11 ギルドと王国の勇者に対する方針
色々な後始末を終えての帰り道、
みんなの表情はどこか穏やか?で先ほどあんな命懸けの戦闘が有ったとは思えないほどに元気だった。
そんな中、どことなく一番疲れた表情をしていたのはアレンだった。
先ほどのスケリトルドラゴンとの戦いは本当に厳しいものだった。
下手をすれば、全滅もおかしくなかった。
だから、死霊魔術を使ったのは間違いではなく、
スケリトルドラゴンの強さと【支配者の祝福】の効果を少し見誤ってしまったが、
後悔はない…ないはずだ。
みんなが生き残れたことを僕は喜びに思う。
帰りの道中、リズベットは質問攻めにあっていた。
最初は雪華のメンバーがバラバラにこぞって質問攻めにしていたのだが、
リズベットにそんな並列処理能力はなく、
当然困ってしまった。
すると、気を利かせたミリアが一人が代表して質問攻めに…
質問するのはどうかと提案した。
そしてなぜか一番無神経なエリアーデが選ばれ、代表して、
リズベットから話を聞き出していた。
どうやら今の話題はアレンにも関係があるものらしい。
なのでアレンも耳を傾けていたのだが…。
「つまり、あれはアレンの能力ということか?」
「うん、私じゃなくて、アレンの力。」
「そうなのか…まったく私のアレンはすごいな♪」
「いや、あんたのじゃないから、エリアーデ。」
「まさかこんなに凄い付与魔術を使えるだなんて♪
なあ、アレン♪早速、私にも掛けてもらえないか♪」
なぜかアレンのことを話すときだけ1オクターブくらい高い声を出すエリアーデがアレンに頼んだ。
「ん?ああ、それは無理だ。」
「な、なんで!」
驚愕するエリアーデは意地悪しないでと、
アレンに詰め寄る。
そんなことをされても無理なものは無理だ。
【支配者の祝福】は一人あたり一日一回3分という限られた時間のみ許された特権のような能力で、
親密度と口づけした位置によって、
威力が変動するというなんとも面倒な能力なのだ。
だからか、ご先祖様たちもその詳細は未だ確認できておらず、
これについては信頼を築けと言われたくらいで、
僕も教えてもらったこと以外はまだわかっていない。
そもそも、これは僕の死霊魔術の一種、一形態なので、
それに掛かっていないエリアーデに行使することは不可能だ。
それになにより…
…あんなはしたないことそう簡単には出来ない。
僕だって初めてだったんだから…。
てれり。
すると、マルタさんがどこか凄みのある笑顔を浮かべつつ、
口を開いた。
「そうよね〜、だってちゅ〜しなきゃなんだものね〜♪」
マルタの爆弾発言にアレンとリズベットを交互に見る者が続出した。
そして、天を仰ぐネア。
子供になんてことを、とリズベットに詰め寄るミリア。
エリアーデはきゅっと目を閉じて、唇を尖らせていた。
その傍ら、あらあらと微笑んでいるように見えるマルタさん。
帰り道、僕はあの戦闘よりも酷い疲れに身をやつすのだった。
―
ギルドに着くと、そこには普段通りの光景があった。
どうやらやはりと言っていいのか、
勇者のことは誰にも漏れていないらしい。
事の扱いとしては政治の領分に片足を突っ込んでいるので、
リズベットの判断で冒険者パーティー【雪華】にも、
アレンたちは詳細を伝えてはいなかった。
エリアーデたちが知っていたのは、
僕ともう一人、リズベットが南の森でスケリトルドラゴンに出会ったせいで、
はぐれてしまったということのみ。
よくよく考えてみれば、良くこんな情報だけで捜索に来てくれたものだとも思う。
僕たちはエリアーデたちにもっと感謝を覚えるべきかもしれないとアレンが再考していると、
やって来た受付嬢にギルド長がお呼びですと、案内された。
僕はみんなと一緒は辞退したかったのだが、
それは許されないらしく、しぶしぶ後ろをついて行く。
中との連絡が終わり、
部屋に案内されると、ギルド長は居なかった。
しまったと思い、誰かの後ろに隠れようとすると、
不意な浮遊感を感じた。
「あっ…。」
アレンの声と同時にひっくり返され、
犯人の良く見知った顔が眼前にうつる。
そして、そのままその豊満な胸へと…。
「アレンきゅん、アレンきゅん、アレンきゅ〜〜んっ!」
僕はそこで感情を放棄した。
アレンはみんなにどこか微笑ましげな表情で見られ、
子供特有の妙な苛立ちを感じながら、
ギルド長アリアの説明を聞いていた。
「まずはアレン、すまなかった。
儂はあのパーティーが近いうちにこうなるのではと思い、
アレンをあのパーティーに送った。」
「…。」
やっぱりか、という納得だったのだが、
どうやら絶句したとアリアは思ったのだろう、
顔を一瞬歪め、話を続ける。
冒険者ギルド、王国は勇者の最近のメッキが剥がれかけた行動を問題視しており、
近々なにかしら起こすのではと考え、
警戒していたらしい。
然らばと、長年勤めていた前任者が居なくなったのを気に、
あの外套を持ったアレンを勇者パーティーに送り込んだらしい。
アレンならば、最悪の場合、命に別状はあるまいという判断だ。
今回の依頼であのパーティーと縁を切ろうとしていたアレンだったが、
どうやら尻尾を出すまでは、色々な理由をつけて無理矢理にでも同行させようとしていたというのだから、
アレンとしては始末に負えない。
もう少し掛かるのではないかと思ったが、
案外早くにそれは起こり、それが今回の裏切りだったらしい。
現在、当の勇者は王都に護送、
聖女は再教育のため、現在は奉仕活動を行っているらしい。
そして、今回の件は、表には公表しないと決定したということを伝えられる。
エリアーデは憤慨する。
「そんな甘い措置が許されると思っているのかっ!!」
みんなも同意するが、
ミリアの表情はどこか思案げだ。
アリアはくつくつと笑う。
「くっくっく…甘い?
いやいや、雪華のリーダーよ…
なにを言っておる?
こっちの方が厳しいに決まってるじゃろ?」
「…なに?」
ギルド長は敢えて自分ではなく、秘書のシノブに説明させる。
この情報を敢えてふせて、
自由に行動させるということは、
これで信頼を回復できなければ、
つまりは力だけでなく人望すら否定することができる。
今現在、人格に問題があるとわかっているため、
王国としては、勇者カインの価値を完全に…。
どこか私怨を感じさせるように楽しそうに笑うアリアと穏やかに微笑むスレンダーなシノブさんを見て、
エリアーデとネアは顔を青くする。
アレンは大人って怖いなと純粋に思った。




