26 イルミナがパーティーに加わる
あれからアレンが部屋に戻ると、
部屋のベッドが3人で埋まっていたため、
おばさんに声を掛けて新しい部屋を取ることにした。
自分一人の部屋でどこか久々に感じる自由を謳歌し、
その日は気がつくと眠りへと落ちていた。
朝、カレンに起こされて、
3人の部屋で朝食を摂っていると、
不意にノック音が響いた。
アレンが素早く仮面をつけると、カレンが応対する。
「…アレンいる?お客さん。」
どうやらアンリエッタのようだ。
その声はどこか不機嫌さを孕んでいて、
なにやら怒っている様子を感じた。
「誰だこんな時間に?」
アレンが部屋の外に出た瞬間、アレンは自分が宙に浮く感覚を覚えた。
そして、柔らかな感触が体を包み込む。
アレンが顔を上げると、その主は輝かんばかりの笑みを浮かべた。
そのためか、アレンも仮面の下にどこか優しげな笑みが浮かぶのを感じた。
「アレンくん、おはよう。」
「イルミナ、おはよう。」
イルミナは嬉しそうにもう一度アレンを強くぎゅっとすると、アレンを下ろす。
そして、アレンは部屋の中へとあげると、
3人にイルミナのことを紹介した。
「こちらはイルミナ。
呪術道具屋の店主をしている。
僕がこの街に来たときからの付き合いだ。
たぶんこの街で一番親しい相手だから、仲良くしてほしい。」
アレンがそう言うと、部屋の温度が少し下がったような気がしたが、おそらくは気のせいだろう。
イルミナがいつもの優しげな笑みを浮かべ、
3人に相対する。
「イルミナと言います。
私のアレンくんがお世話になっています。」
…ん?なにやら寒気が…。
あっ!これ…気のせいじゃないやつだ。
3人はおそらく何かが不満なのだろう、
下を見て、肩をプルプルと震わせていた。
アレンがそのことに気がつくと、3人も各々に笑顔を貼り付けて自己紹介をした。
すると、イルミナがこんなことを言い始めた。
「アレンくんが心配なので、私もパーティーについて行きますね。」
イルミナが元々治癒術師として優秀だと知っていたアレンは
心強いと思い、3人に同意を求めると、
3人は渋々ながら、それを受け入れた。
イルミナがどこか勝ち誇っているようにアレンが感じたが、
理由まではわからなかった。
―
アレンがまた凄い強敵を連れてきた。
どこか愛嬌のある優しいお姉さんだ。
アレンいわく、この街で最も親しい人間。
彼の評価が驚くほどに高い。
…それにあの胸はなんだ。
歩くたびにたゆんたゆんと揺れている。
おそらく今まで見た中で一番大きい。
なんて破壊力だと思い、
周りを見比べるも…皆豊かであった。
ん?と思い、
思わずこのパーティーの女性陣のそれと自分のを見比べる。
…揺れない!
見比べるだけでなく触ってみる。
ふにふに。
……ねぇ、あてつけ?あてつけなの?
なんでアレンの近くにいる子って皆大きいの?
たぶんだけど、小さいのって、あのネアって子くらいだよ。
アレンの馬鹿!
思わず取り乱してしまった。
イルミナの戦っている様子を見て、
イルミナって名前を思い出した。
彼女は教国の聖女候補筆頭だった人物と同じ名前だ。
おそらくは本人だろう。
天才と言われていたが、
まさかこんなところにいたとは…。
このパーティーはかなりの腕なので、
この辺りでは怪我なんてしないが、
支援魔術、防御魔術の展開が驚くほどに正確で早い。
おそらく元聖女アンナなんかでは比べ物にならない。
…くっ…これでは受け入れざる負えないじゃない。
その様子には一部の隙もなかった。
天才と言われていたのは伊達ではないらしい。
彼女が言うには、
彼女には妹のカミナというSランクの呪術師もいるらしく、
これからはここサラティアを活動拠点とするらしい。
アレンもどこか喜んでいた。
…まさかまた大きくはないでしょうね?
―
南の森から逃げ出したと思われる多くの魔物の討伐が一段落ついたので、
今日はここまでとし、依頼料を受け取ってギルドを後にしようとすると、
リズベットは残るように言われた。
待っていようかとアレンが尋ねるも、
先に帰っていてほしいというので、
カレンまでも先に宿に帰ることになった。
少し暗くなり始めていたので、
アレンはイルミナを呪術道具屋へと送る。
店先にはcloseの看板。
どうやらカミナも依頼へと向かったようだ。
イルミナもそのことがわかったのだろう。
どこか寂しげな様子に見えた。
今日は久々に多くの人と関わることができてはしゃいでいたように、アレンには見えていた。
「アレンくん、送ってくれてありがとう。
それじゃあ…。」
またね、いつもならその言葉が続くのだが、
言葉が出てこない。
アレンは思わず口を開く。
「イルミナ、今日泊まっていこうか?」
「…いいの?」
「ああ。」
すると、イルミナはどこか子供っぽい笑みを浮かべた。
「じゃ、じゃあね、
来客用のお布団用意しなくちゃだから、
早く中に入って、入って。」
イルミナに促されるまま、家の中に入れられながら、
アレンはリズベットに念話で今日はイルミナのところに泊まると連絡を入れる。
(ということだから、今日はそっちはそっちでよろしく。)
(…ちょうどいいわね。)
(へ?)
(なんでもない、なんでもない。
こっちの話だから、イルミナさんをよろしくね。)
(それはまあ…。)
(それじゃあ。)
(ああ。)
どこかリズベットの様子がおかしかったような気がしたが、
アレンは気のせいだろうとそこでそのことを考えるのをやめた。
アレンはこのことを後悔することになる。
後日、宿に向かうと、
カレンがひどく取り乱していた。
「アレン様、お嬢様がどこにいらっしゃるかご存知ではありませんか?」
どうやらリズベットが失踪したらしい。




