつったのである。
ばし、ぶしッ!!
左右にぶれて、食べかけのものが置かれた留守食卓に敵が触れそうになる。と、すかさずアンリの平鍋とビセンテの右脚が、男たちの身体をはじくのだった。
「地味に見えますが、あれってやってること、めちゃくちゃ難易度高いのではないのでしょうかッ? 中継席おとなりの識者、パンダルさん!」
「その通りですね、ロランさん! もやしな文系おじさんであり、典型的な非戦闘要員の私には、戦法だの流派だのがさっぱりわかりませんがッ。周囲のお客に迷惑がかからないよう、店員勢は一丸となって物的被害を防いでいるように見えます。実にみごとです!」
ひょろのっぽの青年の後ろから、こわごわ顔を出してのぞくようにしながら、パンダル・ササタベーナとロランが見たままを実況中継している。
「と!? ひとかたまりになった敵四人を、とうとう客間の出入り口付近まで押し出しました、店員陣!」
「ああっ、でっかい人がものほし竿を八相に構えたかと思うと、そこからの鋭い薙ぎ上げです! 右手の敵の中剣が弾かれましたッ」
「そこに、料理人の平鍋底が叩き入ったあああ! ああ倒れましたねロランさん?!」
「数えましょうパンダルさん、いーち・にー・さ~ん!! 再起はどうにも不可能っぽいです。一人のしました!」
「大きな方の左側では引き続き、お迎え役の方が、山刀を振り回す男の攻撃をひょいひょい軽やかによけ続けています」
「くるりとふところに隙をあけた、この瞬間ッ! ぬぁーんと、右足回し蹴りで山刀の刃を真横から打ちましたぁーッッ」
「どれだけやわらかい身体をしているのでしょうっ。ちなみに私は若い頃から、床に手のひらがつかない人ですッ」
「いや聞いてないです、識者パンダルさん! 野性味風貌の店員は、そのまま強烈な右の肘打ちで対峙者のあごを直撃ッ」
「これは痛い、……おお!? もんどり打ったように、後ろへ倒れてしまいました。明らかに昏倒しているっ」
卓子のそばに戻ったエリンは、はじめササタベーナとロランの息の合いまくった中継に驚いていた……。しかし目の前の戦況が白熱化してくるとともに、自分でもこぶしを握り締める。
「そこよ~! がつんと行っちゃって、店長ー!!」
もと女王の、気合応援!!
がつーん!!
はじめにリリエルを拘束し、アンリの焼き目いっぱつを食らってから、どうにか立ち直って頭役を背にしていた男の喉元に、店長怒りのものほし石突が激突した。
取り出していた短剣をがたりと取り落として、そいつはばたばたと数歩あとじさった後……がくりと膝を折って、くずおれた。
残るは頭役、あと一人。やっちまえ、ひまわり亭! ……と客一同が思ったその時。
きききき……と、奇妙な物音が巻き起こる。
「てめぇだけはぶっ殺して、道連れにしてやるぅ。くそったれの死神めッ」
やさぐれ貴公子が咆えた。
最後の仲間を盾にして、頭役は虎の子の弩を装填したのである!!




