52. 獣人&まじょっこのお出迎え
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ごい~~ん!!
眠月十六日、朝十一の時鐘・あとがねが響いた。
あまり人通りのないテルポシエ北門付近。
外に広がる野と市内とは、堅牢な市外壁で区切られている。
さらにその中にある、市内壁にしつらえられた検問所を、離れたところからミオナはじっと見つめていた。
ふ~! 静かに鼻息をつく。
閉まった商家の庇の下、少女はすぐ脇に立っているビセンテを見上げる。
「なんだかもう、すんごい緊張してきちゃった。お迎えだなんて大役、わたしにできるのかな……!」
金色のひまわり刺繍をほどこした、かわゆい三角旗を小脇にはさんだビセンテは、険のない目で隣の娘を見下ろした。
ぶっちょう面でも、これは彼なりの苦笑である。
おまえは店を出た時からずーっと緊張して、心の臓がとびはねてんだろ、と内心で思っている。
「でも。ナイアル君に直々に、お前にたのむぞって言われたんだから! わたしがんばるっきゃないのね、ビセンテさん! うん、がんばるわたし!」
ナイアル君のために~~!!!
胸中で絶叫している若ーいまじょっ娘の声を、じつは獣人はちゃんと聞いて理解している。
なのでぶっちょう面の毛先を揺らして、うむむとうなづいてやった。
ミオナの母親、≪声音の魔女≫ことアランは、自分に近しい存在なのだとビセンテにはわかっている。
周りの者が聞かない音を聞き、ビセンテにしか聞こえない声で時々話しかけてくる、あの小っさい魔女。
親族というのではないが、ひとの中でも同じ種類なのである。そういう者たちをビセンテはこれまでに何人か見てきたが、特異な力を使ってなるべく多くの人間の手助けをしようとしているアランのことは、いいやつだと認識していた。
そして、ナイアルに対し純然たる好意をもっている魔女の娘ミオナのことも、たいへんいいやつだと確信していた。なので決して、≪くそがき≫呼ばわりはしないのである。
今、ビセンテは【パンダル・ササタベーナ氏の一行】を迎えに来ていた。
遺骨調査の現場、古戦場跡と墓地から一番近いここ北門が、待ち合わせ場所に指定されている。
イリー街道に直結していないため、北門を通るのはほぼ地元の集落民ばかり。
ここでササタベーナ氏を回収し、北区と東区を縦断して南区の≪ひまわり亭≫まで無事に連れてゆくのが、今回ビセンテに課された使命なのだ!
と言うのも、だいたい庭仕事ばっかりしているが、彼はれっきとしたひまわり亭の用心棒なのだから。
……まあ、護衛としては申し分ない。しかしほとんど人語を話さぬ獣人だけでは、絶対むこう様も困るだろうと副店長は頭を抱えた。
≪お姫が行くのが一番いいのだが……。身重なやつに歩かせ通しや、立ちっぱなしをさせるわけにはいかん。大将……? いや、さらにだめだ!!≫
≪ナイアルさぁぁん! こういう時こそ、かわゆい処の出番じゃないんですかぁぁッ!!≫
……ということで、ミオナが獣人にお供することになったのだ。
外国からの重要なお客さまを迎える、という特別任務を負ったミオナは、聞いてくらくらしかけたのだが……。
――ナイアル君に、いいとこ見せるんだっ!!
おとなしい見かけの内に、ぎらぎら熱意をたぎらせて、実はミオナは息巻いてもいる。
ふいっ、とビセンテが前に歩み出す。
「あっ!」
はっとして、ミオナはその後ろに続いた。
検問所の前に、ゆっくり出てきた三人組がいる。
自分が三人組に近づくのと同時に、ひょろろんと長細い若い男が、他二人のななめ前にさりげなく踏み出すのをビセンテは見た。
柔和なやぎ顔の青年は、特に殺気だの闘気だのをぶつけてきたわけではない。
しかしそいつができるやつであり、ごく自然に警戒の波動を放っているのを察知して、ビセンテはこりゃいかんなと思った。後ろの二人も、顔に不安をにじませているではないか。
短く振り向いてミオナにうなづく、……まじょっ娘にまかせることにする。
「福ある日を! ……ササタベーナさまの、ご一行でしょうかっ?」
多少噛むように息せき切ってしまったが、ミオナの呼びかけに対して、三人はふいっと警戒を緩めるような表情になる。
「はい、そうです。お嬢さんに、福ある日を」
若いのっぽの後ろには、つばの広い帽子をかぶったおじさんと、ゆでたまごのようなつるつる頭のおじさんとがいた。
帽子おじさんの方が、そのつば縁にちょいっと手をかけ、ミオナをまっすぐに見て答えてくる。ゆったりとして、丁寧な言い方だった。
ミオナはうなづいて、きゅううっとお腹に力を入れる。
「ようこそテルポシエへ。ご案内いたしますっ」
帽子おじさんは、ちょっと目を細めて微笑んだらしい。
「≪金色のひまわり亭≫へ、いらっしゃいませー!」




