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47. 死神店長、地味に活躍

 やがて、空になった皿が音もなく下げられ、入れ替わりに新たなる台車が個室に到着した。


 今回そこに載っているのは鍋ではない。金属製の丸天蓋をかぶせられた、いくつもの皿である。



――何つう仰々しさだ……!



 ナイアルが圧倒されていると、戸口の方に別の人間の気配がする。あの、がっしりしたフリガン家のばあやさんが現れたのだ。そしてその背後に……。



「ビセンテ? いつの間に、外に出てたんだ」


「え? ……て言うか、絵的におかしーい」



 振り向いたナイアルとアンリが驚くのも、無理はない。


 なんと獣人は、あの小さな娘を肩ぐるまして入ってきたのである!



「おやー、リブちゃん! すてきなことを、してもらってるねー?」



 声をかけてきた父親のベッカに、娘はビセンテの頭にしがみついたまま、にこーっとどや顔で笑った。



「リブちゃまはめんくい・・・・でございます。史上最大級のぐずり方でしたけれども、こちらのお兄さんがお庭にいらした途端、ごきげんになられまして」



 ビセンテの両手からリブレイン嬢を抱き取りつつ、ミラベルばあやは言った。



「……ビセンテさん、おこさま得意とかじゃありませんよね~??」


「ああ、真逆だぞ。むしろお子様は、お前の担当でなかったのか。アンリ」



 アンリとナイアルは、もそもそと小声で話し合った。


 そうなのである。≪第十三遊撃隊≫時代、獣人は新兵だったアンリを、さらに敵軍捕虜としてとらえたイスタ少年を、≪くそがき≫と呼び続けるほどに年下ぎらいだったはずである。年少の者に気遣いするなんて、いいやどころか、人間にやさしく接しているところなんて、見せたことがなかったのに?



 ふーん!!


 ゆるいぶっちょうづらのまま、ビセンテは鼻息を大きくついて自分の席にもどる。



「さあさ、リブちゃまも端っこお席に座りましょう。……え?」



 こども用の補助席にリブレイン嬢を入れようとしたミラベルばあやの横に、末席にいたダンがもそりと近寄った。



「うさたぁーん!!!」



 娘は金切り声をあげた。


 小山みたいにぬぼーんとでっかいおじさんの、そのでっかい手の中に、息を吹き返した毛皮のうさぎがいたのである!


 とれた首はしっかりつながっていた。それだけじゃない! 臙脂えんじ色のあみあみ首巻までまいて、すてきに粋になっている!



「うさたん、いきかえったぁぁぁっっ」



 ダンのでっかい手ごと、リブレイン嬢はうさぎを抱きしめた。



「……大将……。すんごい静かと思ってたら、席の下で何してたんすか……」



 真っ赤に充血した死神的な双眸でぐぐっとナイアルを見て、ダンはにやりーと口角を上げた(こわい)。


 超高級で知られる≪うに角獣こうん≫の毛皮製うさぎ。しかしてぬいぐるみの構造はごく一般的だった。


 長槍に加えて、お裁縫道具を常時携帯している本業お直し職人にとっては、とれた頭をくっつけるなんて朝めし前!


 しかし、つぎはぎをどう隠すか、でダンはちょっと悩んだ。と、つぶし汁の皿の脇にあった、臙脂えんじ色のなぷきんが目に入る……。


 それをほそーく裂いて、つないで、ダンはかぎ編みでえりまきをこしらえてしまった。ある意味で神わざ、死神わざ


 つぶし汁? 編んでる合間に何かすすった気もするが、味も何もおぼえていない。どんなのだったっけ……いやどうでもいい、顧客・・がめちゃくちゃ喜んでいるなら、それでよし!


 もう一人、二人と同じお仕着せ姿の給仕たちが入ってきて、一同の前の皿覆いを次々に取っていった。


 ふあっ! そこから、湯気とともにほとばしったのは……。



「ぬううううおおおおおおッッ!! 地鶏の鍋蒸し、やはりそう来るかぁっっ」



 鮮やかな緑色の海藻を敷いた中に、存在感のある鶏肉が鎮座していた。


 熱くるしくうなったアンリを、給仕の一人が小首をかしげつつ見ている。



「ガーティンロー北部、ラルメーグ森林で育てられた最高級地鶏に、黒いちごのたれをかけたものです。下の≪海水うみれたす≫は、けさファダンで揚がったものを船便で取り寄せました。すべてお召し上がりいただけます」



――何というこだわり、なんと言う色彩! これが……。これが、新生≪うるわしの黒百合くろゆり亭≫の本気なのかッ!



 震える手で食器を扱い、アンリは口に入れて……視界がまっしろになった思いだった。



――ううううう、……おいしい……!!



 ねたみそねみ、くやしさ。そういったちゃち・・・な負の感情を吹き飛ばすほどの、圧倒的うまさの前にアンリは言葉を失う。


 他の者も全員、無言で咀嚼していた。地鶏のやわらかい肉に、黒いちごの芳醇な香りがからまる。あまりの美味に口中から全感覚を支配され、会話は忘れられてしまっていた。


 アンリはふいと首をのばし、端の席にいるリブレイン嬢の皿に目をやった。


 少し遅れてもたらされた小さな鉢皿をのぞきこみ、大きななぷきんを首に巻いてもらった幼女は、嬉しそうにさじを握っている。



「ちょうちょたーん」



 少しかためにこした、前菜の栗つぶし。その上に、うす切り地鶏肉で細工もののようにこしらえられた乳色の蝶々が、はなやかに咲いていた。


 アンリは長く、深くため息をつく……。




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