30. 毒きのこ奴隷、解放!
「大将には、ここの踊り場で見張りをたのんます。ビセンテ、アンリ、下だ!」
獣人を先頭に、ナイアルとアンリは地下階へと降りてゆく。
息ぐるしさをおぼえるような石階段の下には、先ほどアンリが驚愕した毒きのこの栽培場が広がっている。
しかし、格子のこちら側に看守役どもの姿はなかった。
「ああっ。さっきの新入りにいちゃん!? たすけて、助けておくれようっ」
とらわれの中年女性が、アンリにむけて悲痛な声をかけてきた。よたよたと走り寄ってきて、両手で格子をつかむ。
「ええ、すぐにお出ししますよ! ここの錠の鍵、どこにあるのかわかりますか?」
アンリの問いに、女は動揺したように震えた。
「かぎなんて……わかんない、そんなの知らないよう。見張りのやつらが持ってるんじゃないのかい」
おろおろと弁解がましく言っている。あたりを見回して、鍵かけ収納らしきものが何もない、と判断したナイアルはビセンテを見た。
「ビセンテ、開錠」
獣人は、ふんッと鼻息をひとつ。
がっきーん!!!
素早く上げられたビセンテの右脚、そのかかとが格子の錠前部分を直撃した。
イリー社会の錠前職人は、自作品がここまで強烈なかかと落としに見舞われることを想定していない。錠前はあっけなく破壊され、格子から落ちくずれた。
「ようし、開いたぞ。中には何人いるんだ、奥さん!」
「おらと、もう一人……。ラーワさん、ラーワさあん! 出るんだよう!!」
ナイアルはきのこ栽培牢の中へ入っていって、隅の方にいるやせ細った老女のところへ歩み寄る。
老女はナイアルを見て、ふわふわんと左右に身体を揺らしたようだった。もはや平衡感覚も失いかけているのだろうか? 無理もない、すさまじい湿気と毒きのこのにおい、ついでにかび臭さで頭が回りそうな場所なのだから。
「さ、奥さん」
ナイアルは腰を落として、老女をおぶった。そのまま牢を出て、上階へ続く階段を上り始める。
「うう、わあああん。ありがとう。ありがとう、よう」
うめくようにべそをかきながらついてくる東部系の中年女は、よたよたと歩き方がおぼつかなかった。見かねてアンリが脇から支えてやり、石階段をとっとこ上ってゆく。
「とんでもない災難だったな、奥さんら? いったいどんだけ長いこと、働かされていたんだ」
中年女の話すイリー語は、潮野方言よりにひどくなまっていて、聞き苦しいほどだった。ナイアルが潮野方言にて聞くと、女は息を切らせて答える。
「おらはふた回り。ラーワさんはもう、ずーっと長いことあすこにいた。その前にいた人は、二人とも死んじまって外に出されたらしいよ!」
「げえっ、死人が出てるのか!?」
「よく知らねんだぁ。おらが来る前のことだから」
ダンの見張る踊り場まで、一行は戻る。
「奥さん、ここから外へ出る通路はわかるかい?」
「ああ。閉じ込められる前に出入りしていたから、知ってるよ。階段裏に、使用口に通じるとこがある……」
アンリは焼きたて顔をさくっと引き締めて、東部系の女に言った。
「我々はこれより悪の親玉である、あの変人おじいちゃんを追い詰めます。こちらの奥さまと一緒に、そうっと外に出て! 安全な場所に、避難していてください!」
「あ、ああ。ほんとにありがと……」
東部系の中年女は、特にアンリに向かって涙まじりにうなづく。ナイアルがおぶってきた、枯れ木みたいな老女の肩を支えて、よたよたと階段の陰に消えていった。
ナイアルは、さっと周辺を見渡す。
アンリ報告の総勢十数人中、大多数はこれで大方つぶしたはずだ。
残った頭役を叩きのめせば、≪木の子の会≫の壊滅はかたい!
「よし。次は上階だ」




