13 エリクサーを使ったことにした
「ところでリズベット、
お主はなんともないのか?」
どういうことかと尋ねる視線を送るエリアーデたち、
もしかしたら僕もそんな視線を送っていたかもしれない。
「いやの…報告ではリズベットはその…死んだと…。」
瞬間、空気が凍り、エリアーデたちは一斉にリズベットの顔を見る。
その傍ら、僕は冷や汗をダラダラとかいていた。
アリアの言葉は続く。
「スケリトルドラゴンの爪が直撃したということを聞いておる。
生死は確認して居なかったが、まあ、まず、生きてはおるまいとな。」
リズベットは口を開いた。
「アレンがエリクサーを使ってくれたのです。」
「「「っ!?」」」
周囲の驚きの反応をそのままにリズベットは続ける。
勇者たちが逃げ去ったあとすぐさまリズベットは死亡。
スケリトルドラゴンの一撃に、
頭を真っ二つに引き裂かれ、即死だった。
それから、程なくしてアレンが来て、迷いなくリズベットにエリクサーを使う。
そのおかげで、時間制限に引っかからずに生還できたということだ。
良くは知らなかったが、エリクサーの蘇生には時間制限があるらしいという新しい知識が手に入った。
「しかし、アレンなぜそんな物を…。」
「えっとまあ…。」
困ってしまったアレンはそれをくれそうな人物をなんとなく思い出す。
「この外套をくれた人が誰か大切な人に使ってやれってくれたんだ。」
「それってつまり…。」
リズベットは顔を真っ赤にしていた。
「リズベットとアレンってそんな関係だったの?」
「え、えっと…あう…。」
ミリアに追求され、真っ赤になるリズベット。
それを哀れに思った僕はリズベットに助け舟を出す。
「なにを勘違いしているのか知らないが、
リズベットは恩人だよ。」
「へ?恩人?」
「ああ、恩人だ。」
「それってどんな?」
「サラティアに初めて来たときに、道案内してくれた。」
「「「…。」」」
助け舟を出したのに、リズベットはソッポを向いてしまうし、
エリアーデたちには凄い目で見られるしで、
踏んだり蹴ったりだった。
そんな僕たちの様子をどこか微笑ましそうに、
アリアとシノブは見つめるのだった。
―
さて、説明は終わり、宿に帰って風呂だ風呂。
またどうにか貸し切りにしてもらおう。
今回は辱められなくて済んで良かった、良かった。
それじゃあ、解散、解散とアレンが話は終わったとばかりに部屋を出ていこうとすると、
阻まれてしまった。
「時にお主たちアレンがなぜあのような口調をしているのか、
知っておるか?」
アリアのその言葉に。
ちょっ!
「アレンは元々子供らしく喋るそれはそれは可愛らしい子だったのじゃが。」
懐かしいな、とどこか目を細めるアリア。
「実はな、どいつかは知らんが、
酒に酔った冒険者に言われたそうなんじゃ。
そんな話し方だと舐められてしまうぞ!とな。」
「一体誰だそんな馬鹿なことをしたのは!」
「そう!
最初は儂はなんてことをしてくれたのじゃと憤慨したものじゃが、
ふとこう思った。
舐められないように慣れない言葉遣いを、
頑張って頑張って、
時折素になりながらも、
仮面の下で顔を真っ赤にしながらも、
みんなに舐められないように、
子供っぽく見られないように頑張るアレンは…
そう!堪らない!!と!」
すると、なぜか良くわからない歓声が沸き立ち、
瞬間、僕はいつもならできないような速度でアリアの頭を引っ叩いていた。
それから、アレンが喋ると時折、やけに嬉しそうにするリズベットと雪華のメンバーを見て、
アレンはゲンナリとするのだった。
ここに誰かと来ると毎回、こんな感じで辱められるのだ。
アリアとしてはアレンの自慢をしているのだが、
当の本人にはとてもそうは感じられなかった。
―
帰り際、リズベットがシノブさんに耳打ちをしていた。
なにかはわからないが、かなり気にかかったため、
それを聞こうとしたら、
アリアに声をかけられる。
「そういえば、リズベットの父、公爵がアレンを家に寄越すように行っておったから、
明日にでも行ってくるようにのう。」
「は?それってどういうことだ。」
アリアを問い詰めているうちに、
リズベットの話は完全に終わってしまったようだ。
帰り道、どうやら僕を待っていたらしいリズベットに話を聞こうとすると、
はぐらかされてしまった。
そして、別れ際に明日の集合時刻を確認し、互いの宿へと向かったのだった。




