31. 密室むし焼き! やばいぞ第十三遊撃隊
「よし。次は上階へ行くぞ!」
ビセンテを先頭に、ナイアル、アンリ、ダンは速足で階段をのぼってゆく。そこには二つの室扉があった。
「こっちの室は、毒きのこの下ごしらえをする作業所です。非戦闘員らしき数名が働いていました」
アンリの小声を聞きながら、ナイアルは用心しつつ扉を開けた。
……大きな卓子とそれらを囲む棚には、きのこの入った無数の籠が置かれている。しかし静かだった。
風通しのよい明るい作業室は、無人である。
「……作業人たちを盾にして、どこかに立てこもったのか? あのじじい」
「だとしたら、隣の工房でしょうかね」
四人は続いて、工房の扉を取り囲む。きのこの毒気に備え、各自が首に巻いた覆面布を目元まで上げた。
それぞれ長短の槍を構えたダンとビセンテが、扉の両脇で突撃姿勢を取る。
ばんっっ!!
ビセンテが右足で蹴り込むようにして、その扉を勢いよく開けた。
「……!!!」
中弓に矢をつがえたアンリと、短槍をかまえたナイアルが、さっと踏み入ったが……。
異様な臭気のただよう工房には、やはり誰もいない。
作業台の上にはいくつも手燭が置いてあるし、大鍋が二つの炉にかかったままでふたもしていない。火がそのまま、ついているらしかった。
「んもう、危ないなあ。人を残さずに出かけるんなら、火の始末しなきゃ~」
アンリは素であきれ返り、いちご金髪の巻き毛頭をふるふる振って、炉のほうへと歩きかけた。
がしッ!!
「えー、何ですぅ? ビセンテさーん」
料理人のぶっとい上腕を握り、引き留めた獣人にびっくりして、覆面布の下からアンリはもがもが問う。
ビセンテは無言で、あごをしゃくった。
「え~、床? ……はッ! 誰かが、脂をぶちまけちゃったー!」
もともと黒っぽい石の床、目立ちにくいが入口てまえから炉の方にかけて、てかてか油っぽい液体がまき散らされているのである。
ナイアル、およびダンはくわッと両目をひんむいた。
「後退、わなだっっ」
「えー、お掃除せずにいられなくなる仕掛け~??」
くるッと振り向いたアンリの目に、ぽーんと宙を飛んでくる松明が見える。
ダンとナイアルの頭のちょうど中間、それは閉まりかけた背後の扉から投げ入れられた!
ばっしいっっ!!
瞬時、アンリを押しのけてそこへすべり込んだビセンテが、床に着地する寸前でたいまつを受け止めた。が!
ぼわあ……。
「ぬううう、火の粉がついちまったぁぁぁ」
ナイアルは再び、扉へと後じさる。かちっ!
「……かち? って、げええええ!? 外側から鍵かけられたッッ」
がくがくと取っ手を押し引きしてみたが、もちろん扉は開かない。
「何ということでしょう、≪第十三遊撃隊≫! まんまとわなにはまりこんで、閉じ込められてしまいましたッ」
「中継している場合かッ。ビセンテ、跳び蹴りっ」
どーん!!
副長の言うそばから、獣人がほぼ水平にとんできた。
しかし強烈な蹴りを食らっても、扉はびくともしないのである。ビセンテは跳ね返って着地すると、ぶっちょう面をさらにしかめた。
ここはもともと、くっさい室だ。むしが好かない。それがさらに臭くなる、ふきげん!
その間にも四人の背後では、炎がじゅうたんのように床に広がってゆく。
「皆、落ち着け。火を使う工房には、必ず広範囲機能の排気孔があるものだ! そいつを壁際に探せッ」
「ういいいいっ」
「……」
常人よりもはるかに嗅覚に優れている分、実はビセンテは毒きのこ臭気によって強い損害を受けている。頭の中がぐらぐらして、本当は立っているのもやっとなのだが、目を細めてすばやく壁を調べ始めた。
「お肉の蒸し焼きはつくる専門! 自分が天板焼きになるのは……そーんなのーは、いーやだぁぁぁ」
悲愴になってもどっちみち熱くるしいアンリは、ビセンテとは反対側の壁を探り始める。
「あー、あったぁ! ありましたぁっ」
「いいぞ、アンリ! 囲いを引っぺがせっ」
「っって、無理ですう。これ、細身なビセンテさんでもつっかえる~」
「なにっ……!?」
床の火をよけつつ駆け寄ったナイアルの目にも、その通気孔は小さすぎた。
あまりに細すぎる! 通れるとしたら子どもくらいのものだ。ミオナでも無理かもしれない!
がこっ、と音がする。
ビセンテが渾身の力を込めて、流し台を動かしていた。
「そうか。排水孔……!」
ここは上階。使用した水を階下へ流し落とし、貯めるための設備がある可能性は高い!
ナイアルとアンリはのぞきこんだが、大きな流し台の下に開いていたのは、これまた子どもの腕くらいの穴だ。
「だめだこりゃー! どうするんです、ナイアルさぁん!? 薬びんがいっぱい並んでる棚に、もうじき火が到達してしまいますッ」
そして室内の天井には、黒い煙がもうもうと立ち込め始めていた。
――やばいな。このままでは、煙に巻かれて全滅だっ……!




