18. 炭焼き夫婦の隠しごと
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こうなっては仕方がない、きのこ探求は一時停止である。
来たところを引き返し、女性の住まいへと一行は谷道を下って行った。
ドゥネドというこの女性は、レプレイーンの外れに住んでいると言ったが……。はずれの感覚が、アンリ達とはどうもかけ離れているらしい。
どう見たってまだまだ森のまっただ中、集落の他の民家が全くないところにぽつんと立っている石組み小屋を指して、自宅なのだとドゥネドは言った。
「あ、炭焼きさんでいらっしゃる?」
小屋の裏手にあるずんぐりした別の小屋を見て、アンリが歩きつつ話しかける。内側に積み上げられた無数の石、炭を焼くための石窯のようなものが垣間見えた。
「そうなんですよ。ほんとに皆さん、ありがとうございました! おにいさん、ここで下ろしてくれますか」
「えー、いや、お嬢さん! そんなわけには行きませんって!!」
女を背負ったナイアルはぎょろ目を見開き、張り切って答える。
「ご安心なすって下さい。怪我の処置もいたしますんでッ」
せっかく出会えた自分趣味一直線の美女! すらっとしつつもしなやかに頑丈そうなところがいい、しかも自分と年齢もそんなに変わらないっぽい。家に配達してそれでご縁を終わらせる気など、さらっさらない副店長である!
しかしドゥネドは、あはっと笑った。
「いやだー、お嬢さんではないですよ。うちには旦那がいるはずだから、手当もしてくれます」
びしーッッッ!!!
奥さんであったか、何ともはや!
瞬時にしてナイアルは、全身が軽石のようなすかすか状態になった気がした。
――そりゃそうよな……。これだけ美人で朗らかで、しかも俺っちと同年代って。そら結婚してるよな~~!!!
「あ……あれぇっっ!? ドゥネド!!」
その時、裏手の炭焼き小屋の方から、いかつい身体つきの男性がやってくる。
「どうしたんだぁ、このひと達はっ……!?」
ずかずかずか! いのししみたいに突進してくると、男はナイアルの背中からもぎ取るようにして、ドゥネドを抱き下ろした。
「谷で落っこっちゃって。この皆さんに助けてもらったのよ」
「何だってえええ!!」
狼狽して叫んでいる男は、ドゥネドの夫らしい。
一行の後ろ、ダンとビセンテにはさまれる形でこの風景を見ていたミオナは、ひそかに思った。
――この炭焼きさん、もかもかした褐色毛皮の上っぱりを着て、くまみたい……。でも、うちのお父ちゃんのほうがずっと毛深いッッ!! 勝った!
最近の若い子の胸中、かわゆくても割と謎である。
というか、浮かれ調子に乱れまくってから大暴落したナイアルの心音を聞いて、ミオナはほっとしていた。安堵ゆえにおかしな方向を考えるのかもしれない、許してあげてほしい。
「どうもすみませんでした。慣れたところできのこを採るはずが、……。油断してしまいまして」
小屋の居間に担ぎ込まれたドゥネドは、つーんと匂う≪うさ菊軟膏≫(※)をくじいた足首に大量に塗り込まれ、痛みのほうは落ち着いた様子だった。古びた安楽椅子に座って、きまり悪そうに苦笑している。
ミオナは副店長と料理人の背後で、そうっとあたりに目をやった。年季の入った石組み小屋の内部はきれいに片付いてはいたものの、家具も調度も色あせ擦り切れている。ドゥネド夫妻の生活の厳しさが、そこはかとなくあらわれていた。
「ドゥネドさんはあの谷間に、きのこを採りにいらしてたんですよね~? やっぱり??」
ぺかッ!
小さな窓から差し込む光は、弱い。
薄暗く粗末な室の中、光源らしいものは他にないのに、アンリは相変わらず頬を光らせて問う。
「え、……ええ。そうなんですよ」
ドゥネドはぎこちなく答えた。
「なんぼか、採れたのかい。今朝は」
熊のような炭焼き夫が、狭い室内にひしめき立つ一同に白湯のゆのみを配りつつ、ドゥネドに聞く。
「からっきしだったね。きのこもなし、足首くじくわで、まあついてないわ~……」
「あ~の~。実は我々一同、テルポシエで料理屋をやっておりましてー」
ようやく軽石状態を脱しかけているナイアルが、如才なく話し始めた。
「こちらレプレイーンには、食材の谷きのこを探しにきたんです。地元の方の迷惑になるような採り方はいたしませんが……。いかがですかね、今年のでき具合は??」
「えっ……えええっっ!? テルポシエ大市の皆さんが、谷きのこなんて食べるんですかっ!?」
ぎょっと驚いた様子で、ドゥネドはナイアルに聞き返す。
「都会の人の口には、合わないものだとばっかり思っていたのに!」
「町にも、いろんな腹ぺこちゃんがいらっしゃいまして~!」
がぜん光り出したアンリが、言葉を継いだ。
「いったい何にするんです? 鍋煮込みだとか……?」
「ええ、そうなんですよー! 腸詰めに入れましてねぇ」
「あああ、あれはおいしいですよー」
ドゥネドも、アンリの朗らか口調につられたらしい。ふあっと笑って言う。
いい笑顔だよあんちくしょう、と内心ぶつぶつうめきつつナイアルは白湯を飲んだ……熱ッッ。
「わたしはものぐさなもんですから。肉の鍋の仕上げに入れて終わりー、ですよ。ふふふ」
「ほうほうほう! それで奥さま。いったいどなたを、殺るおつもりだったのです~??」
ぴ・しッッ……。ドゥネドの美しい笑顔が、凍りついた(ように、ナイアルには見えた)。
どきどきどきいいいいっっ、ドゥネドとその夫とナイアルと……。ついでに自分の心拍音がいっせいに強くなったのを聴き取って、ミオナは室のすみでひゃーと叫びたくなる。
「毒きのこのお鍋料理を使って、殺したいほど憎い人たちがいるのですかー?」
全く変わらぬ光り顔にて、アンリはたたみかけた。
料理人の心拍音は変わらない……ミオナの横、室のすみにぬぼーんと立っている死神店長も平常心。
戸口のそばのイスタも、平常心で好奇心。獣人ビセンテだけは人間的瑣事をさけるべく小屋の玄関石段にかけているから、何を考えているのかはわからない……。
いや、何も考えてはいない。
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