私だけがあなたを知っている
寒さが激しくなったアンデール地方の山奥、降り積もった雪は血によって赤い花を咲かせていた。
彼女の目の前には五匹のナイトウルフが立ちはだかっている。
駆け出し冒険者であるエレニア=ラストンに、一個体Cランクの魔物の群れは荷が重かった。
雪に染まっている血は幸いにもナイトウルフのものであった。
彼女は駆け出し冒険者ながらも即に三体を葬っているが、魔力はあと一、二発【火球】を打てる程度の僅かな量しか残っていない。
体力も激しい戦闘と寒さによって奪われており、救助も見込めない。
———死を覚悟した時だった。
「上出来だけど戦闘の仕方を見ると駆け出し冒険者みたいだな。」
一人の男———いや、青年の声が頭上から聞こえた。エレニアがびっくりするのをお構いなしに青年は続ける。
「暇だし俺が手を貸してあげるよ」
青年はそう言うとエメリアの頭上にあった針葉樹の枝から飛び降りる。青年は首だけを動かしてこう言った。
「誰も俺のことを知らないけどな」
青年は対峙する五匹のナイトウルフに手を翳す。するとナイトウルフは何かに怯えるように山奥へと逃げて言った。
困惑する彼女はとりあえず青年が何者なのかを聞こうと口を開いた。一個体Cランクにも及ぶナイトウルフ五匹の群れを手を翳しただけで追い払ったのだ。
きっと只者ではない。
「あ、あの。お名前を伺っても?」
「随分と昔のことだからなぁ、好きに呼んでいいよ。まあ、俺はもう帰るけど」
「随分前とはどう言うことでしょうか?」
エメリアは不思議だった。名前を教えないにしろ、随分昔のこととは意味がわからない。
「そのまんまの意味さ。」
エメリアは俯いて少し考えると口を開いた。
「じゃあ、トピさんと呼びます。トピさん、助けていただきありがとうございました。」
「助けたってほどじゃないさ。じゃあまたどこかで会えたらその時は」
頭を深く下げると、先程まで戦っていた時に吹き出た汗が頬を伝う。
エメリアは青年をトピと呼ぶことにした。トピとは故郷に伝わる妖精の事で、森で困った時に助けてくれると言われている。そして毎年狩りの多くなる冬になると皆の安全を祈願してお祭りをするのだ。
彼女はまさにトピのように助けられたと思っていた。事実、森で困っていたら青年が助けてくれたからだろう。
青年は帰り際に『トピと言う名前を聞いたことがある』と言い残し、去っていった。
帰り道、エメリアは『私だけあなたを知っている』と思った。
トピと言う、私を助けてくれたあなたを。
意味深な感じにしたかったんですが、無理でしたね。異世界転生というタグが付いておりますが、私の想像ではトピは転生者です(^O^)/
異世界恋愛かどうか分かりませんが感想お待ちしております。




