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12. 逸品ソーセージの種あかし!

・ ・ ・



 看板をしまって、昼の営業はおしまい。


 遅めのまかないを取りに、≪金色きんのひまわり亭≫の一同は厨房の食卓に集結していた。


 ほぼ二十人前を用意した≪ゆるり汁≫が全てはけた・・・と聞いて、給仕役の女性陣は驚く。


 特にリリエルが、一番びっくりしていた。



「と言うわけで! 本日の昼まかないは、≪ゆるり汁≫のおつゆ雑炊ですぅー」



 身のなくなった鍋に、ゆでた大麦と昔麦とを入れてひと煮立ちさせたもの。アンリは溶き卵も何個分か入れたらしい。刻んだ旱芹菜ぱせりの茎が、さわやかに香っている!


 アンリの作るまかないは、非常にしばしば……いやほぼ毎日、鍋のしめ雑炊である。いつだっておいしいけれど、今日のはとびきりだ、と雑炊椀を両手にミオナは思った。



「……ほんとに、おいしいわね」



 元女王も同感らしい。



「このおつゆだし・・がきいていて、絶妙だわ。アンリ君、あの腸詰めのおかげなんでしょう?」


「その通りなのです~、おひいさま」


「あの腸詰めときたら……。焼いたらもっさりして、つまらない味だったのに。煮たら別ものだよ、同じ腸詰めとはとても信じられないね?」



 ナイアル母も、うなづきながら言葉を添えた。



「はッ。お気に召しましたか? お母さま」


「あんたのお母ちゃんじゃないっちゅうに。……いったい何なんだえ、これ?」


「くくく」


「もったいぶらんと、そろそろ種明かしをしたらどうなんだ。アンリ」



 副店長にじとりと横目で見られ、アンリは焼きたて顔をきらりと光らせた。



「ですね、あまり引いても読者さまに……ごほん、お客様に逃げられます。これは≪谷系腸詰め≫と言いまして! 他の色々なものと一緒に煮こむことで、その真価を発揮するのです」



 なにそれ!!!


 獣人をのぞくその場の全員が、同時同速同方向にむかって首をかしげた。


 ビセンテだけは、一定速度にて大麦の粒を咀嚼している。



「海のものが届きにくい、内陸部によくある腸詰めなんです。そういう土地だと、出汁だしにはたいてい塩豚を使いますからね。それに遠慮して、ほとんど塩をきかせていないのです」



 恥ずかしがり屋の人見知り(自称)であるアンリは、ひとたび料理のこととなると滑舌がつるすべによくなり、雄弁お弁当となる。



「それに加えて、つゆだしとしての相性が抜群によい≪谷きのこ≫をたくさん入れている。単独で焼いただけだと精彩を欠きますが、一緒にお鍋に浸かった具材の味を引き立ててくれる、まさに鍋むけ腸詰めなんですよ~!」



 へえ~!!!


 一同、ふたたび感心した。



「……じゃあ、何だ。うちで食べた時は、間違ったやり方だったってことかえ? お肉屋も、詳しく教えてくれりゃあいいのにねぇ~」



 苦笑するナイアル母の言葉に、卓子角に座ったリリエルが無言でそうっとうつむいている。



「うーん、でもテルポシエ市に住んでいる人のほとんどは、腸詰めなら蒸すか焼くかしか食べ方を知らないと思うわ」



 こきゅっと頭をひねって、エリンが言った。



「お鍋で煮てくださいと言われても、ちょっと抵抗を感じてしまうんじゃないかしらね?」


「うむ、そこでだ。おひい



 エリンに向かって、ナイアルはにやりと笑う。



「そういう一般テルポシエ市民の、定型と常識にはまらん腸詰めの煮込み汁をだな。珍しいうちに、≪ひまわり亭≫でがんがん推そうと思うのだ。どう思うよ、母ちゃん?」


「ああ、いいんでないのかえ? 今日のお客さんの反応を見る限りは、上々だよ。≪つぶし汁≫と交互で出すのかい?」


「ええ、そうなんですよ~お母さま! 一日か二日おきに、第二献立としてあげてみたいんです。何せどんな食材とあわせてもおいしくなる、万能の腸詰めですから。必然的に毎回違うものが出来上がります」



 ぺかぺかぺか! 焼きたてぱんの如き頬のてかりが絶好調、アンリはのりまくりで言い述べた。



「例えば雑穀を入れたり~。乳仕立てにしても、おいしいのですぅぅぅ。ああ、想像しただけで胸がどきゅん」


「ふむ、一日か二日おきね。……そうだリリエルや、あんたがここへ給仕に入る日に合わせて、谷系腸詰めを献立に入れてもらったらどうかね?」


「え、お祖母ちゃん……」



 ナイアル母にいきなり話を振られて、リリエルはなぜかうろたえたようだった。



「≪紅てがら≫からここへ来る途中、あのお肉屋に寄って、あんたが腸詰め買ってきたらいい。前もって注文しておけば、お肉職人のほうでも新鮮なやつを、要りような分だけ用意してくれるよ」


「……そう。そう、ね……」



 答えて、何気ない風に雑炊を食べ続けるリリエルの心音が、とくーんと楽しげに弾む。


 それをミオナは、食卓の向かいの席で聞いていた。


 おいしい雑炊にふさわしい素敵な音だったから、何となしにミオナも微笑する。



「このすてきなまかないお粥も、また食べられるってこと? アンリさん」


「きゃふッ、そういうことになるねぇぇ! ミオナちゃぁぁぁん、お代わりってねえええ」



 ぺかぺか萌えてかるアンリの頬の明るさにかまけて、ミオナは聞き落とす。


 リリエルの鼓動は、たしかに楽しげに高く弾んでいた。


 ……けれどその後、すみやかに静まり返って、再びあの哀しさの中に沈んでしまったのだ。


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