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金色のひまわり亭にいらっしゃい♪ きのこ鍋っ子、腹ぺこちゃん  作者: 門戸
◆パンダル・ササタベーナ先生の会食◆
54/66

54. いらっしゃいませ! ササタベーナ先生

・ ・ ・



 テルポシエ大市、南区あなご通り三一七番地。


 静かな住宅街の路地、その先やや奥まったところ……。


 かつて栄華を誇った高貴族の、由緒ただしき屋敷を改装した隠れ家風の料理店である。


 ≪金色きんのひまわり亭≫に足を踏み入れて、ササタベーナ一行の三人は、ほほ~と感心している様子だった。



「ようこそいらっしゃいました」


「お疲れ様でございます」



 エリンとナイアルに出迎えられて、ササタベーナは玄関で帽子を取る。



「ようやくお会いできましたね! 御方まだむ



 まっすぐにエリンを見て、学者おじさんはにっこりと笑った。



「とても嬉しいですよ。……貴女あなたが元気そうで、本当に良かった」



 その言い方が真摯で滋味ぶかかったものだから、エリンは身構えていた心から鎧を少し下ろして、ほっとする。



「ええ、わたしも嬉しいです。先生」



――なあんだ。文章と同じで、根の優しそうな学者先生だわ!



「本日、女将と一緒に給仕を担当いたします。副店長でございます」



 控えめに挨拶したナイアルを、ササタベーナはやはり真っすぐに見た。



「ええ、よろしく。……表の献立表は、あなたが書かれたんですね?」


「は、さよでございます」



 にこにこにこっ!


 ササタベーナの青い双眸が輝いて、何だかいたずらっぽい笑顔になったのだが。ナイアルはそれを単に、おじさんの親しみあるあいきょう・・・・と受け取った。



「良い字を書かれる!」


「達筆の先生にそう言っていただけて、光栄です。……さあ、お席へご案内しましょう。お荷物と上衣は、こちら玄関でお預かりすることもできますが?」


「いいえ、このままで結構です」



 ササタベーナ一行の背後に佇むビセンテとミオナに、ごくろうさん! の意味でナイアルはすばやくうなづいた。そうして廊下の奥に向かって、手をさしのべる。



「大切なご会談ということで。ササタベーナ様には、特別個室をご用意いたしました」



 びしッッ!!


 ナイアルのその言葉に、ササタベーナ以下三人の顔がかたく凍りついた。



「先生……?」



 怪訝に思って、エリンがそっと問う。


 と、微妙に青ざめた表情をむりやり笑いにひくつかせて、ササタベーナが答えた。



「あ、あのですね……。個室と言うのは、その。考えておりませんでした」



 小刻みに震えているせいか、おじさん学者の顔の輪郭が、なみなみ波線描写になっている。



「じ、実は。パンダル君と僕は、大の閉所恐怖症なのです! できればごはんは、他の方もいるにぎやかなところでいただけると、とても嬉しいのですが……!」



 パンダル・ササタベーナの友人であり助手だというロラン氏が、助け舟を出すような調子で腰低く言い添えた。


 ナイアルとエリンは、ふあっと顔を見合わせる。



「そういうことでしたら、客間の角席へご案内しますが……よろしいのですか?」


「ええ、ええ。角席でも末席でも、ぜんぜん構いません! ひみつの密談だとか、ひとに聞かれて困る話をするわけでも、何でもありませんのでね!」



 なんだかぎくしゃくした慌てぶりだったが、ともかくササタベーナ一行のためにナイアルは店長ダンを呼んだ。露壇口から陽光の入る、明るい角に卓子を二つくっつける。


 まだ昼の営業を始めて間もない。店内には、早めの昼食にありついている男性客が数人いるだけだ。


 大きく作ってもらった卓の椅子につきながら、ササタベーナは横のロランをさっと見る。



――助かったよ、心の友よッ。こんなに立派な店の個室なんて使ったら、追加料金がとんでもないことになるだろうからねッッ!?


――うん、なんてったってテルポシエだもの! 場所代とか油断できないしねッ。君も僕も本名で小切手きれないし、持ってる現金にだって上限というものがあるさッ。


――場所はどこでも! おいしいものは、おいしいです!



 視線会話、発動!!


 何か一人、ずれている護衛役のが混じってはいるが。


 ふところ具合をどうにか隠そうとしている、ササタベーナ達の懸念をよそに、ナイアルは慇懃に言った。



「ご会食相手の皆さまがお着きになるまで、何かお飲みものをお持ちしましょうか? テルポシエが誇るシエ半島産の林檎りんご発泡果汁など、各種取り揃えております」



 ぎくり!!


 一難去ってまた一難、ササタベーナは笑顔をひきつらせる。



「そ、そうですね~! けれどお食事の前ですし、それにたくさん歩いて喉が渇いてしまったので。お白湯さゆをいただけると、とても嬉しいですね」


「はい。かしこまりました」



 うなづいて、ナイアルは厨房へと歩いてゆく。しかし戸口をくぐったところで、小首をかしげた。



――う~む? ガーティンローのお人っつうから、派手なもんを好むと思い込んでいたが。白湯たぁ、地味に健康志向だな……。



 が、すぐにぎょろ目を見張って思い直す。



――ああ? いや待て。相手はけっこうなおじさんだ。みかけは元気でも、何ぞ持病でもあるのかもしれんな! こりゃあ下手に色々すすめるのは、かえって迷惑になりかねない。よし、あくまでも向こうの希望に沿う形で、無難に行こう……。



 ああ、何という慧眼けいがんの副店長。


 その通り、パンダル・ササタベーナは慢性的な金欠病にかかっているのだ。


 まあ、そういう星のもとに生まれついてしまった場合でも、持病と言うのかどうかは謎なのだが。




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