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22. 不穏! 毒きのこ城へ潜入

・ ・ ・ ・ ・



「ほがっ! こ、これは一体ッッ……!」



 崖の割れ目の通路からようやく出たアンリは、いきなり目の前に広がった風景に驚いていた。



「こんな奥まったところに、よもやお城があるだなんてーッ」



 城は城でも、外部に対しての徹底的な抵抗を示すための小さな城塞。


 とりでというのがふさわしい、武骨な石塔主体の建物であった。


 どれだけ古いのかは、料理人には全くわからぬ……。アンリに判別できる古さは、およそ賞味期限と消費期限だけだ。


 猟師たち二人は相変わらず、前後でアンリを挟むようにして、まっすぐその古城へと向かって歩いてゆく。


 近くに見れば、城塞の壁表面はところどころ崩れかけている。石組みの間からは雑草が吹き出し、つたや苔のたぐいによる浸食も著しいのであった。



「うぁららら、いばらの茂りっぷりがすごーい。中ではお姫さまが、お腹を空かしてそうですね~」



 眠っているんではないのか。



「いやー、最近のお姫さまは、のうのうと寝てる暇なんかありませんよ。うちのおひいさまもそうですし、起きたら起きたで自分で自分の呪いを何とかしなきゃ、って奮闘したり……ごくろうさまなんですよ~。あ、中に入るんですか?」



 東側にまわり込んだところ、古びた木の扉を先頭に立つ猟師が押した。


 開いた戸の内側に向かって、猟師は何やらぼそぼそと話しかけている。やがて振り向いた猟師はアンリを見て、扉の内側に行けとあごをしゃくった。


 とぼとぼ、アンリが一人で入ってゆくと、そこにはいかつい男が二人立っている。


 どちらも髪色の明るいイリー人ではあるが、表面積の広い武骨な革鎧を着て、山刀と中剣を腰に下げ武装していた。


 アンリ自身も軽量型の革鎧を着てはいるのだが、これは物騒ぶっそうな田舎を道中する一般人には珍しいことではない。


 対して二人の男の武装のしかたは、見るからに職業戦闘員のそれである。彼らはいなか傭兵なのだろうか、とアンリは胸中でおしはかった。



「あのう……」


「ついてこい。こっちだ」



 もぞもぞ言いかけたアンリの声を短くさえぎると、傭兵らしき男一人が先に歩き始める。


 仕方なくついて行くアンリの背後を、もう一人があたかも退路を断つようにして、ぴったりと歩いた。


 三人は薄暗い廊下を進む。ところどころの壁穴に蜜蝋みつろうの灯りが置いてあるのだが、右に左に幾度も曲がるうち、アンリは頭がくらくらするのを感じた。



――ううむ、迷路ってやつではないか! こりゃ困ったな、一人じゃ出られないぞ!



 視覚で地理経路を記憶する料理人である。(例:①八百屋の手前の角を右にまがり②黄色い立て看板の事務所を過ぎたら③あとは山のほうに向かってしばらく行く)三つ以上の目印通過を必要とする場所では、もう迷うしかないのだ。地図が読めない上に、大傑作の方向おんちでもある! 東西南北で考えられないゆえ、左右上下で話を通してほしい!


 石の中階段をいくつか昇降して(要するに上下階の感覚すらすでにないアンリ)、先頭の傭兵が大きな扉を開ける。ようやく一行は広いところに出た。


 そこは一見、工房のようなところである。


 かっかと燃えるかまどが三基、それぞれの上には大鍋がすえられていた。作業服の上に布帽子・覆面布など、身体じゅうを覆った男性らしき姿が二つ、それらの鍋の中をかき混ぜている。


 ちょっと見には、アンリのいとこが西果さいはての国で営んでいる、蜜煮じゃむ工房そっくりなのだ……が。


 大室おおべやの中に足を踏み入れたとたん、今まで嗅いだことのない異様な臭気が、つうんとアンリの鼻を直撃した。



「うううッ!?」



 慌ててアンリは、いつも巻いている濃赤色の手編み覆面布を、鼻の上まで引っぱり上げた。



かしら! 新入りだよ」



 先導してきた傭兵の声に、工房の中で作業をしていた者のうち一人が顔を向け、つかつかつかと近寄ってくる。


 その人物は分厚い生地のつなぎ作業衣を着て、鍛冶屋や溶接工がつけるような玻璃はり板めがねを顔の前にくっつけていた。


 それをひょいと両手に上げれば、しわしわの老人の顔が出てくる。



「レプレイーンに今朝ついたばっかりで、大量に集められる男なんだと。採集人がもっと欲しいと、言ってたろう?」



 石床に置かせたアンリの籠の中身をさぐって、老人はふんと鼻息をひとつついた。



「……≪木の子の会≫のことを、誰に聞いたのだ?」



 おぞましい、地の底を這いずるようなしゃがれ声で老人が問う。



「え、ええ~? 名前なんて知りません。俺はただのかよわき失業者です。とにかくお仕事が欲しいってほうぼうに泣きついてたら、教えてくだすった方がいたってだけで……。もじもじもじ」



 一瞬、素でへどもどしてしまったアンリの姿は、老人の目に愚鈍とうつったらしい。


 にやり、と冷ややかに笑うと、老人は明らかにアンリを見下した様子で言った。



「そうか。では望みどおりに、うちで雇って食わせてやろう。……ついてこい」



 老人は妙ちくりんな顔の覆いを壁のとっかかりに引っかけると、工房の戸を後ろ手に閉めた。


 アンリはこわごわ、老人に聞いてみる。



「あのー。こちらのお鍋では、毒きのこを煮詰めていらっしゃるのですか?」


「うむ、そういうことだ。半日もとろ火で煮込んで、濃縮液を作る」



 アンリと傭兵二人とを従えて、老人が入っていったのは風と陽光の通る作業所のようなへやである。



「お前の持ってきたものを、そこの箱にあけろ。これから真冬までは、毎日森に天然ものを採りに行ってもらう。帰ってくるたびに、収穫品をこの室に持ってくるのだ。いいな?」


「は、はい」



 言われた通り、従順にアンリがかごの中身を壁際の木箱にあけると、やせた男性がすっと出てきてそれを引きずってゆく。



「選別と汚れごみ取りは、ここの者たちがするからお前は採集だけすればよい。……しかし、いかさま・・・・は絶対にするなよ?」



 ぎろッ、老人に見据えられてアンリは思わずふるえ上がった、……と言う風に演技してみせた。



「人間、誰でもまちがいはある。他の種類がちょっと混じるくらいは仕方がない。しかし、毒のないきのこを混ぜ入れてかさ増し・・・・しようとすれば、一目瞭然でばれるからな。厳重罰として、地下の菌床使役きんどこしえきにするから憶えておけ」


「きんどこ……しえき~?? 何ですそれ?」


「今から説明しよう」



 それから一行は、果てしないような石階段を下って行った……。少なくとも、アンリにはそう思えた。



――狭い階段の下の方から、じめっと重い湿気がわきのぼってくる~。じつに、気持ちの悪い場所だなあ……。



「さあ、ついたぞ」



 古城の地下階なのだろうが、そこは石牢とでも呼ぶべきところだった。


 階段を下りてすぐの場には、長い棒のようなものを携えた傭兵のような男が二人。


 その背後には、鉄格子が天井までのびている。格子の向こう側に目をやって、アンリは思わずうめいた!



「うああああっ……! な、何ですこれはッ!?」



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