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16 女執事がお礼を言いに追いかけて来た

リズベットとアンリエッタの二人のやりとりが、


おばさんの営業妨害の一言で治まり、


リズベットといつもの部屋で過ごしていたのだが、


少し休んだら、風呂に誘われたのですぐさま断った。


なぜだかわからないが悪寒がしたし、


宿の方に迷惑がかかると思ったからだ。



僕が入る場合は、


物語にも語られる初代勇者似の容姿のこともあり、


貸し切りにしてもらうため、


冒険者がたくさん入るであろう時間帯は遠慮しているのだ。


そのため、入るにしても、余程のことがない限りは、


早朝か深夜の入浴、


もしくは【クリーン】の魔術と濡れた布で軽く拭く程度で済ませている。


風呂自体は昨日入ったため、本日は後者となる予定だ。



すると、リズベットは残念そうにしたが、


また近いうちにと言って風呂場へと向かって行った。



それから程なくして、


道具の手入れをしようと思い立ったアレンが、


マジックボックスからナイフなんかを取り出そうとした時、


不意にドアが鳴った。


「いるぞ。」


声を外に向けて発すると、


おばさんがお客さんだよ、と言った。


誰だろうと思い、扉を開けるとそこには、


先ほど公爵邸にいた女執事が立っていた。


一瞬固まるアレン。


すると、女執事は先ほど見た怒りの表情とは打って変わって、


優しげな表情を浮かべていた。


そして、アレンを確認するなり、こう言って頭を下げた。


「先ほどは申し訳ありませんでした、アレン様。


そして…ありがとうございます。」


どこか感情が薄く、怒った印象しかない女性だったが、


今はどこか晴れやかで優しい印象に変わった彼女が一瞬誰だかわからずに、


呆然としたアレンだったが、


ここでは人の邪魔になると判断し、部屋へと連れ込んだ。


そして、椅子をすすめると腰を降ろした。


女執事はアレンに謝っていたし、


お礼を言っていたが、


実はまだ怒っているのではないかと思い、


少しビクビクしていると、


どこか微笑ましそうに笑った。


「アレン様、私は今日、あなた様にお礼を言いに来たのですよ。


なので、そう体を強張らさなくてよろしいかと。」


「えっ…でも…。」


頭に浮かぶのはやはり疑問符のみだ。


自分がやったことを省みてもやはりそう思う。



エリクサーを使ったと嘘をつき、


それを逆手にリズベットを要求、


そして公爵に言いたい放題言った後に、


リズベットを問答無用で連れ出した。



詐欺、誘拐、不敬?…どう見ても事案というやつだ。


非難されど、感謝されることはない。


「アレン様は私達使用人一同が命をとしてでも、


するべきことをなさってくださいましたから。」



女執事が言うには、


リズベットに公爵がしてきたことはずっと前からお止めするべきだとわかっていたのだが、


領地経営などの観点から考えて、


公爵の言いなりになっていたらしい。



そのことを聞いて、アレンは自分が浅はかだったと思い知ったが、


子供だからか、


やはりどうにかして新しい方法を探すべきだと思ったので、


謝る気にはなれなかった。


「しかし、公爵は怒っていたのではないか?」


アレンが恐る恐る聞くと、女執事の答えはあっけらかんとしたものだった。


「いえ、旦那様も大変反省なさっておいででした。


失礼ですが、子供であるアレン様にあそこまで言われて、


自分の本当の望みに気がつかれたのかと。」


「本当の望み?」


「ええ、亡くなったリズベット様の母が最後になさった望みを叶えること。


つまりはリズベット様の幸せです。」


リズベットの母が亡くなっていた事に驚くが、


アレンはそれ以上に意味がわからなかった。


「…なんだそれは…なんでそれがあんなことに…。」


真逆のことをしてしまっていた公爵のことを理解できなかったアレンだったが、


女執事は言った。


「前の私ならばわかったのでしょうが、


今の私ではその答えはわかりません。


おそらくはさまざまな事情が絡み合い、


追い詰められた結果だったのでしょうとは推測されますが、


おそらく今の旦那様にも理解できないでしょう。」


言いたいことはわかるようなわからないようなことだったが、


言っている女執事もどこか苦笑気味だったので、


今の僕にはどうやってもわからないことなのだろうと思い、


それは諦めることにした。


「わかった。


御礼の言葉は受け入れる。


それでは他になにかあるか?」


「…っ!?」


アレンの声に驚いた様子だったが、


やはり女執事は口を開いた。


その様子は彼女からは想像できないくらいに、


おずおずしていて、ひどく口にしづらそうだったが、


はっきりとアレンの耳には届いた。


「…私をリズベット様のお側でお仕えさせてはいただけないでしょうか?」


「…なぜそれを俺に?」


「まずアレン様にお伝えするのが、筋かと…。


アレン様はこれからリズベット様と行動を共にするとおもいましたので…。」


どうやら女執事や公爵の中では僕がリズベットと一緒に行動することはほぼ確定らしい。


確かにあんなことを言った手前、リズベットに断られなければ、


そうしようとは思っていたが…。


「リズベットはそのことを?」


「いえ、まだです。


もちろんリズベット様にもすぐにお伝えします。


私のことが嫌でしたら、そうおっしゃって頂いて構いません。


そうすれば、代わりが来ますので…。


ですが、どうか私のことを…。」


女執事は深々と頭を下げた。


そして、彼女は今にも跪かんばかりだった。


この女執事がなぜそこまでするのかはアレンには分からなかったが、


アレンはそれを受け入れようと思った。


しかし、彼女のそれに対し、


どうすれば、それを受け入れたことになるのかわからなかったアレンは、


自分の秘密を晒すことに…


()()()()()ことにした。


誠意にはそれを持って応えなければならない。



「執事のお姉さん、顔を上げてくれるか?


そしてどうかあなたの名前を教えてほしい。」



すると、ゆっくりだが、女執事は顔を上げて名前を教えてくれた。


「…カレンです。」


その様子はどこか夢見心地で少女のようで愛らしかった。


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