9 雪華と合流
「これで終わりっと!」
エリアーデがフォレストウルフに剣を振り下ろし、
この戦闘は終わりを告げた。
終わるなり、魔石を抉り出し、
木に燃え移らないよう注意しながら、残りに火をつける。
「ちょっと勿体ない。」
「ええ、ですが、持ち歩くわけにも行きませんから。
かと言って、そのままにして置くと、
アニマルゾンビになってしまうかもしれませんので。」
「うん、わかってる。」
「それにしても、まだ中に入って1時間くらいですけど、
それにしては魔物多くありませんか?」
「…そうだね。」
これで7回目の遭遇戦だ。
明らかに多すぎる。
スケリトルドラゴンのことといい、
この森でなにかが起こっているのだろうか?
「ミリアさんはどう思いますか?」
「まあ、そんなこともあるわよ。
先を急ぎましょ。」
いくらか疑問は持ったが、
今、このパーティーに不安をばら撒くのは適切でないと判断し、
ミリアはそれについて考えるのは後にすることにした。
今のこのパーティーには撤退の二文字はないのだから。
「早くしないか!
早くしないとアレンが…アレンが…。」
どこか情緒不安定になっているエリアーデもいる。
ネアもその言葉にどこか魔法の火力を上げた。
マルタさんは平静のようだが、
修道服の裾をぎゅっと握り込んでいる。
私もどこか心臓がバクバクする。
ミリア含めこのパーティーがアレンに対して、
なぜ執着を見せるのかというと…。
―
1年ほど前のことだった。
森に狩りに出ようと思い、
冒険者ギルドにポーターの斡旋を頼んだのだが、
あいにくと女性のポーターがいなかった。
女性のみのパーティーなので、そこら辺に気を使う必要がある。
仕方がないと、その場を後にしようとすると、
小さな男の子のポーターがいるのだが、
どうかと受付嬢に提案された。
一瞬、子供というところで荷物持ちが務まるのかと疑問に思ったが、
彼女いわく、マジックボックスを持っているらしく、
持ち帰りできる容量はこのギルドでも断トツだと言われたので、
その提案に乗ることにした。
そして来たのは、小柄な仮面とフードを被った子供だった。
少年か少女かわからないほどの高い声なので、
他のメンバーは最初は女の子かと勘違いした。
紹介を済ませ、
早速、森へと入り、狩りを開始した。
すると、特に少年に指示することはなく、
戦闘の邪魔にも、休みがほしいなどと進行の邪魔もされることなく、
スイスイと進み、戦果は予想以上となった。
大容量のマジックボックスのおかげもあり、
取得物の選定すら必要なかったので、
戦果は普段の2倍以上。
最良の結果だった。
そのこともあり、
最大殊勲を挙げた少年には夜の番を免除したため、
テントの中で眠ってしまっていた。
そんな時、誰が言った。
「少年の顔ってどんななんだろうな?」
それはすぐさま、酒の席の話題となり、
気がつくと、
見張りに誰一人残ることなく、
テントの中の少年を女達は取り囲んでいた。
そして、まずフードから漏れ出る銀色の髪が目に入った。
まったく髪の色にすら気がつがなかったことから、
認識阻害の魔術が付与されたものらしい。
しかしそれは、どうやら魔力を流し込むことで効果を発揮するものらしく、
気持ち良さそうに眠っている少年を私達はしっかりと認識していた。
フードをゆっくりと外すと、
美しい銀髪が露わになった。
触れてみると、上質な絹の糸のような感触がした。
柔らかくスベスベしていて、
軽く手のひらに乗せると自然に溢れ落ちる感触が癖になる。
正直、このままずっと手で弄んでいたかったが、
本命はまだだ。
最後まで弄んでいたエリアーデを止めると、
ミリアは仮面を外した。
―
そして、
私達は夜が明けるまで、
五人だとかなり手狭なテントで天使のような寝顔のアレンを眺めていた。
アレンが起きそうになったときに、
みんなで引っ掛かりながら、テントから出たのは今でも笑える。
そういえば、少年からアレンと名前で呼ぶようになったのは、
あれからかもしれない。
それからもアレンとはよく一緒に狩りに出て、
マジックボックスには良くお世話になった。
……ん?
アレンって、マジックボックス以外にも確か…。
「あっ!そういえば、アレンって認識阻害の外套持ってなかったっけ?」
「「「…あっ!」」」
私達はやはりアレンのことが大好きみたいだ。
―
アレンとリズベットは魔物に行き先を邪魔されることなく、
かなり早いペースで森の中を離脱していた。
最初は魔物が見える距離になると、
足が止まったり、警戒をしていたリズベットだったが、
今では急に横から魔物が飛び出してくる以外には、
動じたりする様子を見せない。
「リズベット、あっち。」
僕たちは今、煙が上がっている方へと向かっている。
流れに沿って、高頻度で上がっていることから、
これはおそらく冒険者の救援だろう。
そう判断した僕たちは予定を変更して、
その人物たちに助けを求めることにした。
だいぶ煙に近づいてきた。
おそらくはそろそろだろうと思い、
認識阻害を切ると、不意に声を掛けられた。
「誰だ!」
声がした方にリズベットと共に振り向くと、
そこには、僕の良く知る人物がいた。
「エリアーデっ!」
「む!その声はアレンか?」
僕はリズベットに下に降ろすよう頼むと、
外套をしっかりと被って、
エリアーデに相対する。
「久しぶり、エリアーデ。
もしかして…っはふっ!」
すると、エリアーデは僕をぎゅむと抱きしめてしまった。
「アレン、アレン!
よかった、本当に良かった…うっ…。」
エリアーデはかすかに泣いていた。
どうやらかなりの心配を掛けてしまったようだ。
「ありがとう、助けにきてくれて。」
僕もそっとエリアーデに抱きついた。
それから程なくして、
なにかの気配に気がついたと走り出したエリアーデに、
ミリアたちも追いつき、
似たような抱擁などをして、
さあ帰ろうと、歩き始めた時、
後ろの方に、
ドスンと体に響くほど、なにか重たいものが落ちた感触がした。
振り向くと、鋭い爪がアレン目掛けて迫っていた。