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24. くくく、ここから俺と鍋の魅せどころです

・ ・ ・ ・ ・



 地上階に出てから、アンリは猟師ふうの案内役に再び引き渡される。


 本城から少し離れた、石組み小屋の前に連れて行かれた。ここはどうやら、独立した厨房らしい。



「それじゃあここから、あの白岩肌の峡谷のあたりまで行って採ってこい」



 猟師がアンリに言った。二人いたはずだが今は一人に減っていて、山きじの入った籠を地面に置き、勝手口の鍵を開けている。


 崖の通路から城の正面玄関までの経路は、入り組んでいて実にややこしかった。しかしここの離れの後ろからは、裏手にある峡谷までがよく見渡せる。



「一人で行かせるが、そのまま逃げようとか冗談にも思うなよ。この一帯は俺らのしま・・だ、ところどころで見張っているやつがいるんだからな」


「えーっと……。あの、じきにお昼の食事どきですが。お手伝いしなくって、よろしかったですか~?」



 ぺ・かーっっ!!


 焼きたてつや・・の戻った頬を盛大にきらめかせながら言うアンリに、案内役の猟師は顔をしかめた。



「はあ?」


「いや、だって。今あなたそこの調理台に、山きじ置いたでしょう。これから煮込むんだったら、俺がささっとやりますよ~」


「……その分、きのこを採りに行く時間が減るんじゃないか。どうせお前が食うんでなくて、城にいる者のめしになるんだ。とっとと行けよ」



 言ったが、猟師の男はあまり強くは言わなかった。


 彼はただの外部見回り役、山男である。狩りには慣れているが、獲物をむしって肉にする以上のことは不得手なのだ。


 うまく煮ものを作れたためしがないし、食べた者から文句しか言われないのにも飽きあきしていた。



「わかります……わかるんですよ、その気持ち。自分の苦手分野だけど、持ち回り当番だからどうしても向き合わなくっちゃならない仕事って、ほんと憂うつになりますよねぇ! 俺もいっぱい、ありました~」



 血色の良すぎる顔をうんうんと上下させて、アンリは猟師に微笑む。



「そういう時こそ、上手な人に代わってもらえると、助かりますよねぇ! 俺、料理は得意なんです。なのでよかったら、ごはんのしたくを引き受けましょうッ」



 猟師はひげまみれの強面こわもてをしかめたが……。内心ではアンリの申し出に揺れていた。



「俺は、お前の分担仕事を代わってはやれねえぞ?」


「いいんです、いいんです。じゃ、ちょっとお台所しきらせてもらいますねぇ?」


「……作ったら、すぐにきのこ採りに行けよ?」


「はい、は~い」



 やがて案内役の猟師は、眼をみはった。


 彼はつるりとひげを剃ってあるアンリの顔、おしりあごを見て、町育ちのもやし・・・なのだろうと思っていたのである。


 しかし古びた調理台の上、並んで山きじの羽をむしっている時に気づいたのだ。



――何つう、手際のよさだ!!



 山男の自分と同様……。いや、それ以上の速さでアンリは山きじの灰色羽毛をむしむしむしり取り、皮目をあらわにしてゆくのである。


 まくり上げた麻衣の袖の下には、隆々としたぶっとい腕がのぞいてもいる!



「さっ、できました。何だかんだで手を貸してくださるなんて、いい方ですねぇ!」


「……」



 手桶にためておいた羽毛を猟師が外に捨てにゆき、再び厨房に戻ると、すうーと良い匂いが鼻孔に入りこむ。


 においにも驚いたが、案内役の猟師は目の前に広がった光景および音にも、かなりぶったまげた。


 じゃかじゃかじゃかじゃか……!!


 大型の片手平鍋を右手に握り、アンリはそのなかみを宙に高く浮かせつつ、炒めているのである。



「♪くるっといっぱつ、三回転・は~ん!!」



 まるで子どもの球技……。羽まりをひょいひょい放るようなしぐさでもって、アンリは平鍋から中身をおどらせている。そのふにゃくにゃ揺する手を全く止めずに、くるっとアンリは猟師の方を向いた。



「良い感じの玉ねぎですねー! じきに鉄の大鍋で煮込みに入るのでー、かめに水をもう一杯くんできてもらっても、いいですか~??」


「お、おう」



 厨房いっぱいにあまりに素敵な香りが立ち込めていたものだから、ついつい猟師はアンリの調子にのまれてしまう。


 ここ≪木の子の会≫のねぐらで、こんなにうまそうな料理のにおいが流れたことはなかったのだから!


 井戸で新たに水を汲んで来た猟師は、ぼうっとアンリの後方に立ったまま、その手元を見ていた。


 大きな山きじはすでに部位ごと切り離されて、肉が大皿の上に山盛りになっている。


 表面が金色にこんがりしているところを見ると、おそらくあの平鍋で軽く焼き目を入れたのだ!


 そうして取ったあぶらで炒められた玉ねぎが、今ざざっと鉄の大鍋の中にあけられる……。


 山雉の肉と水とをさらに入れて、アンリは大鍋にふたをした。



「……うまそうだな!」



 とうとう本心から、猟師は言ってしまった。


 手早く流しで平鍋を洗い始めたアンリが、ぺかっと笑顔を輝かせて振り向く。



「ええ、おいしいですよ! こんなに立派な山きじなんですからねぇ。ただ……惜しいなあ」


「? 何がだよ」


「ここにねぇ、今の時季の谷きのこが入れば。もう本当のほんとに、究極ぶっちぎーりぎり、のおいしさになるんですよ。でもここの風雲きのこ城には、毒きのこしかないんですもんねぇ……」


「谷きのこ? 腸詰めや肉団子に入れてかさまし・・・・にする、あのしょぼい茸がいいのかよ?」



 ぶんッッ!!


 アンリはものすごい勢いで、右手の平鍋を振った。水気が流しに弾けとぶ。



「……こちらの皆さんに、谷きのこはそう認識されてるんですか~? 今日の山きじみたいに脂つよめのお肉だと、それをこってり吸って、むちゃくちゃいいあんばいになるのですけど~」 


「……」


「まあ運が良ければ、とろ火で煮込んでいるうちに見つかるかも。どれ、俺がちょっくら行って、谷間のあたりで探してきますんでー。念のためにお鍋みててもらって、いいですかぁ」



 言ってるそばから、アンリは椅子に引っかけてあったしみしみ迷彩外套を羽織る。その上かちっと平鍋をくくった革帯を引っかけて、勝手口へと向かいかけた。


 案内役の猟師はがぜん慌てたように、アンリの顔と厨房出入口を見比べた。



「おい、……いや、待てっ。鍋はいま、相棒を呼んでくるからそいつに見張らせて……。俺が一緒に行こう!!」


「え~??」





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