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16. ソーセージDIYへの苦難の道

――待っていておくれ~、全テルポシエの腹ぺこちゃん!! 必ずや谷きのこを山盛り持ち帰り! そして俺自身の力で、あの≪谷系腸詰め≫を再現してみせるぞッ。



 その厚い胸のうちに、ふがふがと熱く決意をみなぎらせているアンリ。


 料理人および≪金色きんのひまわり亭≫一部従業員らが、現在森の中をぐいぐい進軍している経緯はこうだ。



・ ・ ・



 谷系腸詰めを作ることのできる肉屋の職人がいなくなってしまってからも、≪金色のひまわり亭≫では、それを使った≪ゆるり汁≫を所望してくるお客が後を絶たなかった。


 ないのだと告げる時の、給仕役たちのくやしさ。がっかりした表情を浮かべるお客たちのさみしさ。


 ≪ゆるり汁≫の好評でせっかくつかんだ客層が、離れてしまう……! 


 差し迫った危惧から、運営陣の緊急総会議が行われる。書いてみただけだ、要するに全員参加で話し合った。そこで女将のエリンが、ふと気づいたようにこう言ったのである。



≪アンリ君が、自分で腸詰めを作るというわけにはいかないの?≫



 !!!!!


 厨房で食卓を囲んでいた従業員一同は、元女王の一言に息をのむ(ビセンテ以外)。


 腸詰めがないのなら、作ってしまえ自給自足! 盲点であった!



≪そぉぉぉぅかぁぁぁああ!! 鳴かぬなら、お鍋をおたべ~ほととぎすってやつです! 世の中問題の大部分は、鍋で解決できるんですよッ≫



 何か違うが、とにかくアンリはいきり立った。


 料理人は焼きたて顔をぺかぺか光らせ、とにもかくにも腸詰め試作に挑むべく、市内の八百屋をはしごしたのである。……が!!



≪なんてこった……。市内のどこにも、谷きのこを扱ってる店がねえとは!≫



 道案内としてつき合わされたナイアルは、ひまわり亭に帰ってくるなりうめき声をあげた。



≪ええっ!? でも今は秋よ、きのこの旬でしょう!?≫



 がっくりうなだれる副店長、ぺかりを失くしてひび割れぎみの頬になった料理人を前に、女将エリンは愕然がくぜんとする。



≪違うのだ、おひい。テルポシエ市内有数の品ぞろえを誇る≪紅てがら≫でも、谷きのこの乾燥ものは扱っていない。俺の実家に置いていないのはつまり、需要が全くないからなのだ≫


≪……!!≫


≪だからこそ、旬の時期に出回るはずの生きのこに賭けていたのだが……。みごとにすか・・だ。テルポシエ市内では、谷きのこは入手できない≫



 いいや。都会がだめでも、いなかがあるッ!


 アンリとナイアルはイスタに頼み込み、ずっと東に行ったところにある≪岬の集落≫の定期市での入手をこころみた。


 しかし≪第十三遊撃隊≫の若き秘蔵ひぞっ子も、首を振るばかりである。



≪地元の人たちに、さんざん話を聞いてまわったんだけど。こっちの森にはないんだ……海に近すぎる。潮っ気が空気にまじるところに、谷きのこは生えないんだって≫



 ぎいーっっっ!!!


 八方ふさがりである。アンリはもずく・・・柄のふきんを手巾はんけちとして噛み、絵的にくやしさを表現した。


 しかし、だ。そんなに珍しい食材なら、あの肉屋の職人はいったいどうやって谷きのこを入手していたのだろう……?



≪はっ、そうか。おそらくお肉職人さんは、ご実家のある町から取り寄せていたにちがいないっ≫



 しかしリリエルは、彼の出身地をはっきりとは知らなかった。



≪と言うか、アンリ。お前はそもそも、ここまで知られていない谷きのこについて、どうやって知ったんだ? いとこのイームちゃんや、蜜煮おじさんときのこ狩りをしていたのか≫


≪いいえ、実家で仕込まれました。父の友人に、珍しい地方料理に詳しい料理人がいたんです。実際に谷間へ連れて行かれて、そこで判別から教えてもらいました≫


≪ほほう! そこは何という場所だ?≫


≪え~~っと?? ぺレーンとかプレーンとか、あっさり味付け系の名前でしたかね。思い出せません≫



 地図を読めない男が、地名だけ憶えていられる道理はないのである。



≪そこ小さい村なのに、ぱん屋が三軒もあるんですよー。なかなか競合が激しそうな集落の、裏っかわにある谷だったんですけどぉ≫



 だめだこりゃ!!


 アンリに位置情報を聞く方が間違っている。


 ≪金色のひまわり亭≫従業員一同はがっくりと頭をさげた。谷きのこの入手は不可能、≪ゆるり汁≫は永遠に再来の見込みなし……と、誰もが思ったその時。



≪レプレイーンの集落でないの?≫



 イスタが何気ないように言った。厳密には彼はひまわり亭の人間ではない。しかしアンリの鍋によって成長した鍋っ子であるため、店への配達終了後にはしょっちゅうまかない鍋を食べてゆくのである。



≪あそこの村、たしかにぱん屋三軒がしのぎを削ってるけど。それぞれお菓子・惣菜ぱん・健康志向の雑穀ぱんと得意分野を持ってるから、住み分けはできているんだ≫



 イスタは駅馬業者になったのだが、≪岬の集落≫の農産物をテルポシエ領内各地に配達してもいた。自分の行った場所の風景や通過した経路を、ことごとく記憶している驚異的能力の持ち主なのである。



≪それだぁぁぁ、イスター!!!≫



 アンリの頬に、みるみるぺかりが戻る!


 ぶっとい腕で、料理人は秘蔵の鍋っ子イスタを抱きしめた。ああ、敗戦後この子を拾って育ててほんとに良かった!!



≪ぎええええ、やめろぉぉぉ≫



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