2 死霊魔術の行使
「いや〜…本当にイラつきますね〜…。」
解体の次は飯をどうにかしろ?
…なんで食事、食べもののことを考えていないの、あの人たち。
僕は今日臨時で採用されたのだから、
てっきり自分達で用意しているのかと思っていたが、
どうやらそんなことは頭になかったらしい。
僕は呆れた。本当に呆れた。
もしかしても霞でも食べていたのだろうかと本気で思ったが、
もうそれは皮肉にすらならない。
このことから判断するに、前の同業者が全てやっていたらしい。
…そういえば、地図の見方やれも聞かれたような。
…なぜだか子供の遠足に付き合っている保護者の気分だ。
前任者の苦労が偲ばれる。
一体どれだけあいつらといたのだろうか…
一月なら英雄、半年なら勇者、一年以上なら神だろう。
精神やれ人間性やれが。
そんなこんなで一日未満も、
あんな奴らとずっと一緒にいるのは息が詰まるので、
僕は食材を探してくると言って野営地を離れたのだ。
「ふう…。」
フードはそのままに、仮面を外す。
夜の冷たい空気が頬を撫で付ける。
気分転換は終わりにして、軽くイノシシでも狩って、
帰ろう。
―
再び訪れた野営地はやけに開けていた。
木々は薙ぎ倒され、
ところどころ焼け焦げたような跡があり、
テントのものらしき布地は破けて、
折れた枝に引っ掛かっている。
大きな爪痕も残っていることから、
おそらくは大型の魔物、
もしくは日々の行いが余程良かったのだろう、
ドラゴンに襲われたか?
さて、生存者はどこか?
といっても、これではいないか、
逃げたことだろう。
よし、少し休んで帰って、ギルドに報告だとこの場を離れようとしたら、
少し離れたところに杖が突き刺さっているのが見えた。
「まさか…。」
僕はその周囲をくまなく探した。
すると、
少し離れた森の中、
そこに無惨に引き裂かれた女があった。
杖と着ていた服の残骸から判断するに、
これの名前はリズベット。
他のやつなら捨て置いただろうが、
こいつに今、死なれるのは少し寝覚めが悪い。
まだ借りを返していない。
なので、返し過ぎな気もするが、大量の利子分も返すことにした。
死体の上に大きめ布を被せる。
「我が血に宿りし、創造神の加護よ。
この者に再び生を与えることを赦し給え。」
そして、潰れた顔の辺りに血を一滴垂らした。
すると、まばゆい光が布の下にある存在を包み込み、
気がつくと、す〜す〜という吐息が聞こえてきた。
どうやら成功したようだ。
…しかし…近くに放っておいたイノシシが目に入った。
「今日は肉はしまっておくか。」
―
今日の夕飯はチーズと白パンとジュースにサラダだ。
さて、まずは白パンを半分に割り、
頬張る。
あむあむ…うん、普通に美味い。
やっぱり白パンはいい。
柔らかくしっとりしている。
それでいて雑味が少なくどこか甘い、
おそらくは小麦の味なのだろう。
噛むたびに鼻から抜ける匂いもたまらない。
こんなものを食べてしまったら、
黒パンには戻れない。
しかし、
僕は白パンをもっと美味しく食べるすべを知っている。
焚き火の上でナイフの上にのせたチーズを軽く炙る。
程なくそれは溶け出し、独特な匂いが強くなる。
期待感に喉を鳴らす。
そして、僕は禁忌を犯す。
単純に美味い白パンの上にチーズを乗せ…
「うぅぅ…あ、あれ?なにかいい匂いがする。」
…どうやら、飯はまたの機会らしい。
おそらくだが、チーズの芳醇な香りが食いしん坊を起こしてしまったらしい。
僕は素早く食事の片付けをすると、
仮面を着けて、リズベットのところへと向かった。
―
フードを被った仮面の少年だか、少女が、
リズベットに話しかけてくる。
「おい、あんた気分はどうだ?」
「気分?」
「ああ、とりあえず蘇らせたが、
どうかと思ってな。」
「蘇らせた…?」
意識がはっきりとはしていなかった私の口からそんな言葉が漏れた。
蘇らせた。
この言葉が私の中をグルグルと何度もまわる。
そしてその意味を理解した。
「アンデット。」
正解を引き出した私の次の行動は早かった。
「アレン、あんた、私をアンデットなんかにしたのっ!!」
「…。」
沈黙を肯定だと認識した私はアレンに言葉を投げつける。
「なんてことをしてくれたの、
グズ!」
これから始まり、
私は延々とアレンに罵声を浴びせ続けた。