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24 イルミナとカミナと

リズベットに念話で夕食は食べて来ると伝えると、


そういえば、


罠にハマって落っこちたときにもこれを使えば、


良かったのではと思い、


内心で二人に謝罪した。


それから、外に並べていたものを全て店の中に仕舞い込むのを手伝うと、


イルミナは売上の確認するからと、


アレンは先に家の方に行くように言われた。



イルミナは料理上手なので、


夕食を楽しみに、


店の裏に併設された家の方に靴を脱いで上がっていくと、


酒瓶を片手に、つまみに手を付けるカミナがいた。


どこかだらしなく、


地味な着物を着崩したスレンダーな彼女はアレンに気がつくと、


おう!と手をあげる。


「なんだなんだ、アレンも今日は食べにきていたのか?


ほら、ここ、ここに座れ。」


そんな風に言って、自分の隣をポンポンと叩く。


この店の裏は地面が少し高くなっていて、


畳と言われる草の絨毯が敷かれていて、


その上に自家で座れるようになっている。


そのため、カミナは片膝を立てて座っており、


着物の裾から中身が見えてしまっている。


どこか派手な紫のそれが。


そういえば、胸元からも同色のそれが覗いている。


はしたないと思ったので声にしようかとも思ったが、


酒をすでにかなり飲んでいるようなので、


面倒な絡み方を間違いなくされると思ったため、


アレンは自分が見なければ済むかと納得し、


下は見えないことがわかっている隣へと腰を下ろす。


すると、よし来たと手に持った酒瓶をアレンに渡すと、


お猪口という小さなコップを持ってきて、


アレンに差し出してくる。


そこに波々に注ぐと、


すぐさま煽り、いつものように満足そうな笑みを浮かべる。


「とっとっとっと、ングングング、ぷはぁっ!


やっぱり人に酌してもらうのっていいわ〜。


なんていうか、楽?


ガハハっ!


姉さん、ご飯〜。」


すると、計算を終えたイルミナははいはいといった様子で、


いつものように流すと、


アレンにカミナの対応を任せ、


自分はご飯を作りに台所?に向かった。


しばらくアレンはカミナのお酌をしていると、


カミナは話し始めた。


「アレン、南の森には近づくなよ。」


「…やっぱりなにか依頼があって来たんだな。」


カミナは酒を煽り、アレンにお猪口を突き出す。


アレンが注ぎ終わると、話を再開させた。


「…まあな。


この前スケリトルドラゴンが出ただろう?


そのあたりから、魔物の様子がおかしいらしいのだ。」


カミナはアレンに知っていることを話し始めた。


とあるパーティーがスケリトルドラゴンに遭遇し、


救援と協力することでそれを打ち倒したのだが、


その2つのパーティーが合流するまでに異変に気がついたらしい。


魔物の数が多すぎると。


そのため、先日その片方のパーティーが再び南の森へと向かったのだが、


やはり事態は変わらなかったらしい。


合流したあたりから、さらに先へと進むと、


程なくして奇妙な魔法陣を発見したらしい。


それは森の奥へと進むにつれて数が増えていったが、


その魔法陣がどこか呪術寄りのものだと魔術師が途中で気づいた。


そして、すぐさま引き返し、


ギルドに報告したところ、メンバーを補充しての再調査が行われることになったそうだ。


その補充メンバーというのが…


「つまりは、私だな。


呪術師のカミナ。


呪術師という特殊性でSランク認定を受けたからな。


おそらくこの国に私以上の適任はいない。」


この国には、呪術師という存在はいるのだが、


数が少なく理論体系が未熟なため、


全くと言っていいほどに優秀な者がいない。


そのため、他の国から来た者を專門家としてギルドや国が囲う場合がある。


つまりは、カミナはギルドに所属しているのだ。


そのため、ギルドからの要求が断れずに来たということだろう。


「そうか…カミナがエリアーデたちと…。」


アレンの口からそう漏れたのをカミナは聞き逃さなかった。


「あん?なんでお前がそれを知ってるんだ?」


件のパーティーのことを知っているのは、


ギルドだけのはずだが…。


カミナがどこか訝しげな視線をアレンに送ってきたので、


隠すことでもないと判断したアレンは正直に話す。


すると、カミナは納得したように頷いたが、


どうやらもう一人聞いていた人がいたようだ。


イルミナが料理を終え、


こちらに運んで来ていたようだ。


「…そんな…。」


声が漏れるとともに、料理をちゃぶ台に乗せると、


アレンの身体を余すところなく触っていく。


そして、なにもないことに気がつくと、


目元にほんのりと涙を浮かべ、


安心したように微笑んだ。


「…よかった。」


そう漏れた声にアレンはどこか胸が締め付けられるような感覚を覚えた。


そのためか、


アレンの口からは自然とこんな言葉が出た。


「…ごめん、イルミナ。」


それからイルミナに睨まれてしまったが、


カミナがご飯が冷めるからと、


取りなしてくれたため、


その視線からは開放された…かにみえたが、


イルミナは甘くなかった。


余程心配したのだろう。


イルミナはとある場所にアレンに座るように要求する。


「アレンくんの席はここです。」


「…いや、いやいや、イルミナ、そこは…。」


「なんですか?問題でもありますか?」


イルミナはニッコリと笑いながら、()の上をポンポンと叩く。


やはりそこに座れということらしい。


その笑顔にはどこか圧があり、


アレンはこんなことを思い出した。


普段優しい人は怒るとめちゃくちゃ怖いということを。


どうやらイルミナはそのタイプだったらしく、


子供のアレンには逆らうことはできないとすぐに覚った。


大人しくアレンが腰を下ろすと、


イルミナは腕をアレンの前へと回して、


ギュッとアレンを抱きしめる。


その腕をどこか震えていて、


だけど、いつもの優しげな声でこう言った。


「アレンくん、あんまり危ないことしちゃ駄目です。


本当に心臓が止まるかと思ったんですから。」


「…返す返すだけど、ごめん、イルミナ。」


すると、イルミナの腕が解かれ、


どこか名残り惜しさを感じていたアレンに、


イルミナはどこか楽しそうにこう言った。



「罰として、アレンくんの嫌がることをします♪」


「へ?」



思わず間の抜けた声を出すアレン。


どこか居心地悪そうにしていたが、


イルミナの言葉に面白そうだと笑みを浮かべるカミナ。


そして、イルミナはその内容を告げる。


ごくり。



「アレンくんのお顔を拝見しちゃいま〜す!」



「なっ!」


慌てるアレン。


仮面を取られないようにしようとするが、


カミナに奪い取られてしまう。


「へへっ!」


「くっ!」


フードだけはと思い、手を伸ばすが、


イルミナの手に触れてしまう。


「っ!?」


まずいと思い、力を込めるが、


イルミナに引き剥がす意思はないようだ。


どうしてと思い、イルミナに目を向けると、


イルミナはどこか不安げにしていた。


「…アレンくん…本当に嫌ならやめるから…。


でもね、こんな機会でもないと、


アレンくんずっと私に顔を見せてくれないと思ったから…。」


「…イルミナ…。」


アレンは確かにそうだと思った。


こんな機会でもなければ、アレンはイルミナと素顔で向き合うことはないだろう。


本来、この街に来て、一番長い付き合いの彼女と…。


そして、一番仲の良い彼女と。


アレンとイルミナはそのまま数秒動かなかったが、


イルミナの言葉でアレンは手を引いた。


やれ!やれ!と囃し立てるカミナ。


そして、イルミナの手によって、


アレンの外套は剥ぎ取られてしまった。


イルミナはアレンの顔を確認すると、


優しく微笑み、


アレンを自身の大きな膨らみに抱きしめてしまう。


「ありがとう。」





そうどこか湿っぽいやり取りが終わると、


小さく、もういいよねという言葉が聞こえた気がした。


そして、どこか乱暴に抱きしめ直された。


「い、イルミナっ?」


驚きの表情を浮かべるアレン。


イルミナの顔を見ると、


彼女の顔はどこかトロケきっているように見えた。


「もう、もう、も〜うっ!


なんで、なんでこんなに可愛いのに教えてくれなかったの〜!


知ってたら、いっぱい、い〜っぱいこんな風にぎゅ〜〜ってしてあげたのに。」


そう、イルミナは身体の豊満さからもわかるように、


元来母性本能というものがかなり強い。


そのため、アレンと普段会うときもどうにかある程度まで抑えていたのだが、


アレンの顔を見て、それが爆発したらしい。


「アレンくん、アレンくん、アレンく〜ん♪


好き、好き、好き〜〜っ♪」


イルミナがどこか暴走気味にアレンを可愛いがっていると、


普段ならアレンをからかってくるはずの人がなにもしてこないことに気がつく。


あれ?そういえば、カミナは?


そう思って、カミナの方を見ると、


相変わらず片膝を立たせながら、


見たことがないほどにほうけた様子でこちらを見ていた。


「カミナ?」


アレンの口からそう言葉が漏れると、


目に光が戻り、すぐさま顔を真っ赤にさせ、


脚を閉じて、もじもじとした様子で俯き、


膝をすり合わせた。


…えっ……どちら様?


カミナの妙な様子に気がつかないのか、


興奮気味で聞くイルミナ。


「カミナもアレンくん可愛いと思うわよね?」


コクン。


それに対し、カミナは顔を真っ赤にして小さく頷く。


…誰?


「あっ、そうだったわね。


そろそろ交代する?」


コクン…こくんこくんこくんこくん。


首が取れても後悔しないのではないかと思うほどに振るカミナに、


アレンは若干引いているが、


イルミナは何事もないかのように普段の微笑みを浮かべている。


「じゃあはい!」


イルミナがアレンを渡そうとすると、


自分の格好を見て、すぐさま部屋を出ていくカミナ。


すると、帰って来た姿は外行きの綺麗な着物だった。


滅多に見ないカミナにアレンは驚きつつも、


イルミナのされるがままとなり、


カミナの膝の上へと乗せられる。


アレンの体重がカミナに掛かり始めると、


カミナは身じろぎをしながら、どこか色っぽい声を漏らす。


「んっ。


あ、アレン…ど、どうだ?


私の膝は…気に入ってくれると…その…嬉しい…。」


顔を真っ赤にして、


しおらしく、まるで恋する乙女のような反応をするカミナに、


アレンは再び思った。



……誰この人…。



それから、ご飯を食べて店を出たが、


今日はやけに二人に可愛いがられてしまい、


店を出るのがかなり遅れてしまった。



「…姉さん、アレンがあんなだって知っていたなら教えてくれって!


私、アレンにあんなにだらしないところばっかり見せちゃったじゃん!」


カミナはアレンがいなくなり、家の中に入った途端に姉のイルミナに詰めよった。


しかし、イルミナはなんでそんなことをするのか、


理解できないといった様子だ。


「えっと…どういうこと?」


イルミナの口からとうとう言葉が出た。


カミナは苛立たしげに吐き捨てる。


「だから!アレンがあんな容姿だって知っていたんでしょ!」


しかし、イルミナの反応は予想外なものだった。


「ううん、知らなかったけど?」


「えっ?」


「今日、初めて知ったのよ。


銀髪に左右赤と金の瞳、


色づいた唇、それに可愛いあのお顔♪


まさかアレンくんがあんなに可愛いなんてね♪」


「…なら、なんで姉さんはそんなに…くっ!」


カミナには理解ができなかったのだ。


あの初代勇者と似た容姿をしたアレンと会話ができていたことを。


自分は頭や口が思うように動かず、ずっと見つめたり、


時折お酌をしてもらったりとあれから会話らしいものが一つもなかったのだから。


「それにしても、アレンくん、


可愛いかったわね〜。


もう!も〜っと好きになっちゃったわ♪」


こんな風にどこか呑気に話している。


おそらくイルミナも初代勇者に似ていることに気がついているが、


もとよりアレンのことが大好きなため、


ほぼ影響がなかったのだ。


カミナは少しイルミナに意地悪をしてやれと思った。


自分がこれだけ動揺したのに、姉がのほほんとしているのが、


面白くなかったのだ。


カミナはどこかとぼけるように言う。


「あっ、そういえばアレン、パーティーを組んだんだって。」


「へえ、そうなの。


どんな子達なの?」


「えっと確か…可愛い女の子がいっぱいで一緒の部屋に泊まってるって…っ!?」


「…そう、そうなの♪うふ、うふふふ♪」


カミナはその日、生まれて一番の恐怖を味わった。


絶対に触れてはいけないものが在るのだと、


身を持って知るのだった。



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