表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

21. アンリのひるどき!潜入調査

・ ・ ・ ・ ・



「た・の・も~~!!!」



 谷間の小道ぞいに幾愛里か行った、そのどん詰まり。


 崖を背にした、古い狩猟小屋とおぼしき家の扉を、こぶしでがんがん叩きながらアンリはがなった。



「た~の~も~~ッッ」


「うるせえな、鍵はかかってねえんだ。勝手に入りやがれッ」



 家の中から、不機嫌な男のうなり声が返ってくる。がちゃっ。



「あー、ほんとだ不用心ですねえ。っってどうも、お邪魔しますぅ」



 頬をてからせてアンリが踏み込んでゆくと、納屋のようなところである。


 男が二人、ひっくり返した木箱に腰かけていた。



福ある日をこんにちは! おんや~、これはまたすてきな山きじがとれましたね~?」



 天井のはりにつるされた二羽の山鳥を見て、アンリはごまをする。……ちがった、本心からそう言っている。



「みごとなアルサンきじだ!」



 猟師のなり・・をして、罠の手入れをしていた二人の男は、視線を上げてアンリを見すえた。



「……何しに来たよ、兄ちゃん?」


「このあたりじゃ見ねぇ顔だな」


「ええ。新参者ですから、たのもーって言ったんです。≪木の子の会≫の入会受付はこちらでやってるって、聞いたのですけど~?」



 がた、ざっ。


 猟師二人は立ち上がった。



「……入会希望っつう、証拠を見せな」


「は~い」



 アンリは肩にかけてきた籠を下ろし、ふた代わりに内にかぶせていたぼろ布を取る。



「……」


首邑みやこに住んでたんですけど、失業しちゃって貯金もなくて。んもう俺ってば崖っぷちなんですぅ。毒きのこ集めでも加工でも、何でもしますから。どうかここで、働かせてもらえませんかぁ!」



 ナイアルが考えた設定をやや棒読み状態、自称恥ずかしがり屋の人見知りアンリは、だいこん役者だ。いや大根はおしなべて好きだ、鶏肉と煮るとうまいぞ!


 ……しかし、猟師ふたりはアンリの口上なんかより、かごの中身に気を取られている。



「べに首ったけばかりを、こんなにか。兄ちゃん、何日かけて採ったんでぇ?」


「何日って、えー? けさ着いたばっかりですよ。俺」



 アンリが見せたのは、実際にはドゥネドが数日かけて集めたものなのだが、猟師たちは真に受けたらしい。



「そうか。なかなかやるじゃないか? ようし、ついてきな」



 猟師たちは背負い籠の中にきじを入れ、罠を雑多に片付けると小屋の外に出る。かちゃん……。



「あ、今度はちゃんと鍵しめるんだ」


「少しきつい道中になるぞ。途中でへばるなよ?」



 猟師二人は、アンリの前後について歩き始める。小屋の後ろにそびえる、切り立った崖の左脇へ回り込むのかとアンリは思ったが、そこへふいと前の男が入り込んでしまった。



「おやっっ!? 崖の割れ目が、通り道みたいになっている!」



 大の男ひとりがどうにかこうにか通ることのできる、せまい崖通路だった。


 前後を猟師たちに挟まれて、こうなってはアンリは途中で逃げ出すこともできそうにない。



「うーむ、何という心理的圧迫効果! 怖気おじけづいた新参者がを上げるなら、さっそくはじこうって魂胆ですね! でも俺ってば好かれ系のこがら体型だから、全然問題ありませんよ~」


「……いや兄ちゃん、けっこうぎりぎりだぞ?」



 後ろをゆく猟師が、低く突っ込んだ。


 アンリを中にした三人が崖の通路の中に消えてゆくのを、後方でじっと見ていた三組の視線がある。


 樫の樹々の陰にてなりゆきを見計らっていたナイアル、ダン、ビセンテは、そこでお互いうなづき合った。


 ぎょろ目を光らせて、ナイアルはビセンテのなで・・肩を見る。強靭な体力を誇る獣人は細身すりむ体型、あの狭そうな崖の通路を行くのに何の問題もなかろう。アンリよりずっと細い自分もどうにか大丈夫、とナイアルは思う。


 ……しかし。ぬぼーんとでっかい大男の店長はだめだ。かに歩きで挑んだとしても、あの通路の中でおそらくつっかえる。


 死神のごとく目を真っ赤に充血させたダンは、めんど臭さ全開を通り越して、悲愴なまなざしで副店長を見た。


 今さら言うのはもちろんめんど臭いのだが、彼はせまい所が苦手である。ぼたん瓶に針箱に携帯裁縫道具入れ、小さな入れものは大好きだが、自分を入れるところは大容量であって欲しい。



「うえ」



 獣人が小さく言って、あごをしゃくった。



「そうだなビセンテ。崖の上っ側までのぼって、越えるっきゃねえ。よし、アンリの匂い追跡をたのんだぞ?」



 くいっと砂色長髪の毛先を揺らして、獣人は樹々の前に歩き出す。ビセンテはさっそく、回り道のとっかかりを探しにかかったもようだ。


 差し迫った時間制限がなければ、ナイアル自身も道を探しつつの野山歩きはできる。しかしこの場合、奇跡の知覚をもつ獣人ビセンテに任せておくのが一番確実なのだ。


 秋の森に容易にとけこむ、迷彩しみしみ柄の外套すそをひるがえして、ビセンテはさかさか谷間の方へと降りてゆく。一度だけ振り返って、ナイアルとダンにむけ首を横にかしげた。



「おう、そうか。川沿いに行くのだなッ」



 落ち葉の敷き積もった林の中を、三人は川の流れに向かって速足で進んでいった……。


 そう。今回の≪第十三遊撃隊≫は、きな臭い組織の中にアンリを単独おとりとして送り込み、その後を入念につけていくのである。


 ちなみにこんな危険な行動に、副店長ナイアルがミオナを同行させるわけはもちろんない。


 秘蔵ひぞっ子イスタを護衛につけ、ドゥネド夫妻の炭焼き小屋に置いてきたので、どなた様もどうか安心してほしい!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ