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14 リズベットの父

リズベットに連れてこられたのは、


やはり大きな屋敷だった。




僕は仮面とローブを外すように言われないか、


ヒヤヒヤしていたが、どうやらそんなことはないらしい。


おそらくリズベットが一緒だったからだろう。


それにしても、本当に貴族のご令嬢というやつなのだなと


リズベットの横顔を眺める。


どうしたのと聞かれたので、なんでもないと答えたら、


どこか可笑しそうに笑っていた。


とある部屋に案内され、


幾ばくかの時を過ごすと、


壮年の神経質そうな男性が女執事を従えて部屋に入ってきた。


「君がアレンか?」


「ああ。」


「リズベットを助けてくれて感謝する。」


「気にしないでほしい。


たまたまそこに居合わせたからだ。」


「しかし、エリクサーまで使ってくれたのだろう?


なにか謝礼を。」


「必要ない。」


「しかし…。」


予想していたより穏やかな印象を受けた公爵に、


僕は個人的な礼だからということで押しきり、


なんとか報酬を回避した。


そんな物をもらってしまったら、


リズベットを助けたことが、


そのためだということになってしまう気がしたからだ。


僕との話は終わった。


すると、公爵の表情が変わった。


底冷えするようなそれへと。


僕を無視して、リズベットに一方的に話し始める。


「して、リズベット。


お前に縁談の話を持ってきた。


今度は第3王子だ。」


「っ!?」


目を見開くリズベットに、公爵は続ける。


「勇者、あいつはもう駄目だ。


もう幾ばくがしか役に立たない。


お前がしっかりと()()()()()()()せいだ。」


この言葉を聞いて確信へと変わった。


「リズベット、お前に精神支配を掛けていたのは…。」


「……。」


沈黙は肯定。


俺はこの家の話に口を挟むことに決めた。


「やはりエリクサーの代金を支払っていただこう。」


「なっ!話が違う。先ほどは…。」


「気が変わった。」


僕の声は自分でも驚くほどに冷え切っていた。


「まあ、待ち給え、君が言うエリクサーを使わずにもその怪我は治ったかもしれないじゃないか。


そうなれば、私にはそれを支払う義務など…


「頭が真っ二つに割られて、それでもエリクサー以外のものでどうにかできるのか?」


…。」


「仮に代金を払えないのならば、リズベット自身をいただく。」


「そんなこと、許されるはずが…。」


「なぜだ?俺が治さなければ、リズベットは冷たい死体のままだ。


俺が治したから、こうして生きている。


それに死体のままならば、森の魔物にあらかた無くなるまで食われていたことだろう。」


「……。」


「もう一度言おう。


よしんば、魔物に食い荒らされていなくても、


あんたのもとに届いたのは死体だ。


それとも、あんたはネクロフィリアでも患っているのか?」


「そんなわけあるまい。」


「そうか、違うのならば、僕がリズベットを貰い受けることになにも問題はあるまい。


見る限り、あんたは自分の娘よりも家の方が大切なようだからな。」


「っ!?」


「黙って聞いていれば貴様っ!」


急にしゃしゃり出てきた女執事に向けて、アレンは魔力を開放する。



黙って見ていろ!



「なんだ?死んだ娘が帰ってきてそんな娘をまた利用しようとするやつのどこに愛情があるというんだ。


愛情があるからって、なにをしてもいいわけじゃない。


失礼する。行くぞ、リズベット。」


「は、はい!」


「リズベット!」


父のどこか人間らしい感情をはらんだ声に思わず言葉を失った。


「…。」


しかし、どうやら父は私が怒っているとでも、呆れているとでも思ったのだろう。


父の声はどこか優しかった。


「……もうお前をどうこうしようとは思わん。


好きな時に帰ってきてくれ。」


「…はい、お父様。」


こうして、私は父から開放された。


「よろしかったのですか?」


「……よろしいかよろしくないかで言ったら、よろしくない。」


「ならば!」


「まあ聞け。


だがな、それはこれまでの私自身の行動がだ。」


「しかしそれは!」


「ああ、確かに仕方がないことかもしれない。


鉱山の採掘量が年々減っており、あとどれくらい持つかもわからない。


王家の補助や()()勇者を頼ろうとしたこともな。」


「……。」


「しかし、私は自分自身でそれをするべきだったのだ。


娘の人としての尊厳を踏みにじったりせずにな。


愛情があれば、なにをしてもいいというわけではない…か…。


それにしても果たして俺に愛情なんてものがあってのか…。」


「…旦那様。」


「リズベットの頭は真っ二つになったのだそうだ。


これは俺がリズベットに勇者とともにあらせたからだ。


俺はこれを聞いた時に、目の前が真っ暗になった。


あの子供はな…私に大切なことを思い出させてくれたのだよ。


子供にはわかるのだな…。


いや、みんな誰もがそう思っていて口に出せなかったのかもしれないがな。」


旦那様はすまなかったと謝っていた様子だったが、


私は自分自身の不甲斐なさを自覚した。


私達はいつでも誰でも命を賭けて、


止めることができたかもしれないのにそれをしなかった。


私達こそ、リズベット様に謝り、


あの子供に感謝せねばなるまい。


「あの子供、アレンがなにか困った時には、


私達がどうにかしてやらねばな。」


「ご随意に。」


私の口から出た言葉は心からのそれだった。



「今度は名前くらい名乗らないとな。」


そんな言葉が虚空へと消える。


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