28. 獣人&料理人、でこぼこアクション
ぎりーん!!
単独、格子柵のわなから脱出した獣人ビセンテは、目の前の男たちにするどく眼光を飛ばす。
「げえっ、出て来やがった!」
そこではけむり玉の煙幕に巻かれた≪木の子の会≫の男たちが、ようやく要員を補充して計八人になったところだった。
「囲って捕まえろ!」
三人がビセンテに向かってきた。
獣人の後ろではナイアルとアンリ、ダンの三人がびしばし柵を打って蹴って、どうにか脱出口を広げようと奮闘している。
※ダンが通れる大きさにしないといけないのである。ついてく専門の隊長を、置き去りにするのはよくない。
≪木の子の会≫の男たちはそれぞれ、長短の棒を手にしていた。山仕事をする人が使うような、ごついやつだ。それを真ん中の一人が、ビセンテの胸に向かってするどく突き出す!
ずっっっ。
しかし棒は、逆にビセンテの左脇に抱きとられた。間髪入れず、獣人は左脚を折ってひょいと上げる、ばこん!
ビセンテの左膝が棒の中央部分を打ち、ずるっと手放した持ち主のあごを、握り部分が直撃した。
「ぎゃっっ」
たまらず、男はのけぞるようにして後ろへ下がる。
それに一瞬気を取られた右側の男に向かって、ビセンテはふわりとかがんだ。
しゅぱーん!!
「うわああっ……」
ああ見事すぎる足払い、男は慌てて体勢を立て直そうとしたが……もう遅い。
一人目から奪い取った棒で、ビセンテはこの男の棍棒をぐきっと封じた。かろうじて均衡を保っていた男の右脚ひざを、無造作にがくっと蹴りつける。
ぐっしゃん!
二人目は勢いよく石床に叩きつけられて、白眼をむいた。
その隙に、とビセンテの背中に向かって大きく棒を振り上げた三人目の男は、なかば勝利を確信していた。同僚ふたりよ済まぬ、お前らの尊い犠牲により俺がいまこいつを討つっ――
ずどーんっっ!!
きらっと閃光のごときすばやさで、振り向いた獣人。そのままの勢い回転にて繰り出されたうしろ回し蹴りを、あき空きの右脇腹に叩きこまれて、男はぼよんと左方向へすっ飛ばされていった。
ぴたり!
獣人の≪黄金の右脚≫が、その蹴入ったところで宙に停止している……左足いっぽん立ち。
からん、とビセンテは奪い取った棒を放った。
「いいぞビセンテ! ここまでにのしてきた外のやつら同様、相手はただの雇われ山男だが。かすられもせずに三人同時制圧はさすがだ」
ぞろぞろ、とことこ、のしのし……。脱出口をこじ開けて、ようやく出られたナイアル・アンリ・ダンの三人がビセンテの背後につく。
「し・か~し! その向こうで中剣を構えている第二波、こちらは少々ちがうようですね!」
不敵な笑みをてかり顔に浮かべて、まだまだ燃えている柵を背にアンリは言い放った。
「そういうこったな。城の用心棒、流れの傭兵つうところか」
「くっくっく。どっちみち、悪に加担していることに変わりはありません。俺とティー・ハルが、がっつり焼き目を入れてやりましょう」
がちッ! アンリは背中に手をまわし、相棒の平鍋を握った!
「大将。今回も引き続き、殺したらだめっすよ。なぎなた刃はつけないで、普通の長槍使用でたのんます」
ナイアルに言われて、ダンはちょっとしゅんとした。
すんごく映える自己流つけ刃なのに、最近ぜんぜん出番がない……。まぁここ狭いし、壁とかにつっかえて刃こぼれすんの嫌だから仕方ないか、と死神隊長は自分に言い聞かせた。
すっ!
きのこ城の傭兵が一人、端にいるアンリに向かってきた。
隙のない動きで一撃二撃……と目くらましのように中剣をひらめかす。
みかけ愚鈍そうな(ひどーい)料理人は、しかし動じずに、ふいふい的確な間合いを保ってそれをよける。そして、がきん!
首筋への中剣一刀を、平鍋ふちで力強く受けた!
剣どうしで言ったらつばぜり合いと言うのだろうが、一方が鍋の場合なんと書けばよいのだ!?
ぐぐぐぐ……。しかし互いの武器を境に迫り合った傭兵とアンリ、料理人の頬のてかりが激しすぎて、傭兵は思わず目を細める。まぶしい。
と、その時!
「ぎゃああああ、しまったああああ」
すっとんきょうな絶叫とともに、アンリはがくっと力を抜いた。
拮抗していた力をいきなり失って、傭兵はぎょっとするも本能的にいったん退くことにする。
ぱっこーん!!!
そこに平鍋の底がひるがえって、ちょうどびんたを張るように傭兵の側頭をはたき倒した。どさッ!
「やぁだぁ、山きじの脂がちゃんと取れてな~~い!! ごめんよティー・ハル、さっき慌てて洗っちゃったからねえ……」
脳震盪を起こした傭兵を、みじかめの足でぐいっと横にのけて、アンリは平鍋の心配しかしていない。
そこへ、隙をついたつもりで躍りかかってきた別の傭兵がいると言うのに! ああ、危ない料理人っ……。
「燃えよ、平ーー鍋っっっ」
だがしかし、中剣の上段一撃が振り下ろされたその刹那。敵傭兵の顔面に、鍋底がめりこんでいた……どさり。
「焼き目ぇーッッッ」
ぺかぺか焼きたて頬を輝かせながら咆える料理人の脇では、ナイアルががらの悪そうな傭兵と対峙している。




