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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

絵本

作者: AI子

小さいときに読んでいた、ずっと抱きしめて話さなかった絵本があった。

タイトルも著者も覚えていないが、内容は覚えている。

友達同士のキツネとオオカミがウサギに騙されてケンカをしてしまうが、オオカミのピンチにキツネが駆け付けて二匹はまた仲よく暮らすという話である。

ずる賢いイメージのキツネが正義感があって、庇護欲かきたてられるウサギが詐欺師だなんて結構挑発的な内容だったと今にして思うが、小さいころの俺はそんなキツネが大好きだった。騙されてオオカミのことが信じられなくなったが、やっぱり友達を信じたまっすぐなキツネが。



なんで今になってそれを思い出したのかと言えば、今まさに俺がピンチに陥っているからだ。挨拶程度しか関わりのない同じクラスの女子が、俺のことが好きらしいと噂が流れ、その女子の彼氏が怒って俺をボコボコにしようと学校中を探し回っている。

そして俺は今、屋上へ続く階段の踊り廊下に出ている机と椅子が重なり合ったジャングルジムのような場所で身を潜めているというわけだ。

見つからないように生徒玄関へ向かうことも考えたが、その彼氏さんの友達も悪ノリして俺の下駄箱の前で待ち伏せしている。他の御友人たちも一緒に探し回っている。つまりは四面楚歌。

でもなんで、隠れている俺がそんなことを把握できているのかというと、正義の味方がいるからだ。


俺の正義の味方。幼馴染のハツネ。人当たりが良くて誰とでも仲良くなれるクラスの人気者。幼馴染じゃなければ口を利くこともないだろうって思う。俺とは正反対だから。

そのハツネがLINEで現状を報告してくれる。


【さっき、お前がどこ行ったか知っているかと田崎に聞かれたけれど何かあったのか?】

 から始まり、

【お前の下駄箱前に出川がいる】

 や、

【その噂、さっき聞いた。嘘なら弁明すればいいだけなんじゃないのか?】

 と流れてきた。

口下手の俺が上手く説明できる自信がない。状況が悪化するだけだと思う。ってことを伝えると、

【もしかして、お前も好きなのか?】

 と来たので、

【下の名前も知らない子だよ。とにかく、本当に何にも無いんだ。早く帰りたい。】

 と返した。



ソシャゲをしながら、ハツネからの返信を待ったが俺が送ったっきり返答がない。既読はついているので見てはいるんだろうけれど。

のそっと起き上がって、ドアの窓を見る。屋上へのドアなんてそうそう開いているものでもなくしっかりと施錠されている。開かないドアの向こうの空を見る。学食で食べたミネストローネみたいなオレンジ色が広がっている。あぁ、見たいアニメがあったのにな。録画しているからいいけど、リアタイで追っかけたかった。なーんて考えていた。

帰れないのは誰のせい?

俺のことが好きかもしれないあの子のせい?

それにキレた彼氏のせい?

言い訳出来ずに隠れている俺のせい?

たぶん、自分のせいだな。


思ったことを口に出せずに飲み込んでしまう自分の性分が恨めしい。女々しくて、なのに図体ばかりでかくなって嫌になる。そのでかい図体を丸めて机に寄り掛かる。

その時、


LINEの音が鳴って、ハツネからのものだと確認して開く。

【田崎を見つけて、ちゃんと弁明しといたよ。何にもないって言ったから。だからもう】


「帰ろう。」

声の方を見上げると、ハツネがいた。

衣替えしたての白いシャツが汗ばんでいる。ずっと探してくれていたんだろう。


「ハツネは俺の正義のヒーローだな。」

「なんだよ、それ。」

「俺が困っているときすぐに駆け付けてくれる。」

「キャプテン〇メリカよりも、スパ〇ダーマンの方が好きだな。」

「スパ〇ダーマンでもアイア〇マンでも、ハツネはかっこいいよ。」

「オオミもこれぐらいみんなと喋れたら、誤解なんて受けないのにな。」

「それは、、、精進する、、、。」

「気長に待ちましょう。」


ハツネは俺のヒーロー。

そしたら俺は、ヒロイン、なのか?








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