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21 地下墓地からの脱出

「して、アレン…いや、御主人様の方がいいか?」


「いや、アレンでいいよ。」


「そうか、


して、アレンよ。これからどうする?」


「どうするって、どうしようか…。」


アレンの口からそんな言葉が漏れると、


ラミアスは妙なことを言い始めた。


「まあ、私としてはこのままここでずっとアレンと一緒にいるというのも吝かではないのだが、


アレンとしてはここを出たいのだろう?」


「いや、それは当然だろう。」


アレンは苦笑いを浮かべつつ答えた。


ここはいわゆる地下の墓地だ。


いくら清浄な気に溢れているとは言え、


そんなところで一生をともにするのは御免である。


第一、食料がそれほどないため、


どれほど持たせても一月が限度だろう。


そんな先が見えた生活をまだ9歳のアレンは送るつもりはなかった。


「そうか…それなら少し残念だが、


外に出る術をどうにかして考えるとしよう。」


「いや、折角生き返ったのだから、残念がるなよ。


外に出れば、


美味しいものもたくさん食べられるのだから。」


「そうか、そういえば生き返ったのだったな。


美味しいものか…アレン、一緒に食べに行こうな♪」


「ああ、僕は食べ歩きが趣味だから、


美味しいお店はたくさん知っているぞ。」


それは楽しみだと笑顔を浮かべるラミアスに、


アレンは自分のお気に入りお店を紹介しようと心に決めた。



「それにしても…アルカのやつなんたってこんなにも出にくい場所に私を埋めたのだ?」


まったく…といった様子のラミアス。


「そう言うな、ラミアス。


君が遺体を誰にも見つからないようにしてほしいと頼んだのだろう?」


アルカとはラミアスの親友とされた存在で、


持ちつ持たれつの仲だったと言われている存在だ。


これはこの場所が誰にも見つからないようにと配慮された結果で、


アレンの今回のようなイレギュラーでもなければ、


誰もここにたどり着くことはなかったのだ。


ましてラミアスがこの場所から生き返って出ていくことなど、


当然のごとく考えられて作られていないだろう。


「はあ…しかしこれでは出ることは出来まい。」


それは確かにそうだ。


「半分くらいまでなら、なんとかなる気がしないでもないのだがな…。」


ラミアスにはアレンが落下したときの様子を伝えたため、


肌感覚ながら、天井までの距離がわかるようだ。



ふむ…それにしても半分か……あっ!



アレンは脱出方法を思いついた。


しかしどうしたものか…。


アレンがなにかに気がついたことを目ざとく覚ったラミアスは、


アレンに迫る。


「アレン、なにかいい方法を思いついたのか!


今、あっ!って言っただろう?」


どうやら口から漏れていたらしい。


「い、言ってない!


言ってないったら、言ってないよ。」


「嘘をつくな!


アレンは確かに言っていた。


私は戦場に良くいたせいか、耳も良いのだ。


わかったら、キリキリ話さないか!」


「うっ…ううう……。」


アレンは困ってしまった。


ただでさえ、恥ずかしいので、


言い出すのには覚悟がいることをこんな風に問い詰められてしまっては、


余計に言い出すことはできない。


すると、ラミアスはやり過ぎてしまったと思ったのか、


アレンに目線を合わせるように、


膝を曲げると、優しく語り掛けてきた。


「アレン?


私は別に怒っているわけではないのだ。


ただアレンがなにかを思いついたのなら、


教えてほしいと思ってな…。


どうやら外に出てアレンと過ごしたいという気持ちがはやってしまったらしい。


ごめんな。」


「ううん、僕が悪かったから。」


「アレン、もし本当に言いたくなければ、言わなくていいぞ。


なに、いざとなったら、ここで二人楽しく暮らせばいい。


少しの間、私は過ごして寂しかったが、


今度はアレンがいるからな!きっと楽しくなるさ!」


そう笑うラミアスにアレンは口を開いた。


「ラミアス、僕が今から言うことを聞いてほしい。」


「…いいのか?」


「ああ…その代わり…。」


「その代わり?」


ラミアスはもじもじするアレンに聞く。



「…僕を嫌わないで…ほしい…。」



その時のアレンの姿は男性であっても母性本能に目覚めてしまうであろうほどに、


強烈な魅力を放っていたが、


ラミアスは血が滲むのではないかというくらい、


自らの腕を握りしめて、どうにかして耐えた。


そして無理矢理に笑顔を浮かべてこう言った。



「もちろんじゃないか。」



アレンはリズベットのときと同じ方法をラミアスに説明した。


すると、ラミアスは下を向いて震えてしまう。


まあ、そうだよな…。


子供とは言え、さっき会ったばかりの存在だ。


そんな存在に…き、キスをされるなんて…。


僕だったら恥ずかしくて仕方がない。


正直そんなことを考えるだけても、顔はもうこれ以上ないくらいに熱を帯びている。


真っ赤っかだ。


ソッポを向く僕の肩をラミアスは掴んだ。


「えっ?」


「し、仕方がないことだ。


そうだ、仕方がないことなのだ。


しかしアレン…私はもう我慢が…。


いや、私は決して…。」


そんなことをブツブツと呟きながら、ラミアスはガバっと顔を上げた。


上げた顔は目元がひどく潤んでいて、


顔は真っ赤に蒸気していた。


それでいて、口からはどこか甘い吐息が漏れ、


恥じらいの中に可愛らしさが同居した様子になっていた。


ラミアスは口を開く。


「…アレン、私はアレンなら…。」


どこかしおらしい様子のラミアス。


しかし、興奮しているのか、徐々に顔が近づいてくる。


アレンが静止しようとする瞬間には、


もう顔は眼の前にあった。


少し動けば、唇同士が触れ合ってしまう。


そんな距離感。


ラミアスは躊躇したのか、そこで止まってしまった。


アレンはそこで正気に戻り、


軽く肩を押して距離を作ると、


ラミアスの頬に唇を押し当てた。


ちゅっ!


すぐに頬から唇を離した。


「あっ…。」


ラミアスの口から名残り惜しそうな声が響くと、


アレンはラミアスに背を向けて告げる。


「僕、まだ9歳だから。


だからそういうのはもっと大きくなってからだから。」


アレンが口早にそう言うと、


ラミアスはクスリと笑い、僕に近づいてきた。


「そうだな。大きくなったらな。」


そう言うと、アレンの頬に柔らかい感触が触れていた。


気がつくと、ラミアスの顔がすぐ横にあって、


それがどれだけか後に離れていった。



ラミアスはアレンに微笑みかけると、


お姫様のように抱き上げ、


助走をつけると、壁を蹴って登って行ってしまう。


気がついたアレンが魔術で光を放つと、


もう少しのあたりに扉のような物があった。


それに向けて、ラミアスが蹴りを放つと、


アレンたちはアレンが落ちた穴の直ぐ側に立っていた。



直ぐ側には、リズベットとカレンがいて、


アレンたちを見て、目を丸くしていた。


アレンの口から安心感から言葉が漏れる。


「ただいま、リズベット、カレン。」



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