4 リズベットは縋りたい
どうやら僕の性格が少しわかって悪いようにはならないと思ったのだろう。
リズベットは僕に話し掛けてきた。
「で?御主人様、私はどうなるの?」
「え?どうなるって?」
「だ、だから…。」
しかし、やはり不安もあるのだろう。
聞きづらそうに、僕を見つめる。
もしかしたら、話しかけたのは精一杯の勇気だったのかもしれない。
「別に特にはないよ。
今まで通り普通に生きて、幸せになって、
頃合い、時が来たら死んで下さい。以上。」
僕も頑張って考えて答えたんだから、
少しは喜んでほしいな、
なんて思っていたのだが…。
返ってきたのは、疑いの眼差しだった。
「…本気?」
その純粋な疑心にアレンは内心涙目になりながら、
なんでもないことのように、答える。
「ああ、本気。」
アレンとしっかりと目を合わせると、
どこか納得したように頷く。
しかし、その様子はどこか悲しげで、寂しそうだ。
「……そう、なんだ…。」
漏れ出た言葉は明らかに残念がっていた。
まるで縋る相手をなくしてしまったように。
「…なにかあったのか?」
アレンの言葉にリズベットは固まった。
明らかになにかあったのは間違いないが、
それを話していいものか、迷っているのだろう。
アレンは気を利かせた。
「命令だ。」
それは魔力を込めたものではないため、
拘束力などは皆無だったが、
リズベットの背中を押すには足りたようだ。
「…命令はもうしないんじゃなかったの?」
「そんなこと言ったか?」
「うん、でもいいよ。
ありがとう、アレン。」
それから、
リズベットは先ほど起こったことをアレンに話した。
夜営の準備の途中にスケリトルドラゴンが空から飛来したこと。
それと交戦したこと。
そして…
……裏切られたこと。
置いて行かれてしまったこと。
自分だけ、餌として。
その様子はやはり悲しげで、僕は自然とリズベットの頭を撫でてしまっていた。
リズベットはキョトンとした様子を見せたが、
徐々に目に涙が浮かんでいき、
気がつくと僕に縋りつく形で泣いていた。
嗚咽が夜の空に響き渡る。
その日は魔物も邪魔も入らず、
その音以外は静かだった。
―
「ご、ごめん。
…なんか私。」
リズベットは顔を紅くして恥ずかしげに俯いており、
本当に死ぬ前とは別人のように変わっていた。
アレンはリズベットに聞く。
「リズベット、もしかしてだが、
精神支配を受けていたりしなかったか?」
「なに?
急にどうしたの?」
リズベットは困惑していた。
「いや、そういえば、蘇らせた時、妙なノイズみたいなのを感じたんだ。
たぶんだけど、なにかの魔術だったと思う。」
「それが精神支配?」
アレンはコクリと頷く。
「ああ。」
「アレン、それはいくらなんでも……っ!」
すると、リズベットは何かを思い出したような仕草を見せるが、
まだ確信には至らなかったのだろう。
アレンに質問をした。
「…アレンはどうして私が精神支配を受けていると思ったの?」
「蘇らせるときの話以外にも不審な点があった。」
「例えば?」
「目。」
「目?」
「死ぬ前の君の目は僕を蔑んでいたが、
今はそうではない。
死霊魔術で蘇らせたと言ったときも、蔑みというより、
感じたのは怒りだった。」
「他には?」
それから、アレンはいくつかの例を挙げていき、
次第にリズベットもアレンの説に同意してきた。
アレンは最後に言う。
「なにより性格が全然違う。
今のリズベットはどこかしおらしくて、可愛らしい。」
すると、リズベットの顔はボンッと真っ赤に染まり、
「そ、しょれは…。」
などと動揺を露わにしていた。
やはり確信はこれだったようだ。
僕も中々人のことがわかるようになってきたじゃないかと自画自賛していると、
く〜。
そんな音がリズベットの方から聞こえてきた。
リズベットは僕から顔を逸し、後ろを向いてしまっている。
そういえば、夕食の途中だったことを思い出し、
僕はマジックボックスから先ほど食べていた残りと、
リズベットの分を取り出した。
「僕はこれからご飯なんだけど、リズベットも食べる?」
リズベットは小さく頭を振った。