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40. ガーティンローへおよばれ旅行♪

・ ・ ・ ・ ・



「♪ゆ~だる~ゆ~だ~るよ、お鍋はー♪ゆだる~~」



 からから回る車輪の音に、料理人のご機嫌おんち・・・声がねばりつく。


 灰色の空が広がる秋の朝、馬車の荷台に揺られるアンリの頬は、今日もあかく焼きたてにぺかっていた。


 南海沿岸を走るイリー街道。


 左手に紺色の海を臨みながらそこを進む軽量型の馬車は、枯草しみしみ迷彩柄の外套を着た四人……。アンリ、ナイアル、ビセンテ、ダンをぎっしりと座席に詰め込んで、西へと向かっていた。


 前座席、アンリの隣から御者台に向けて、ナイアルが声をかける。



「父ちゃん。そろそろ後退するかぁ?」


「だなあ。次の宿場町で代わってくんな、ナイアル」



 二頭のごっつい灰色馬を御しつつ、息子と同じ音声にてナイアル父が答えた。


 ひとり二役みたいな会話を前方に聞きつつ、後部座席で巨体をちぢこめおとなしく座っているダンは、本日も平常心である。乗り物に酔わないってほんとにいい。少々お尻が痛くとも馬車移動最高~、船はもうやだ~、と内心で思っている。



「いい天気になりそうだな! 夕方前に、ガーティンローに着けるだろう」


「ああ。フリガン侯とのお約束に、ばっちり早め到着できる」



 父に言葉を返しつつ、内心ナイアルは野望にみち満ちて、胸の中でくくく・ははは、と笑っている。


 以前イリー都市国家群・最西端のデリアドを訪れた際、一行はガーティンローの文官騎士ベッカ・ナ・フリガンと知り合った。


 その小さな娘を、アンリが救出したのがきっかけである。しかし文官騎士が超絶級の富豪と知り、以降ナイアルはまめにお便りを書き送っていた。このご縁、逃すまじッッ!!


 その副店長の抜け目なきご挨拶やり取りが功を奏し、フリガン侯が≪ガーティンローでお会いしましょう≫と提案してきたのである。のらない話はない。


 この商談・・を確実なものにするため、店長以下四名≪金色きんのひまわり亭≫の面々は、三日間の馬車旅程を組んだ。そして迎えた当日、いま現在ガーティンローに向かっているのである!


 昨日は昼営業にて終了ののち、テルポシエを発った。午後じゅう飛ばしてお上品な隣国オーランを通過、現在はファダン領に差し掛かったところである。


 ファダンは海から内陸、森間部にむかって縦長の国だが、ほとんどのイリー諸国において隣国どうしの距離はさほど遠くない。と言っても普通に馬で一日半、徒歩でたっぷり二日はかかる。四人にとって、往復四日間の旅程は少々長すぎた。いや体力うんぬんではない、店をそんなに空けてはいられないという話である。


 と言うわけで、ちょうどガーティンローへ商用旅に出るところだったナイアル父に便乗する形で、一行は駅馬業者に馬車を借りた。ナイアル一人で往復運転はさすがにきついが、老舗しにせ乾物商≪紅てがら≫熟練買い付け係の父がいれば、順次交代して効率よく距離がはかどる、と言うわけだ。


 ちなみに≪第十三遊撃隊≫の面々で、まともに馬を御せるのはナイアルひとり。二頭馬車の免許も、副長だけしか持っていない。


 ……いや、語弊があった。隊長のダンは、御すだけならできる。馬もわりかしかわゆーい、と思っている。しかし死神隊長はアンリを上回る方向おんちであった。土地移動の感覚がここまでおぼつかないのは、もはや天才の域と言えよう。どこ行きゃいいのだろう、という不安が馬に伝わり、さらにとんでもない彼方へ行ってしまうから、よっぽどの緊急事態以外はついてく専門の人なのだ。……いや、緊急事態こそ誰かについていった方がいい、たぶん。


 またアンリにとって、馬はのりもの≦食材、おにくである。さくらさくらと口中つぶやかれながら近づかれては、馬は生命の危機を察して怯える。御せるわけがない。


 獣人ビセンテにいたっては野生がほとばしり、本能的に馬とがち・・対峙体勢を取ってしまう。なかよく共存してのりもの利用、なんて到底無理なのだった。


 まぁ……そんないきさつで、むさ苦しい一行をのせた馬車は今、ガーティンローへの道のりをぐいぐい進んでいるところなのである。


 やがて前方左手に、ファダンの首邑みやこが見えてくる頃だろうか。



「ふふふ……ファダン名物するめいかの薫りが、風に含まれているかのような錯覚」



 何気なく察して、後部座席のビセンテにかくしぽっけから出したげそ・・を渡しながら、アンリは不敵にひとりごちた。


 するめ潮風に、いちご金髪がわさわさ揺れる!



「お元気ですかねー、フリガン侯。ガーティンローではどんなごはんを、ごちそうしてくださるのかな~!!」



 アンリはのどかに呟いた。


 そう、この後どんな料理に出会うかも……この時は、全く知らずに! ああああ!



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