1 単発依頼、勇者パーティー
「なんてことをしてくれたのよ!
このグズ!」
使うのを禁止されていた死霊術を使ったというのに、
助けた相手に僕は罵倒されていた。
…なんでこんなことになったのだろう?
―
僕はアレン、ポーターをやっている。
ポーターとはいわゆる荷物持ちのことで、
ダンジョン、森や鉱山などの採取場の探索において、
より多くのものを持ち帰るため重宝されている存在である。
討伐に参加はしないのに、
冒険者規約により守る義務が生じるためか、
報酬も少ないし、寄生虫扱いされることもあるが、
上位の冒険者や、学もしくは良識のある人々はその存在をかなり認めている。
しかし、どうやら今回はそんな存在ではないらしい。
ギルドからの依頼の時は、やたら紳士的だったから騙された。
「おい、アレン。
さっさと解体しろよ。」
「…報酬に含まれていません。ご自分でされては?」
「は?お前なに言ってるの?
無能の分際でそんな口を聞くとかありえないから。
大体君は俺が誰なのか知っているのか?」
「ええ、まあ。」
「それならわかるだろ?しっかりとやれ。」
このまま続けても、勇者カインとの押し問答になることがわかったアレンは、
丁寧にナイフを使い、
魔物の残骸から素材を剥ぎ取り、
剥ぎ取った素材をマジックボックスへと入れる。
小柄なアレンがポーターとして働いていける重要アイテムにだ。
マジックボックスとは、空間魔法の応用で作られたもので、
かなり高価なもので一介の冒険者が持つことはできない。
しかし、なぜそんなものをアレンが持っているのかというと、
ひとえに運が良かったからに他ならない。
森を彷徨っているときに、ある人物と出会いいくつかのアイテムとともに譲り受けたのだ。
「アレン、まだ〜?」
かったるそうに言葉を投げかけるのは、
女魔術師のリズベットだ。
貴族出身で魔術学園を良い成績で卒業したと同時に、
国から勇者パーティーに推薦された一人だ。
「ねえ、アンナもそう思わない?」
「ええ、まったくです。
無能なのだから、それくらいはやってもらいたいところです。」
彼女はアンナ、
見た目は素晴らしく、清楚で、
みんなに優しい聖女さま…という触れ込みの性悪だ。
だよね、だよね、などと意気投合している。
…お前等本当に学園卒業したんだよな?
「ねえ、光秀もなにか言ってやれば?」
「…。」
「ねえってば!」
「うるさい、黙れ。
暇ならば精神修養でもしたらどうだ?」
勇者曰く、
こいつは…なんとか光秀と言って、
かなり優秀な剣士だが、
修行のこと以外考えていないらしく、
ほかの些事には一切の興味がないらしい。
採取が修行になるとでも言えば、手伝ってくれるかも知れないが、
絶対に不器用なので、やめておくことにする。
だって僕が見る限り、剣めちゃくちゃブレてるもん。
本当に力任せって感じで切られた残骸から、恨み言が聞こえてくる気もするくらいだ。
これが栄えある勇者パーティーだ。
臨時とは言え、参加できたことを…
…いや、高い報酬を貰えなければ、もう御免だ。
単発だったし、もう縁もないだろう。
…まったく前任者め、英断をしやがって。
そうと決まれば、もう少し我慢しよう。
光秀に相手にされなかったリズベットが僕を急かす。
「さっさとしろ、この無能!」
…このアマ。
…まあ、いいや。
ギルドには報告して後ほど追加報酬をいただくとしよう。
―
日が暮れてきた。
アレンが食材を探しに行っているため、
私達がテントなどの準備をしなければ、
ならなかったため、グチグチ言いながら作業を進めていた。
そんな夜営の準備をしていたときのことだった。
空からなにかが飛来した。
木々が吹き飛ばされ、夜営の準備もボロボロだ。
こんなことが一瞬でできる存在。
私は杖に手を掛け、振り向いた。
すると、光秀がその存在に斬り掛かっていた。
カンッ!
金属同士がぶつかるような音が聞こえ、
光秀は剣を確認する。
どうやら欠けてしまったようだ。
「ふむ…カイン、これは駄目だ。
撤退をすすめる。」
一撃をスケリトルドラゴンに入れて刃が通らなかったため、
すぐさま撤退をすすめた。
「駄目だ。俺たちに退却はない。
逃げるなら、一人で逃げろ。」
そう言えば、言うことを聞くとカインは確信していたのだろう。
しかし、結果は違った。
「…わかった。お前らも早めに逃げろよ。」
命を無駄にする気はないと、
剣を鞘にしまうなり、すぐさま反転して走り出した。
「なっ!?」
カインが驚いている間に光秀の姿は見えなくなった。
それからは私達はこの魔物と戦うことになった。
口で光秀を臆病者と誹りながら、
次々に魔術を使う。
聖女も支援魔術と回復魔術で勇者を支援するが、
如何せんタンクの役割に慣れているわけではないので、
どんどん苦境に立たされていく。
そんなところで魔力が切れた。
最後のポーションを煽る。
どうやら私達が間違っていたようだ。
光秀の判断は正しかった。
帰ったら、謝ろう。
そう思い、プライドを捨て、提案する。
「カイン、もう魔力が…もう駄目、撤退をっ!?」
私がその言葉を発した時には、
目の前にカインはいなかった。
キョロキョロと探すと、アンナと一緒にどこかへと駆け出していた。
「カイ〜〜〜ンっ!!!」
私が叫ぶ。
すると、振り向き、
「あとは任せた。」
そんな声が聞こえてきた気がした。
私が後ろを振り向くと、スケリトルドラゴンは手を大きく振りかぶっていた。
そこからの記憶は私にはない。