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第19話 花なんていいから

 部活が終わって、俺たち4人は運動場を後にした。駅に着いたものの、電車へ乗らないで帰るAとBの2人と別れたのは、10分ほど喋った後だった。


「ようやく解放されたか。よくそんなに話すことあるよなー」

「うん……2人とも優しいから……」

「え?」

幽霊(ぞう)さん、私たちも帰ろっか……?」

「あ、ああ、うん。そうだな!」


 ……何だろう。妙に違和感。

 でも志依って、無理やり前の生活に戻ろうとしている感じがするんだよな。父親にも友達にも先生にも、みんなに心配されているし。

 それにお兄さんも、志依はずっと調子が悪かったって言ってた。


 だから気になったとしても訊くのは躊躇(ためら)ってしまう。相変わらず志依の表情は乏しいが、とは言え、顔色はかなり良くなってきたように見える。

 それなら俺はもうこれ以上、志依に浮かない表情をさせたくない。


「そうだ、あのさ志依。ここからは行きと同じように、お前の隣を歩きたい。もうぬいぐるみから離れてもいいか?」

「うん、わかった……。じゃあぞうさん、また後でねぱおん……」

「まっ……、また後でだ、ぱおんっ」


 志依は少しだけ表情を和らげると、前を向いて歩き出した。


 んー、直接訊かないで憑依して心の声を聞く方法もあるが、もう俺は人格が認められてるんだ。詮索したいからって、俺が勝手に志依の事情を把握するなんてやり方は信用を失うし良くない。嫌だしな。


「つか、この辺って田舎だよなぁ。全然人が居ねーし……って、上りのエスカレーター封鎖されてるじゃん。この数時間で壊れたのか?」

「朝は動いてたのにね。でも階段もあるから。よいしょ……」

「よいしょっと」


 まぁ階段ぱんつは、これからもこうして拝ませてもらうけど。



「おい志依。降りるとこが違うけど、どっか行くのか?」


 電車に揺られること30分。駅名を見てまさかとは思ったが、ここって……。


「うん行く。お父さんには止められたけど、やっぱり行きたいかなって……。だから幽霊さんは先に帰ってていいよ。またね……」

「ちょっ、何で突き放す!? 俺も行くよ!」


 なんて自ら申し出たくせに気乗りはしなかった。

 行先はわかる。ただ俺は、幼稚園児でもさらえそうなくらい頼りのない志依を独りにさせたくはないと思った。それだけの想いだった。

 だから俺は、赤の他人のように志依から距離を置いても歩いた。


 ふー。昨日は久方ぶりに来た場所だったけど、今回はなんと1日ぶりですか。

 だけど志依のやつは、何でまたここに……。


 志依はあの定位置に着くと、その場にしゃがんだ。手を合わせ目をつむる。

 この光景も昨日と一緒だ。


 はは。本当おかしいな。スカートを太ももの裏に挟むその姿を、昨日は喜んで眺めていたというのに。


「お花の用意がなくてすみません……」

「いいって、そんなこと気にしなくても。1回で充分だろ」

「充分……? そうだね……きっとそう思ってくれるかもしれない。でも……」


 志依はそこまで言って押し黙る。

 何でお前が死んだみたいな顔してるんだよ。そう思った。


「はぁ……いいか、志依? 死んだやつはな、死んだとこにへなんか帰って来たくねーんだよ。だからもう花がないからって謝ったり、ここに手ぇ合わせに来るなんてことはしなくていいんだ。全然意味ねーからさ。だって見ろ、俺はこうして——お、おい。どうしたんだよっ?」


 突然志依は、ぽろぽろと涙を零し始めた。膝に顔を埋めて肩を震わせる。


 何で、どうして泣くんだよ……?

 意味ないなんて言い方がまずかったのか?

 と言うかそもそも、自分と同じ高校生が死んで心を痛めてるって言っても、普通ここまでするものなのか?

 

 俺はこの姿になって無敵になったと思っていたけど、目の前で好きな子が泣いただけでこうも戸惑ってしまう。


「志依……」


 何て声を掛ければいいか言葉が見つからなかった。

 だが好奇の目を向けられる志依が()(たま)れなくて、悔しくて、俺は涙に濡れた手を取り足早にその場を立ち去った。



 そして時は過ぎ、志依が出場する高校総体の5日前。志依宅にて緊急事態が発生した。


「すまない志依。急で本当に悪いんだけど……明日、父さんと一緒にフランスへ行こう」

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっと。 ここへ来ていい感じになったしいちゃん達。 そんな時。 突然父からの突然な宣告。 しいちゃんはどうなる!?
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