20. 毒きのこ採集の裏事情
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ナイアルの突っ込みに反し、ドゥネド夫妻はしゅーんとうなだれたまま話し出した。いや、鍋にではなくてアンリたち一同に対して、ではあるが。
同じくレプレイーン村に住むドゥネド夫の父親が、今年に入ってから難病にとりつかれてしまったのだという。
村の薬師もお手上げで、老人は全身の痛みかゆみに昼夜を問わずうめき続けている。
しかしどうしたことか。ドゥネドの妹が持ってきた飲み薬だけが、功を奏した。それを飲めば数日の間、ドゥネド夫の父親は身をさいなむ苦しみから逃れられるのだそうだ。
一体どうやってその薬を入手したのか、どうにかして買い続けることはできないものか? と、ドゥネド夫妻と夫の母親は頼み込んだ。しかしドゥネドの妹はこう告げる。
≪これはとてつもなく貴重な薬で、出どころをひとに教えちゃならないんだよ≫
実家にもあまり寄り付かず、周辺の集落を転々として季節労働をしている風来坊の妹は、それまでドゥネドたち家族の鼻つまみ者だったのだが……。状況が一変する。
さべ茸と、べに首っ茸。毒性の強いこれら二種のきのこを大量に集めて差し出せば、見返りに薬をもらってきてあげる、と妹は言った。
「じゃあ……つまり。その薬と言うのは、毒きのこを大量に使って作られるもの、ということなのでしょうか?」
おしりあごをもっともらしく指でつまみつつ問うアンリに、ドゥネドはこくりとうなづいて見せる。
「妹から、はっきりしたことは何も教えてもらってません。でも、そういう気がします」
二本の山杖を両手について、ドゥネドは炭焼き小屋のさらに奥にある、納屋のようなぼろ小屋まで歩いて行った。ナイアルとアンリ、ドゥネドの夫がついてゆく。
「あっ!」
アンリは小指をたてて驚愕した(何故こゆび)。
その中にしつらえられた棚いっぱいに、毒きのこが並べられていたのである。
「わたしの妹や、その仲間だという人が数日おきに取りに来るんです。だからそれに備えて、採ったものをこうして干しているんですけど」
ナイアルがちらりと見やると、熊のようなドゥネドの夫は大きな背中をかがめて、なんだかやるせなさそうである。
いかにも純朴そうな、堅気の炭焼き男だ。自分の父親の病気のせいとは言え、後ろめたいことへの加担に良心を苛まれているのは、誰が見ても明らかである。ナイアルにも、それはよくよく感じられた。
――うーむ……。気の毒だが、こりゃあ底なしの厄介ごとっぽいな。これ以上かかわらない方が、俺たちにもドゥネドさんにも良いのかもしれん……。
いくら好み直球の美人であっても、人妻のために自分たちまで法に触れる危険をおかすことは……さすがにできない。
しかも≪金色のひまわり亭≫の面々には、今日一日でそれぞれの籠いっぱいに≪谷きのこ≫を採集すると言う、最優先使命があるのだ!
――とっとと退散すべきだろう。
ナイアルがそう見限って、いとまごいをしかけた時である。
「あ~れ~~っっ?? だんなさん、ドゥネドさん。この、隅っこに干してあるのって……!」
アンリがすっとんきょうな声を上げた。
「え? ああ、そりゃ谷きのこだよ。俺と女房とで、仕事の合間に集めるんだ……。村の連中が、たまに買いに来るからね」
炭焼き男は、奥の方に置いてある背高い戸棚の上に手を伸ばした。
「今年はおやじの薬のために、毒きのこばっかし集めることになっちまったが。本来なら、こっちがうちの副業なのさ」
中から取り出した籠の中身を、アンリに見せる。
びしーッッッ!!
料理人の顔が、毛筆描きの濃ゆい輪郭になった!
「し……≪死神らっぱ≫を、こんなに大量にぃぃぃぃ!? ちなみに一愛衡(※)、おいくらで売ってらっしゃるのですぅぅぅ!?」
「えーと。……」
炭焼き男の答えに、料理人と副店長はがっっっこーんと口を四角く開けた。
――やすッッ!!!
――つうか、乾燥でそのお値段!? 生でなくって???
「そうですか~。……で、やはり売れますか~??」
即座に戦略体勢に入った副店長は、ドゥネドの夫にさりげなく状況を問う。
「そうでもないやね。レプレイーンは小さな村だし、皆がみんな煮込みだの腸詰めだの食うってわけでないから。たくさん集めても結局は毎年余っちまって、身内でどうにか食べきる感じだな。そうだろドゥネド?」
「そうなんですよー。それこそ捨てるなんて、もったいなくってねぇ」
ぎらーん。
のんきに言うドゥネド夫妻のかたわらで、副店長の翠の双眸が静かに光る。
その眼光に反射したわけでもないが、料理人の焼きたて頬も、ますますあかく光った……!!!
「……ドゥネドさん、旦那さん。我々のほうからちょいと、ご提案があります」
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※ こちらの質量の単位です。1愛衡【アイレー・プント】は、そちらの世界の約500グラムほど。2愛衡で1kg、とお考え下さい。(注・ササタベーナ)




