表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/66

35. 謎のピンク男、消えうせる!

「何だ。やつは一体、どこへ行っちまったのだ……!? うおーいビセンテ、何かわからんかッ」



 後方にいたビセンテに向けて、少々焦りつつナイアルは呼びかけた。


 敵の姿がかき消えた以上、頼みの綱は人智を越える獣人の知覚である!


 しかしよろよろ歩いてきたビセンテは、壮絶なる不調ぶっちょうづらにて首を振った。


 ビセンテの聴覚は確かに、多人数をのせた二頭立ての馬車の音を聞いていた。その気配が燃えさかる古城の脇を通り、谷間ぞいの細道方向へと去ってゆくのも察していたのである。


 しかし獣人の視覚をもってしても、そのはっきりした姿はとらえられなかった。毒きのこの臭気にあてられた鼻では、その残り香を追うのも不可能だったのである。



「え、じゃあ何ですか。けむりみたいに消えちゃったように見えましたけど……。単に姿が見えなくなってた、ってだけなんですか?」


単に・・、とか言うなアンリ。そんな目くらましの魔法みたいな術を使えるのは……!」


「ああ! フィオナちゃんの精霊、≪ひかりんぼ≫ですかね~?」



 ぺかっと頬をてからせて、アンリは思い付きをそのまんま口にした。


 フィオナちゃんと言うのは、えー……。かいつまんで言及すると、アンリ達の知り合い、精霊つかいのお嬢ちゃんのことである。いまだお子様ながら、さまざまな妖精たちの力を使って、摩訶不思議を行うことができるのだ。まじょっとは違うぞ!


 しかしナイアルは、極太まゆ毛をぐぐっと寄せる。



――何なんだ、あんちくしょうッ。まさか精霊を使役できるようなやつが、悪徳の毒薬業者に加担してるっつうことなのか……?



「……あった」



 もそり。ダンがでかい小山のごとく、地面にしゃがみこむ。


 その指先には布切れごし、ようじ・・・のような細いものがつままれていた。



「何か、めっけたんすか? 大将」


「あー。それってさっき、ティー・ハルがはね返したやつですよね?」



 ナイアルとアンリは、ダンの手中をのぞきこむ。


 いや、ようじ……にしては何やらいろいろ彫りこんだような、突起が目立つ。極細のねじのように、見えないこともない。



――まさか、毒の吹き矢か何かかなぁ?



 独創的なおもしろ武器の大好きなダンではあるが、これは見たことがなかった。



「何すかねー? ……毒を仕込んだ隠し武器なら、キヴァンの民が使ってるけど……こんなの見たことねえな」



 各地を旅して、異国文化に見聞のある副長も知らない。ミオナの母にぶすりと毒矢をくらったことはあるが、あれは本当に針のようなものだった。



「じゃあ、隊長~! 持って帰って、知っていそうな人に見てもらいましょうよ。アランさんとか、スカディさんとか~」



 こくっとうなづいて、ダンは謎のようじ武器を布切れにていねいにくるんだ。ものすごくたくさんある、かくしぽっけの一つにそれをしまって、ぬうんと立ち上がる。死神隊長の頭の中は、いまやこのようじに対する疑問、および好奇心でぎちぎちだった。



――あの男。イリー人のくせして、身なりは派手に北部ふう。おまけにキヴァンの武器を使うだなんて、どれだけむちゃくちゃなのだろう……!



 自身のむちゃくちゃぶりなんて、するする無視している! さすがだ!



「まあ、消えて逃げちまったもんは、これ以上追えん。とりあえずの≪木の子の会≫拠点つぶしには成功したわけだし……。さっき助けたおばちゃん二人を探して、レプレイーンに帰るか」



 五色の煙を噴き出して、派手に燃えさかる古城をふり仰ぎ、ナイアルは肩をすくめた。


 今回一番の身体的損害を受けたビセンテを囲むようにして、アンリとナイアル、ダンはもそもそと古城を回り込み、谷側の離れにある厨房の方へ歩いて行った。


 ちなみに四人とも、城の鎮火作業なんてする気はまるでない。


 無人になったはずの城内には、非合法のきのこ毒薬つくりかけが残っているだけなのだから、きれいさっぱり燃え滅びちまえばいい、と全員が全員思っているのである。



「あれ~~? どこにも見当たりませんね、あの奥さんたち……。出口わかるって言ってたんだし、外に逃げてはいるんだろうけど」


「お、厨房の脇にいるのがそうじゃねえか」



 確かに離れの小屋、厨房の外壁に、あの影ぼうしみたいな老婆がひょろっとうずくまっている。


 たたた、とアンリは駆け寄って行った。



「奥さま、大丈夫でした~? もう一人の方は、どちらです」



 アンリを見上げて、老婆はふるふるっと頭を振った。



「あたしをここに置いて、行っちまったよ」


「……ええっ!?」



 その時、がたんと扉の開く音がした。


 厨房の出入り口から顔を出したのは、谷きのこの群生地にアンリを連れて行った、あの案内役の猟師である。



「よおっ。今なあ、ようやく! ≪死神らっぱ≫の処理おわって、全部を鍋ん中にぶち込んだところなんだが……。強火にしたらいいのか?」



 ぺかっ! アンリは頬をてからせた。



「おや、お疲れ様でした! それじゃあ、仕上げは俺がやりましょうか」


「ああ頼む、……って……」



 そこで猟師は初めて、四人の背後に燃えさかる古城をみとめたらしい。



「うげええええ、何で本部が燃えてんだよおおっっ!?」



 一心不乱に谷きのこの下ごしらえをしていた猟師たちは、全く気付いていなかった。もう一人出てきた猟師も、一緒に口を四角く開けて顔をひきつらせた。



「あー、いいんですいいんです、気にしなくって。他の人たちはもうどこかへ逃げちゃったし、代わりにお鍋をたべていきましょうー」


「だなー!」


「きじなべ」


「……」



 ≪第十三遊撃隊≫は、どかどかと厨房に入って行った。



「奥さまも、お鍋たべるでしょう? おいしいもの食べて、少し元気を出してください。後で村まで、送っていきますからねー」



 アンリに支え起こされた老婆は、表情を変えずにうなづいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ