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17 リズベットとカレンの喧嘩

大きな火球がオークに向かって飛んでいく。


苦悶の声を上げ、オークは火達磨となり、


それからすぐに息絶えた。


リズベットは一撃でオークを仕留めたのだ。


「…やっぱり駄目ね。」


しかし、オークを倒したリズベットの口から漏れたのは、


そんな言葉だった。


はあ、と溜息を付き、額に手を当て考え事を始めた。


ああでもないこうでもないと、


試行錯誤を繰り返すも結果は変わらない。


そのことでリズベットはガッカリするのかと思ったが、


どこか疑問が晴れてすっきりとした様子だった。


「やっぱりダインが…。」


そんな声がリズベットの口から漏れた。



そして、リズベットはこちらにジト目を向けてきた。


「それはそうと…カレン、あなたなんでそんなにアレンの世話を焼いているの?」


視線の先にあったのは、


アレンの額の汗を優しくタオルで、拭うカレンだった。


カレンは悪びれもせずに言う。


「アレン様が汗をかいていらしたので、


私としてはお風邪を召してはと思いまして。」


「…それなら私も少し汗をかいちゃったな〜なんて。」


すると、カレンは荷物からタオルを取りだし、


リズベットにそれを差し出す。


「どうぞ。」


「……。」



昨日お風呂からあがって、アレンの部屋に行くと、


家の方で執事をしているカレンがいた。


どうやら先ほどの謝罪と私の面倒を見るために屋敷の方から寄越されたそうだ。


私がアレンに謝罪をしろということを見越し、


先んじてアレンの許可を取ったらしく、


アレンが良いというのなら、


私としてはカレンと一緒にいられて心強いとも思うのだが…。


「カレン…あなたなんかアレンに近くない?」


「いえ、そんなことはないですよ。」


カレンはまったく表情が浮かば…いや、時折、口元が緩んでいる。


それに目もどこか熱を帯びているように思う。


そして何より…カレンはアレンと肩が触れ合うほどぴとりと寄り添っていた。


リズベットはこんなカレンを見たことがなかった。


カレンは青い髪のクールな美人のため、


男に言い寄られることもかなりあるのだが、


まったく意に介していなかった。


眼中になかったのだ。


使用人根性が染み付いていたことと、


カレンはどこか理想の王子様を求めているようなところがあり、


男っ気がなかったのだ。


しかし、そんなカレンがどこか愛おしそうに、


アレンに寄り添っている。


このことから、リズベットは回答を導き出した。


「…アレン、見せたでしょう。」


「…まあ、うん。」


やっぱりと思った。



カレンのお気に入りは特に初代勇者の物語なので、


その初代勇者と似た容姿をしていて、


可愛く心優しい少年のアレンに心を奪われるのは当然と言えた。


そもそも、初代勇者はこの世界の女の子の初恋を数々奪ってきた存在なのだ。


それだけでも問題なのに、


アレンは普段、不気味な仮面にフードという警戒心を煽らせる格好をしている。


そして、少し触れ合えば本当はとても可愛くて、優しい人物だとわかってしまうのだ。


そんな人物が仮面を取ると、実は……。


なんて、


誰だってイチコロになってしまうだろう。



なので、納得はできる。


自分は命を救ってもらって弱いところを受け入れてもらってなのだが、


アレンの容姿を見て惚れ直したので、


納得()できるのだ。


しかし、アレンと自分以外の女の子が仲良くしていると、


こう…もやもやする。


すっごくもやもやする。


なので、私もアレンの隣に座った。


「り、リズベットっ?」


こんなにも可愛いアレンをほとんどの人が知っていないという優越感からだろうか、


仮面越しにだが、アレンが顔を真っ赤にしている気がして凄く嬉しく感じる。



すると、カレンはそれが面白くなかったのか、アレンを自分の方へと引き寄せてしまった。


「お、おっと危ない、アレン様、


発情したメスが迫ってきております。


どうぞこちらに。」


「え、えっ?ちょっとっ!」


すると、カレンはアサシン特有の早業で、仮面を取り去り、


ちょうどカレンの大きな膨らみにアレンの生の顔が埋もれてしまった。


思わず自分のそれに触れるリズベット。


ふにふに……。


視線の先。


たゆんたゆん。


「か、カレンっ!?」


「アレン様、あっ、あんっ♪暴れないで。


ここ、ここなら、あんっしんですからっ、あんっ♪」


見せつけるようにアレンを包み込むその様に、


リズベットの本能がブチギレる。


「カレンっ!」


ニヤリと笑うカレン。



それから、宿のおばさんが怒りに来るまで、


そんなことが続き、


宿の夕食時に、


報告のためカレンはお屋敷に帰って行った。


昨日の夜そんなことがあったからか、


リズベットの額には青筋が浮かび、


受け取ったタオルが一瞬でシワシワになる。


「カレン…あなたね…。」


私がカレンに怒りを向けようとすると、


きゅ〜〜…どこからか可愛らしい音が聞こえてきた。


「あっ、僕だ。」


アレンが手を上げて自己申告してきた。


そうかそうか、うんうん、お昼だものね。


その時、リズベットとカレンの心は繋がった。


この可愛いアレンにご飯をあげなければと…。


喧嘩なんてしている場合ではないと、


せっせと昼ご飯の用意を始めた。


その頃には、リズベットの怒りも霧散していて、


その代わりどうにかカレンと協力できないかと考えていた。



なにせ…強敵はまだまだいるのだから。


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