26. 第十三遊撃隊、毒きのこ城に乗り込む
がたたっ!
アンリが先頭を切って、城の離れ厨房に入った時。慌ててふたを閉める音がひびいた。
「あー、今ちょっとつまみ食いしてましたね?」
ぺかッ!
焼きたて顔をてからせて、アンリはするどく問うた。
鍋の番を言いつけられていたもう一人の猟師が、頬を膨らましたまま、ふるふると頭を横に振る。
「いや。絶対食ったろう、お前?」
後ろに入ってきた、元祖案内役の猟師が突っ込んだ。
「いいんですよ……。それだけ俺のきじ鍋がおいしそうで、我慢できなかったのでしょう~。誘惑に勝てなかったんですね? ……で、どうです? おにくの具合は」
鍋番は無言でうなづいた。咀嚼中につき、話せないらしい。
「よしよし。それじゃ最後の仕上げとして、この≪死神らっぱ≫を入れてひと煮立ちさせるのです……。きのこをきれいにするやり方を、お二人はご存じですよね?」
満足気な顔をややしもぶくれの形にして、アンリは言った。……なぜ下ぶくれ??
「え? もちろん知ってるが……。俺らがやるのか?」
「ええ、お願いします。濡らしたふきんをかたく絞って、優しくていねいに表面を拭くのです。ぜんぶきれいにできたら、鍋に入れて汁につける。火力を上げて、六十数えてから消し止めるのです。我々が帰ってくるまでに、それを終わらせておいてくださいね~??」
谷きのこ≪死神らっぱ≫の籠を元祖案内役の猟師に押し付けると、アンリはとことこ歩いて厨房を横切り、正面出入口の方から出てゆくもようである。
その後ろ、勝手口から入ってきたナイアルが続いた。
「おう、さすがに広い厨房だなぁ?」
「……きじ」
おそろしいぶっちょう面にて、ビセンテが通る。すてきな香りのきじ鍋を素通りするのは、獣人にとってはけっこう辛いことなのだ。最後に骨はもらえるだろうか?
しんがり、かがんでお勝手口をくぐってきたダンがビセンテについていった……が、ふいと気づいて、ちゃんと戸口を閉めてから歩いてゆく。めんど臭くても開けっぱなしにしない主義の店長なのだ。
ぞろぞろぞろぞろ……。
身長低い順に一列となって歩き過ぎていった四人を、案内役の猟師二人はぽかんとして見送った。
が、元祖のほうがはっと我に返る。彼は慌てて、ふきんを引き出しに探し始めた。
谷きのこ≪死神らっぱ≫は、けっこうな量がある。至高のきじ鍋を食べるなら、迷っているひまなんてないのだ! 何としてでも、きのこの下処理を終わらせなければ。
・ ・ ・
半開きだった城の裏口から中へ入りこみ、薄暗い廊下に誰の気配もないことを確かめてから、ナイアルは言った。
「さあ、まんまと敵陣内に入りこめたわけだが。内部へおとり潜入した結果を聞こう、アンリ?」
暗がりの中にもそもそとかたまって、おそろいのしみしみ迷彩柄外套を着た四人……≪第十三遊撃隊≫は、悪組織≪木の子の会≫の壊滅作戦をすばやく練るのである!
「はッ、ナイアルさん。まず上階には摘みたて・採れたて毒きのこを処理し、抽出液を作成している工房がありました。そして地下には、なんと毒きのこの栽培場があるのです!」
「何だと! 自給自足をめざしていやがるのかッ」
「ええ。しかもそこでは、囚われの弱者が強制労働をさせられているのです。第十三遊撃隊としましては、絶対に看過できぬ悪行ぉッ!」
「あー、今回正義倫理は二の次だ。脇に置いといて、≪ひまわり亭≫谷きのこ安定供給のために戦え、アンリ。で、戦闘要員はどのくらいいる?」
「ざっと見たとこ、十人ちょいですね。今は分散しています。さっきお鍋で懐柔したから、-二人」
ナイアルはうなづいた。
「よし。では、さくっと中枢をつぶすか。組織の頭っぽいのはどこだ?」
「えー、さっきは地下にいました! けど俺、行き方わかりません。ここんち迷路みたいなんですもーん」
がくッ。副長ナイアルはうなだれた。
というかアンリを潜入させている時点で、珍しく彼の誤算だったかもしれない。内部案内なんて、料理人にできるわけがない……。
ふーッッ……。
鼻息をつく音が聞こえて、ナイアルが振り返るとビセンテがあごをしゃくっていた。
「ビセンテ? 何ぞ嗅ぎつけたか」
砂色長髪の毛先を揺らして、獣人はかぶりを振ったようである。
「うえ。……じじいがえらそうに、がなってる」
こんな長いせりふ、獣人が発するのはかなり久しぶりである……いつ以来だろう??
「じじい? ああ、たしかに偉そうなおじいちゃんが、ここんちのまとめ役っぽいです。みかけ変人の薬種商っていうか、薬屋さんというか~。独り言はいっぱい言ってそうですけど、かわいくはありませんよ!」
「かわいい悪役じじいがいてたまるか、ばかもの。それではゆくぞ、陣形歩行……」
「ナイアル」
「む、なんだ? ビセンテ」
「てき」
がしがし、じゃっきーん!
瞬時、四人は背中合わせにかたまった。
先頭、山刀と短槍を両手に構えたビセンテの後ろに、やはり短槍を下向きに構えたナイアル。
その裏には平鍋を握りしめたアンリ、さっきナイアルから預けておいた弓を返してもらってはいたが、接近戦に備えて≪正義の焼き目≫を選んだのである!
そしてナイアルとアンリの背後では、でっかい隊長が遠慮がちに長槍を八相持ちしている。
……しーん!
「おいビセンテ。誰もあらわれんぞ、俺の気のせいか?」
「……」
ナイアルのぎょろ目じっとり視線を背に受けて、獣人は小首をかしげた。
おかしい。彼の毛先は、強烈な殺気を手前に感じているのだ。先にある廊下の曲がりで、待ち伏せをしているやつらがいるのだろうか?
「ま~、ビセンテさんでもどなたでも、誤認というのはありますよ~!!」
アンリが実際ちょいと突き出たお腹で、太っ腹なことを言ったその時。
がしょーん、かしょーーん!!!
四人の前後、ビセンテおよびダンのすぐ手前に、天井から柵が落っこちて来たのであるッ!
「げえっ、何じゃこりゃッ」
「おおおう!? 古城にありがちな、ひみつのからくり仕掛け! 何ということでしょう、≪第十三遊撃隊≫の面々はわなの中に閉じ込められてしまいましたーッ」




