34. 第十三遊撃戦隊、うしろで五色の大爆発!
「儂らの作る抽出液を唯一の心の支えとして待っとる、末期の病人どもがどっさりおるのだッ」
老人の叫びが響き渡る中、アンリとナイアルの背後にもそもそと追いついてきた隊長ダンは、かくっと首をひねった。
アンリの前に割って入ってきた妙な男は、イリー人のくせに北部穀倉地帯の人々の装束を着ている……。ダンは本職お直し職人の観点から、そのことに深い違和感を持った。
――うーわー、すんげぇど派手な蛍光もも色。ださいを通り越して、なんかいさぎよいかもね。若いから? っても、ナイアルやビセンテとあんまし変わんないくらいなのに。こんなの着れるなんてきもが座っているな、レイさんみたいに役者だったりして??
胸の内ではけっこう色々考えているが、もちろん口には出さない死神隊長である。めんど臭がりやだもの。
「……末期の病人に、だぁ? 要するに、お前らが取引してんのは廃人薬ってことじゃねえのか!」
ぎょろ目をみはって、今ナイアルは老人をにらみつけた。
ものすごく真剣なところである! 副長となりの料理人も、まじめに問うた!
「ナイアルさんっ。はいじんやくって、何ですかぁっ!?」
それを聞いて、ずーっと後方、城壁の前あたりでげんなりしているビセンテも耳をすました。
獣人も、知らないことは知りたい。でもっていろいろ説明してもらうなら、彼の知っている中ではナイアルの説明が一番わかりやすいのである!
「うむ! 頭や気持ちをぼんやりさせることで、痛みやつらさを一時的に忘れさせる、強烈な薬のたぐいだ。幻覚をみることもあるし、あまりに気持ちがよいので、一度使えば次々に使いたくなり、歯止めがきかなくなる! そうして病状を回復させることなく、逆に心身を衰弱させ、死期を早めてしまう薬なのだッ」
「うえーっ? つまり毒なんじゃないですかぁ、やっぱり~!」
蛍光もも色上衣の男は、肩をすくめた。
「あなた方の呼び方なんて、どうでも良いんですよー。大事なのはね、需要があるっていうことです。欲しい人のもとに欲しいものを届けるのが、私のお仕事なもんですから」
ふはぁー、とため息を上向きについて、金の前髪を浮かせている。
「まったく、もう。デリアドの主要供給源からは途絶えがちになった上、摘発されちゃったし……。ここの拠点までなくしたら、本当にどえらい大損害だよ。技術者だけは、何がどうなっても確保しないとね。……皆、乗ったか~い? 積み込みも完了したかな」
うーす、はーい。男の後方から、呼びかけに応える声が聞こえてきたが……。
「あれっ。悪役おじいちゃんが、いないっ?」
アンリは自分の目を疑った。ど派手な蛍光もも色上衣の男がぺらぺらしゃべっている間に、その背後にいたはずの老人と傭兵たちの姿が……消えている!
「それじゃあ。粗野にして地味ださい、しみしみ迷彩外套のみなさん。さようならー」
男はふい、と後じさりをした。
「待ちなさーいっ! 話はまだまだ、ついてないぞうッ」
位置的、男に一番近いところに立っていたアンリが、ざっと大股に歩みよる。
「焼き目ぇっっ」
アンリとしては、逃げるらしい男に牽制の意味で、平鍋の一撃をお見舞いするつもりだったのだ。しかし!
ひゅッッ……!
男はすばやく、ど派手な上衣袖を振った。そこからアンリの顔面にむかって、するどい風が吹く。
『むう、やばいぞッ』
古い平鍋が反応した。
その声はもちろんアンリには届かないのだが、とっさの感覚で料理人は、その不吉っぽい風に平鍋底をあてる。
かんッ!
小さな針のようなもの……と、一瞬それを視界にとらえたナイアルには思えた。
何なのかはっきりわからない飛び道具が、正義の焼き目にはね返されたその瞬間。蛍光もも色上衣の男は、くるりと大きく振り返って……
ふつり、と消えた。
「なっ……」
ナイアルと、平鍋底から顔を出したアンリは、思わず口を四角く開けた。
ざああっ、と風の吹き抜けてゆく音がする。遠ざかる。
ど、どおおおーん!!!
いきなり対峙者を失って立ち尽くす≪第十三遊撃隊≫の面々、その背後で大爆発が起こった。
と言うか古城の上階部分に火がまわり、あの工房にあった精油のたぐいにとうとう引火したらしい。
それをちらっと振り返って、隊長ダンは感心した。
――すごい。なんで五色なの? むしろきれいじゃん?? こういうことか、爆発演出……。
普通の黒煙、白煙に加えて、なぜだか青・赤・黄色と色彩あざやかなけむりが、宙高くふくらんでいるではないか。
――中心にお姫さまをすえて、五人で決めのかまえをとったら。あんがいさまになるのかも。
ああ、先ほどアンリが口走っていた爆発の美学を受け入れてしまった! はかり知れない審美吸収力をもつ隊長である!
しかしそこは極度のめんど臭がりや、思ったことはひろい胸のうちにしまって、めったに口にはしない主義。
代わりにダンは視線を地面に落として、さっき気になった蛍光もも色男の飛び道具を探し始める……。




