15. 秋の遠足、きのこクエスト開始!
薄れ始めた濃い霧が、名残惜しげにところどころたなびく森間。
で・でー・ぽーぽう……。かっこうー。かっこうー。かぎ、かっこうー。
遠くに山鳥のなく声がする。
「おお、何とすがすがしい秋の空気。この香り高さをそのまま閉じ込めて、お鍋に煮込むことができたなら~」
ぺ・かーッッ!!
樹々のこずえの間から弱々しくも優しくさしこむ陽光に、≪金色のひまわり亭≫料理人アンリの焼きたて頬が光った。
と言うか、何十倍にも強く照り返しているのは気のせいだろうか。
「そんな健気な俺の願いに応えてくれるのは、この先でもりもり生えつつ俺を待ってくれているのであろう、谷きのこちゃん達なのです。途中の道は険しくとも、君たちに会うためならば! 千里の道をもゆくアンリー」
「……千里も行ったら、テルポシエ突き抜けちゃわない? アンリさん」
「きゃはッ、ほんとだねミオナちゃん! ちなみに俺ってば、好かれ系の方向おんちなものだから。どこに向かっているんだか、突き抜けてみなければわからないね~」
アンリのすぐ前を歩くミオナは、背負い籠をゆすり上げながら首をひねった。
――千里……。千愛里って言ったら、西はデリアドも突き抜けちゃう。≪白き沙漠≫のど真ん中に行っちゃうんじゃないの??
ナイアルの背中を追いながら進む、森の踏み分け道。うっそうと茂る樫やまや樫、楡の木の合間を歩きつつ、ミオナは見たこともない沙漠の風景に思いをはせる。
この間、習字のお稽古の後に、先生が雑談で地理の話をしてくれた。いちめん、白い砂が海みたいに広がる熱い暑い場所……。それをさばく、と呼ぶらしい。
先生が開いて見せた沙漠の絵を、ミオナは思い出す。その中に、アンリがぽつんと突っ立っている姿を想像してみた。
ぺかぺか血色のよい焼きたてぱん顔が、あまりの暑さにどんどん乾いてゆき、しわしわ褐色の干しいちじくに変化する……ええっ??
「おっ、ビセンテ。何か嗅ぎつけたのか~??」
森の小道のずっと先をゆく獣人に向かい、ひまわり亭の副店長ナイアルは声をかける。
じゃかじゃかした歩調をゆるめて、先頭のビセンテは宙に鼻をひくつかせていた。
と、あごをしゃくって左方向を示す。
「かちぐり」
「おおおおおう、栗ですかぁビセンテさぁん!! いいですねぇ、秋の味覚の代表格ぅぅぅ」
ときめきの声を熱くほとばしらせたアンリを振り返り、ナイアルはひらひらと手を振る。
「これこれ、アンリ。わざわざ皆で休みを取って、ここまで来た目的を忘れんじゃねぇぞ? 今日はとにかく、≪谷きのこ≫をたんまり採って帰らにゃならんのだろうが」
「ふあっ! そ、そうでした……。すみませんナイアルさん! また今度ねぇ、かち栗ちゃーん!!」
ナイアルにたしなめられて、アンリは焼きたて顔をかーっとさらに赤くする。
「つうわけでビセンテよう、他のはいい。引き続き、谷きのこだけを探してくれ」
列の先頭ビセンテは、砂色の長髪毛先をさっと揺らしてうなづく。
ぎいんと鋭い眼光を後続の一同にくれてから、再びじゃかじゃか歩いていった。
その後ろにナイアル、ミオナ、アンリ、イスタが続く。最後尾でしんがりを務めるのは、もちろんでっかい店長のダンである。忘れないでやってほしい。
六人はめいめいその背中や脇に、小ぶりの籠を持っていた。どのかごもまだ、空っぽだ。帰る時にはそのすべてを、目当ての≪谷きのこ≫でいっぱいにするつもりなのだが……。
――待っていておくれ~、全テルポシエの腹ぺこちゃん!! 必ずや谷きのこを山盛り持ち帰り! そして俺自身の力で、あの≪谷系腸詰め≫を再現してみせるぞッ。




